空が茜色に染まり始めるころ。
ゼロスはそっと腕の中の少女を抱きしめた。
・・・・よく眠っている。
お昼過ぎからこの丘にやってきてそれからずっとこの少女は眠り続けている。
僕という・・・およそ信頼にするというものから程遠い相手の腕の中で。
「リナさん・・・」
小声でそっと呼びかける。
少女の眠りを妨げることはしたくはないがそろそろ目覚めてもらわなければ少女の仲間が捜しにくるだろう。
・・・・この腕の中のぬくもりを・・・・放したくない・・・・
「ん・・・」
少女が身じろぎした。
「リナさん・・・・」
僕の呼びかけに閉じられていた瞼がゆっくりと開く。
徐々にのぞく美しいルビーの瞳。
「ゼロス・・・」
少女がふわり、とやわらかい微笑みを浮かべた。
どくん。
無いはずの鼓動が聞こえた。
「リナ、さん・・・・」
少女の頬に手をすべらせると素直に擦り寄ってくる。
普段の少女からは考えられない態度だ。
・・・・・・どうやら寝起きで寝ぼけているらしい・・・・・
「気持ち、いい・・・・」
どくんっ。
・・・・・。
・・・・・・罪つくりな少女。
「・・・・リナさん、寝ぼけてないで起きてください」
自分の声に少女の瞳に強い輝きがともる。
「・・・っっ!!!ゼロスっ!!あんた何やってんのよっ!!」
やはり、リナさんはこうでなくては。
まぁ、たまには素直な貴女も・・・いいですけどね。
「何笑ってんのよっ!!」
「リナさんが可愛いので(はぁと)」
少女の顔が空と同じ色に染まる。
「好きですよ、リナさん」
「・・・・っ」
「本当に、あなたが・・・好きです」
逃げ出そうとする少女を腕の中に閉じ込めて強く抱きしめる。
「リナさんは・・・?」
抵抗を諦めた少女がふい、とそっぽを向く。
・・・・耳まで茜色。
「・・・・よ」
「・・・・・・・え?」
「だぁから・・・・・・よ」
「・・・・聞こえません、リナさん」
「・・・・・。・・・・・」
「リナさん?」
「・・・・好きよっ!!」
・・・・・・嬉しい。
「嬉しいです・・・リナさん・・・」
恥ずかしがりやのあなたが・・・言ってくれたことが。
だから、もう一度貴女を抱きしめる。
貴女の存在を確かめるために・・・・・。
気がつけば地平線に夕日が隠れようとしていた。