~中編~


『リナ=インバース 汝の罪は 魔族を愛したこと』



 その言葉はリナに信じられないほどの衝撃をもたらした。
・・・・・・魔族を・・・愛、した?
・・・・・・誰が?
・・・・・あ、たし・・・が?
「な、にを・・・・」
 何を馬鹿なことを・・・そう言いたいのに口の中はからからに渇いて言葉が出てこない。

  『リナ=インバース ここでは己の心を偽ることはできない』

「は・・何を偽るっていうのよ。別にあたしは魔族なんて・・・・」
 だが、脳裏に浮かんだ・・・・闇の影。

(リナさん・・・)
 あたしを呼ぶ・・・・・・・・

(リナさん・・・)
 形を成す闇。

・・・・・・・・・・・・・ゼロス。



 最初の出会いは偶然。
 妙に胡散臭い謎の僧侶。
 口癖は・・・・・
(それは、秘密です♪)

「あたしは、魔族なんて・・・・・・」

 二度目は・・・必然、謀られた出会い。
 あたしを利用するために現れたあいつ。
 魔族だ、て・・・・わかってた。
 わかって、利用された。
               ・・・・・・・・だってそうするしかなかった。

・・・・・・・否。
・・・・・一緒に、いたかった・・・・・・
 
 はりついた笑顔を・・・・不快に思い始めたのはいつだったろう。
 あたしだけにみせる笑顔を・・・・嬉しく思ったのは・・・?
 時折みせる魔族の・・・・冷酷な表情さえ・・・・・
 暗紫色の瞳に・・・・・心臓が脈打った・・・・

 これは・・・・
 この想いは・・・・・

「う、そ・・・・・・」
 
 庇われて・・・・守られて・・・・傷つけられて・・・・・
 
 それでも消えない・・・・この胸を貫く、この『想い』は・・・・・・

「あ、たし、は・・・・・」
 
 ゼロスを・・・・・・

「愛して、る・・・・・?」

 そう・・・愛してる。すとん、と胸に落ちてくる。
 言葉にして・・・初めて自分の想いに気がついた。

 愛してる 愛してる 愛してる 愛してる 愛してる 愛してる

 想いが体中にあふれて・・・目頭があつくなった。
「あたしはゼロスを愛してるわ」

  『認めるのだな その想いを リナ=インバースよ』

「ええ・・認めてあげるわよっ!」

  『  魔族を愛するということは 破滅を愛すること
       永劫に巡る 輪廻を断ち切り
          世界に 災いを もたらす      』

「だから、罪だって言うのっ!?」

  『その通りだ リナ=インバース』
 
「馬鹿なこと言わないでよっ!人を愛することが罪だなんて・・そんなこと・・・そんなことあるわけないでしょっ!!」

  『人 ではない 魔 だ』

「あげ足とんないでよ。あたしには人だろうと魔族だろうと関係ないわよっ!愛、ていうのは対象を決めてするもんじゃないっ!!相手がどんな奴だろうと・・はじまっちゃったら終らない、終れない・・・何よりも・・・何よりも強い想いなんだからっ!!!」

  『災いを招く  愛  だとしても』

「そんなのあたしの知ったことじゃないわよっ!!だいたいどうしてこの想いが災いを招くって断言できるのよっ!!」

  『魔族は 愛を 知らない』

「それならあたしが教えてやるわっ!!」

  『強さ のみが 至上』

「結構っ!!あたしはもっと強くなってやるわっ!!」

  『滅ぶことを 願う 人とは 反対のもの』

「そんなもの怖くないっ!!怖いのは・・・あたしがあたしでなくなること・・・この想いを・・・・殺してしまうことよっ!!!」
 そう、罪だからといってこの想いを消してしまうことはできない。
 それは自分を否定することだから。



  『リナ=インバース 汝 強き想いを持ちたる者
   生を愛し  滅びを恐れぬ  輝ける魂   』


  『汝の前に 我らの想いは あまりに 儚い 』


 リナの耳に何かが・・・崩れる音がした。
ピシ・・・
  ピシ・・・ッ
 どんどん音は大きくなって振動がリナを襲った。
「きゃっ!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・・・・
「な、何っ!?」

  『不要なるものは 破棄される』

「ちょ・・・っあたしはどうなるのよっ!?」

  『リナ=インバースよ その想いを 忘れるな』

「へっ!?」
ガーーンッッッ!!!!!
 リナの背後に天井の壁が落ちてきた。
 あ、危ないわねーーっっ!!
 危機一髪のところで避けたあたしは、ふと影を感じて見上げると・・・巨大な壁!?
 呪文が間に合わないーーっ!!

「リナさんっ!!」
「ゼロスっ!!」
 ちょっと・・・離れていただけなのに・・こんなに懐かしい・・・。
「しっかり掴まっててください。外にとびますから」
「うん・・・」
 ゼロスの腕に包まれて・・・あたしはすっごく安心していた。