簡素でありながら何よりも華やかで
凛として美しい
その華の名は・・・
「リナさん(はぁと)」
朝のお食事バトル・・・・その最中にゼロスはやってきた。
「はにっ?(なに?)ひまひほはひいんははらっ!(今忙しいんだからっ)」
そのちょっとした隙にガウリィの手があたしの皿からから揚げさんを奪いとっていく。
「ぁあああっっ!おにょれっ、ガウリィ!!許さんっっ!ててぃってぃっ!!」
あたしは目にも止まらぬ速さでフォークを突き刺しエビフライを口の中へ!
「あぁっリナっ!!お前俺が最後にとってたエビフライをっ!!」
「残しとくのが悪いのよっ!!」
ふふん、あたしのから揚げさんを奪い取った罪その身に思い知るがいいわっ!
「あのぉ・・・」
「それなら俺だってなぁっこうだっ!!」
ガウリィのフォークがあたしの皿からプチトマトさんを奪い去る。
「ああぁっ!!・・うにゅうっあたしだってっ!!」
「しくしくしく・・・・・(Byゼロス)」
朝のバトルも無事に終わり(・・・テーブルが2,3個真っ二つになってい
るが、それはまぁご愛嬌というやつである)椅子に腰掛けくつろいでいるあたしの目に宿の隅で斜線を背負いいぢけているゼロスの姿がうつった。
・・・そういえばいたっけ・・・・・・・。
「ゼロス、あんたそんなところで何してんの?」
「・・・・・リナさんっ」
そのままいぢけさせてやろうかなぁと思いもしたけれど(だって
ゼロスが来るといつも厄介なことがおこる)とりあえず声をかけて
みると途端に復活して走りよってきた。
「今日はリナさんにお見せしたいものがありまして来ました」
「・・・・・・なによ?」
「ぜひ受け取って下さいっ!!」
そしてゼロスが後ろ手から取り出したのは・・・・チューリップ?
薄紅色の花びらに白いすじが入っていてかわいい。
・・・・・・・てそうじゃなくて。
「何よ、これ?」
「チューリップです♪」
・・・・・・・・いや、それはわかってるんだって。
「何であんたがこんなもの持ってきたのか聞いてるの」
「・・・え?人間の間ではこうすると聞いたんですが」
「・・・・・・・は?」
あたしはわけがわからなくてゼロスの顔をみつめる。
「やっぱりリナさんにはチューリップが一番似合うと思うんですよねぇ。薔薇のように派手ではありませんが印象的で可愛くて、まさにリナさんの花だと・・・・・・」
「ストップ、ゼロス」
あたしはますますわけのわからないことを言い始めたゼロスを手で制する。
「だから、いったいどうしてあんたがあたしにこんなものくれるわけ?」
「そう、それが一番肝心です!」
そしてゼロスはあたしの前に花を掲げて跪くと・・・告げた。
「僕と結婚して下さいっ!」
おおぅうっ!と食堂でなりゆきを見守っていた観衆の歓声があがる。
「おい、ついにあの兄ちゃん言っちまったぜ!」
「おお!」
「きゃぁっっ!!」
「わたしはじめて見たっ!!」
「リナさん、愛してます!絶対幸せにします!」
・・・・・・魔族が幸せとかいうなよ・・・・・・
「おい、どうなるんだ?」
「わからねぇなぁっ、ま、あのネェちゃん次第だがよ」
「受けるに決まってるわよっ!」
「難しいところだな」
「おしっ、じゃあ賭けるかっ!」
「俺は夢やぶれるに一口だっ!」
「わたしは絶対受け取るに5口っ!」
宿屋は一気に賭け場になった。
「リナさん?」
「・・・・・・・」
ゼロスが花を掲げたままあたしをうかがう。
「・・・・・・か」
「はい?」
「バカ~~ぁっっ!!竜破斬っ!!」
ちゅどごぉぉぉんっっ!!!!!
あたしの呪文にゼロス含め観衆が吹っ飛んだ。
その夜。
あたしは宿の自分の部屋で朝のことを思い出していた。
・・・・・・・・プロポーズ。
そう、ゼロスのプロポーズ・・・・・・・・・。
思わず呪文でフッ飛ばしちゃったけど・・・・・・・・・。
ゼロスが・・・・・・ゼロスのことが・・・・・・・嫌いなわけじゃない。
ただ・・・・・・・・・・・・・びっくりした。
あんなことあいつが言うなんて・・・・・・言われるなんて夢にも思って
いなかったから・・・・・・・・。
だから、驚いた。
・・・・・・・・・・・嬉しくなかったわけじゃ、ない。
ふと、その気配を感じた、扉の外に。
「・・・・・ゼロス」
いつもは部屋の中に勝手に現れるのに・・・・・。
「リナさん、入ってもいいですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん」
扉が開いてゼロスが入ってくる・・・・・・気配がする。
あたしはゼロスの方を見れなくてベッドに腰掛けたまま窓のほうを向いていた。
「リナさん・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・すいませんでした」
「・・・・・・・」
あたしが何も答えないでいるとゼロスが出て行こうとする。
「・・・・・・でよ」
「リナさん?」
「・・・・謝らないでよ。それとも・・・・・あれは冗談だった、の?」
「ち、違いますっ!僕は本気ですっ!本当にリナさんのこと愛してます!
・・・・リナさんが僕のことを嫌っていても・・・・・・」
「・・・・・・ちがう・・・・・違うのっ!」
あたしは・・・・。
「あたしは・・・・・ただ・・・・びっくりして」
「びっくりして・・・・?」
「・・・・・・・あたしは。・・・・・・・・あたしはゼロスのこと」
「リナさん」
ゼロスの手が肩にかかり、びくりと身を震わせる。
「こちらを・・・僕を見て下さい」
「ゼロス・・・・・」
いつものにこにこ顔は消えて怖いほど真剣な暗紫色の瞳があたしを見つめていた。
「僕はリナさんを愛してます。貴女を僕だけのものにしたい」
真っ直ぐな言葉に体があつくなる。
「あたしは・・・・・・ゼロスのこと・・・・・・」
あたしが一語ずつしゃべるのをゼロスは黙って聞いていてくれる。
「ゼロスのこと・・・・・・」
わかってる・・・自分の気持ちに嘘はつけない。
「・・・・愛してる・・・・・・きゃっ」
目の前が暗くなったと思ったらゼロスに抱きしめられていた。
「リナさんっ・・・・・嬉しいです・・・・・・嬉しいっ」
「・・・・・・あ、あたしも」
嬉しいよ、ゼロス・・・・。
あたしたちは抱き合ってしばらくお互いを感じていた。
そして、少し身を引いたゼロスがあたしを見つめながら微笑む。
「では、プロポーズ・・・受けていただけますよね?」
「それはダメ」
ずべべべぇっっ!!!!
ばきっぃぃっ!!
後ろ向きにすべって床に頭をめりこますゼロス。
・・・・・・・・痛そう。
あ、でもゼロスは魔族だから大丈夫か。
あたしがそんなことを思って眺めていると床から頭を引っこ抜いた
ゼロスがせまってきた。
「り、リナさんっ!どうしてダメ、なんですかっっ!!」
「だってぇ・・・食堂でプロポーズなんて雰囲気まるでないんだもんっ!だからダメ!!」
乙女はそういうことに厳しいんだからっ!!
「しくしくしくしくしくしく」
「やっぱりそういうところ魔族よね。今度はもっとロマンチックな場所でしてねっ♪」
「しくしくしくしく・・・・・・∞」
多大な精神的ダメージを受けたゼロスは影が薄くなっていた。
こうしてゼロスの一生一大の告白はあえなく無効にされてしまったわけ
ではあるが、リナがゼロスからもらった花をしおりにして大切に持ってい
ることは・・・・・・・・・・・
「秘密よ♪」
・・・・・・・・・ということである。