~後編~


そっと目を開けるとゼロスの笑った顔があった。
 あたしだけに見せる・・・・『特別』な笑顔。 

「危なかったですね、リナさん」
「うん・・・」
 まわりを見れば中天にあった太陽はすでに傾き砂漠を朱に染めつつあった。
「・・・でもあんた、どうして?入れないはずじゃ・・・・」
「それがリナさんが門に吸い込まれてしばらくして突然神殿が崩れ始めたらと思いましたら結界も崩れたようでして・・・」
「・・・で、助けにきたわけ?」
「はい、きっと困ってらっしゃるだろうなぁと思いまして」
「当然よっ!いったい誰のせいでこんなことになったと思ってんのよっ!まったくえらい目にあったわっ!!」
「ほう・・・・たとえば?」
「え゛・・・」
 ま、まずひ・・・よ、余計なことを・・・
「リナさん?」
「な、な何でもないわよっ!!」
 今さらながらに自分が言ったことが思い出されて顔があつくなる。

『あたしはゼロスを愛してる』

 あ、あたしったら何てことを・・・っっ!!(///)
「そうですかぁ?」
「そ、そうよっ!」
 ゼロスが意味ありげにのぞきこんでくる。
「も、いいでしょっ!い、いい加減放してよっ!」
 いまだにゼロスの腕の中にいたあたしはいたたまれず暴れだした。
「暴れると危ないですよ、リナさん♪」
・・・・・びくともしないくせによく言うわ・・・・・・
「皆は?」
「皆さん神殿が崩れるときに脱出なさっていたようですよ」
 ゼロスの言葉に空中から下を眺めてみる。
 う~~んと・・・・・・・・・あっ!いたっっ!!
「ガウリィっ!ゼルっ!アメリアっ!!」
 あたしの言葉に合わせてゼロスが3人の目の前に移動する。
・・・・・ホント便利な奴よねぇ・・・・・・・
「リナっ!!」
「リナさんっ!無事だったんですねっ!!心配しましたっ!」
「ごめん、ごめん。皆も無事みたいで良かったわ」
 多少砂ぼこりはかかってるみたいだけど・・・
「しかし、いったい何がどうなったんだ?」
 ゼルが事情が全くわからんという表情で尋ねてくる。
「う~ん、それがねぇ・・・・」

  (不要なものは 破棄される)
 
 あの言葉が脳裏をかすめる。
「たぶん・・・神殿の存在する意味が無くなっちゃったんだと思う。それと寿命・・かな?」
 きっとあたしを裁くことの出来なかったあの神殿はその存在意義を失ったのだ。
「リナさんがまた竜破斬でも打ったのかと思ってました」
「アメリア~~」
 ・・・いや、まぁ確かに打つには打ったけどね・・・・
「何はともあれリナさんがご無事で何よりでした。吸い込まれたときはさすがにどうしようかと思いましたからね、はっはっはっ」
 お゛い・・・。
「ゼロスっ!!元はといえばあんたがこんなガセネタ持ってくるのが悪いんでしょっ!!異界黙示録の写本なんてなかったしっ!!」
 ゼロスの襟を掴んでがくがく揺さぶってやる。
 そう、一応あたしはそれらしきものが無いかどうか捜しはしたのだ。
 ・・・・・・・・・期待してたお宝も無かったし(泣)
「リ、リナさんっ・・・そんなに怒らないで下さいよ~。今回のことは僕も驚いたんですから。それに写本ならありましたよ」
「そう、ある・・・・・・・・・・・あるぅっ!?何よそれっっ!?」
 ゼロスの手に古びた本が現れる。
 こいつ・・・・いつの間に・・・・
「はい、ここに」
 にこにこ顔で・・・・・。
「渡しては・・・・・くれないんでしょうね」
「はい♪」
 そんなにはっきりくっきり言われるのも何かむかつくんだけど・・・。
 ゼロスの返答に背後のゼルの殺気がふくれあがる。
「貴様・・・・っ」
 あたしは手をあげてゼルをなだめつつゼロスに微笑む。特上の微笑み。
「ねぇ・・・ゼロスぅ?」
「リナさん・・・何だか怖いです(汗)」
 ゼロスの顔がひきつっている。
「ゼ~ロ~ス~ぅ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・大好き(はぁと)」
「・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・は?」
 紫の瞳が点になる。
 おしっ!もう一押し!!
「愛してるわ、ゼロス(はぁと)」
「・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・」
 ゼロスは完全に石化した。
「隙ありっ!!」
 あたしはゼロスが呆けているうちにその手から写本を奪い取った。
「あっ!リナさんっ!!」
「あたしが手に入れたら見てもいいって言ったわよね?」
「う゛・・・」
「ま~さ~か~嘘でした、なぁんてことは言わないわよね~?」
「・・・・・・・」
 おおっ!これはかなり困った顔してるぞっ!!
「・・・・・リナ、お前ちょっとそれは卑怯だぞ・・・」
「・・・正義じゃないです・・・・」
「うるさいわよっ!ガウリィっ!アメリアっ!!」
 ついでにゼルは沈黙を守っている。
「約束は守らないとねぇ、ゼロス」
「・・・しくしくしく」
「泣きまねしたって駄目なんだからっ!!」
 あたしは写本を奪い返されないように胸にしっかり抱いている。
「・・・・・・・・・わかりました。その代わり見るのはリナさんだけということで」
「・・・・なにっ!」
 ゼルが身を乗り出す。
「もしリナさん以外の方がご覧になったら・・・・」
「なったら?」
「ん~仕方がありません。始末させていただきます。それが僕のお仕事ですので♪」
 ・・・・・・んな明るく言うことじゃないだろ・・・・・・
「リナさんは・・・・特別です(はぁと)」
「・・・・・・。・・・・」
 嬉しいような・・・すっごく悲しいような・・・・複雑な気分だわ・・・・。
 ま、気をとりなおして。
「じゃ、ゼロスの気がかわらないうちにっ♪」
 ゼルに役立つことなら後で教えればいいんだし♪
 何しろ古い本なのでそっと破かないようにページをめくる。その途端・・・

 サラサラサラ~~~~・・・・・・・・・・

「え゛・・・」
 読もうとしたあたしの手の中で写本はどんどん塵と化して行く・・・・・!!!
「ちょっ・・・・!?」
 慌てているうちにどんどん写本は塵となって・・・・・・消えてしまった・・・
 これはいったい!?
「ゼロスっ!!!」
 思いあたる原因といえばこいつしかいないっ!!
「ぼ、僕は何もしてませんっ!本当ですっ!!」
 ジト~~~・・・
「信じてくださいっ!!!」
・・・・・・・・・・・・・・魔族が言うか、そのセリフ・・・・・・・・・
「ほんっと~にっ!何もしてないんでしょうねっ!!」
「本当ですっ!!」
「じゃあ、どうしてこんなことになったわけっ!?」
「おそらく・・・この写本は神殿と同調していたのでは。そのため神殿が崩れると同時に写本も消えたのでしょう」
「・・・・でしょう、じゃないわよっ!!」
 キレた。あたしはもう~キレた。
「ここに来るのにどんなに大変だったか!しかもあ~んな目にもあってっ!!いったい何のためにここに来たのかわかんないわよっ!!それもこれもぜ~~んぶゼロスのせいなんだからっ!!覚悟しなさいよっ!!!」
「お、おいリナ・・・」
「り、リナさん・・・」
「だ~~っっ放しなさいよっ!!!今日という今日こそ許さないんだからっ!!こらっゼロスっ!!逃げるんじゃないわよっ!!!」
 怒りまくって呪文を連発しようとするあたしをガウリィたちが慌てて押しとどめる。
 その間にゼロスは宙に浮いている。
 くそ~空間渡って逃げるつもりねっ!!
「降りてきなさいっゼロスっ!!」
「いえいえ、遠慮しておきますよ、リナさん。それより・・・」
 その余裕綽々な笑顔が腹立つのよっ!!
「ゼロスっっ!!!」
 シュンッ、と姿を消したゼロスはいきなりあたしの目の前に現れた。
 そして・・・
 耳元で囁いた。

「僕に・・・『愛』を教えて下さるんでしょう」

「な、なななななななななな!!!!」
 顔が一瞬にして朱に染まったのがわかった。
「ゼゼ、ゼロス・・・あ、あんた・・・」
 あれを聴いてたのか!?

 くすくすくす。
「またリナさんにお会いしに来ますからその時によろしくお願いしますねっ♪」
「っっ!!!!!!」
 はうぅぅぅぅっっっっ!!!!
 ゼロスの姿はそう言うと一瞬にして消えうせた。
「リナっ?」
「リナさんっ?」
 皆のあたしを呼ぶ声は耳から耳へ。
 あたしはあまりの衝撃にしばらく呆然と立ち尽くしていたのだった。



(おまけ)
 それからあたしは戦々恐々と毎日を過ごしている。
 いつゼロスがあたしに会いに来るのか・・・・そればかりを考えながら。