47.殺戮


 旅の途中。ゼフィーリアの魔導士協会から緊急の呼び出しを受けたリナは、二人のおまけを連れていた。
 いつもならゼロスあたりに預けるのだが、丁度獣王の呼び出しでこちらも不在。
 仕方なく、近くの宿に二人を残していくことになった。
 ・・・・実家に預けるのは・・・・想像するだに恐ろしいので。

「いい、夜までには帰ってくるからいい子にしてなさい。他の街とは違って少々のことには皆驚かないだろうけど 物には限度というものがあるんだから」
 ここにゼルガディスあたりが居れば、それをお前が言うか、と冷静なツッコミが入ったことだろう。
 しかし、二人の子供は大変素直に「はい」と声をそろえて頷いた。
「じゃあ、・・・行ってくるから」
「気をつけて、リナママ」
「いってらっしゃい、まま!」
 ぎゅっと二人を抱きしめたリナは、後ろ髪をひかれつつ、出かけていった。




 途端に、笑顔を浮かべていた二人の子供が無表情になり、部屋の温度が一気に下がった。
 互いに距離を取り、干渉しないように一言も口をきかない。
 10歳(にみえる)セリスと5歳(にみえる)ルシアは、リナが居るところならばともかく、居ないところでは 果てしなく仲の悪い兄妹だった。結託するのは、父親を前にした時だけである。

 同じ部屋に居るのが嫌になったのか、セリスが立ち上がった。
 ルシアの非難するような視線が走る。二人にとってリナに言われたことは絶対なのだ。

「・・・帰ってくるまでに戻ってくれば問題ない」
「・・・ちくってやる」
「・・・お前こそ内緒で株に手出したの言ってやる」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」










 二人は揃って町の中心部に並ぶ商店街を歩いていた。
 お互いにすねに傷持つ身なので(リナに対して)、抜け駆けをしないよう二人揃って出かけることになった。

「おや、セリスちゃんにルシアちゃん。今日はママはどうしたんだい?」
 顔見知りになった雑貨屋のおばちゃんが親しげに声をかけてくる。
「ママは用事で・・・」
「おでかけなのーっ!」
「そうなのかい、お兄さんと一緒にお出かけいいね、ルシアちゃん」
「うんっ!」
 心の中では「馬鹿いうな」と思っていようと、この二人、どこまでも外面はいい。
「それじゃ、これはおばさんからのおごりだよっ!仲良くお食べ!」
「「ありがとうーっ!!」」
 ほくほくの饅頭を一つずつ渡された。
 この二人、基本的に身体的特徴は『魔族』なので食事は必要ないが、子供というのは概して母親と同じことを したがるもの。リナがおいしそうに食べているので、食事も一緒にしたい、ということらしい。

 この二人は魔族であって魔族では無い。
 ゼロスならば、人間などと同じことをすれば己の存在を危うくし、消滅する危険さえあるが、この二人にとって 絶対的な位置にあるのは、自身の存在ではなく、『リナ』なのだ。
 

「・・・つけられてるな」
「しんざんものでしょ」
 
 この街にリナたちがやってきて3日。この二人の母親が誰なのか、町の人間はよ~く知っているので、悪さを 仕掛けるような命知らずは居ない。
 二人の顔に、にっ、と笑みが浮ぶ。それはゼロスとよく似ていて・・・。

 わざと路地裏に入り込むと、人気の無いところへと歩いていく。
 後をつけている連中もだんだん距離を縮めてきているようだ。


「お兄ちゃん、お嬢ちゃん」
 前方から声をかけながら、人相の悪い男が気色の悪い笑みを浮かべて立ちふさがった。
 セリスとルシアはおびえたような表情を浮かべて後ずさる。

「おっと、こっちは行き止まりだぜ」
 背後にまわった仲間らしき人間たちが、5人壁となっていた。

「へっへっ、こりゃあ上物だな・・・二人とも」
「見ろよ、こっちの金髪。いい値で売れるぜ!」
「こっちだって見ろよ、男のくせに綺麗な顔してやがるぜ!」

 子供だと侮って暢気に近づいてくる・・・・一番近くに居た男がルシアの腕を掴んだ。

「さわるな」
 子供とは思えない低音の響き。
 不審に思う間もなく、男は飛ばされ、壁に叩きつけられた。そのまま、崩れ落ち動かなくなった。

「「「っ!?」」」
 驚きに目を見開く男たちを後目に、さっと手を振ったセリス。
 二人の首が綺麗に飛んだ。

 残るは3人。

「な・・・なんだっ!?」
 
 及び腰になった男たち。何が起こったのか訳がわからない。

「ごふっ!!」

 いつの間にか近づいていたセリスの手が、男たちの一人の腹を貫通する。
 口から血反吐を吐き、白目を剥くと、前のめりに倒れていった。
 その場に一人立つセリスの手は血で濡れ、白い肌とあいまって、恐ろしく生々しい。
 
 セリスはにやりと笑うと、その血で濡れた腕を持ち上げ、舌で舐めあげた。

「ひ・・・・っ」
 遅まきながら相手の得たいの知れなさに、残る二人が足をもつれさせながら逃げ出した。


「どこいくの?おじちゃんたち・・・まだ、あそんで♪」
 無邪気に可愛らしく笑ったルシアが、その目の前に現れる。



「うわぁぁっっっ!!!!」

 動顛した男たちはルシアに突進していく。


「・・・・ばかめ」


 男たちが肉片となって、散らばった。
















 バぁーンッ!


「セリス、ルシア。ただいまっ!」
 かなり急いで帰ってきたのか、肩で息をしているリナが、部屋で本を読んでいた二人の姿に力を抜く。
「あ、ままっ!おかえりなさいっ!」
「リナママっ!お帰りなさいっ!」
 二人がリナに駆け寄り、足元に抱きついた。
「ただいま。留守中何も無かった?」
「なにもー!」
「無かったよ?」
 交互に応える二人の頭をリナは笑顔を浮かべてよしよしと撫でてやる。
「よぉしっ!じゃ、いい子にしてたご褒美に、今日は美味しいものいっぱい食べるわよっ!」
「「わーいっvv」」

 親子三人、仲良く街に繰り出すのだった。




「・・・・・どーせ、僕は、のけ者ですよっ!・・・リナさぁぁんっ!!(号泣)」