窓からは明るい日差しが降り注ぎ、爽やかな風がカーテンを揺らしている。
熱くもなく寒くもない、絶好の日和。
「リーナさん♪どうしました、深刻な顔をして。お腹でも空きました?」
「・・・・・・」
顔をのぞきこまれたリナは、じろりとゼロスを睨んだ。
「あんたは相変わらず能天気そうな顔してるわね」
「あはは、褒めないで下さいよ。照れるじゃありませんか」
「誰が褒めとるかっ!!・・・・ったく、1週間ぶりに帰ってきたと思ったら・・・」
「そうなんですっ!1週間もリナさんにお会いできなくて、僕滅んでしまうかと思いましたっ!!」
ぎゅううっとリナの小柄な体を抱きしめた・・・いや、抱きついたゼロスだったが、すぐに体を離してしまった。
「リナさん?本当にどうかされたんですか?・・いつもだったら容赦なく吹っ飛ばされますのに」
「・・・・吹っ飛ばして欲しいわけね?」
リナの赤い瞳が危険な光を帯びる。
「いえいえ!・・・そういえば、セリスとルシアは?」
露骨に話をそらすゼロスの頬に汗が一粒流れる。芸の細かい奴なのだ。
リナはため息をつき、遊びに言っているわと告げた。
「・・・・珍しいですね。僕は嬉しいですけど」
セリスもルシアもリナにべったりで、リナの傍から自発的に離れるということが無い。
「街に用事があるらしいの。二人一緒だから大丈夫でしょ」
ゼロスは苦笑する。あの二人に限って何かがあるなんてとても考えられない。
幼くとも立派に魔族なのだから。
「それで、リナさんは何をお悩みなんですか?ご相談にのりますよ?」
「あんたが相談相手じゃ、解決するものも迷宮入りしそうだけど・・・」
「酷いです、リナさん」
「・・・でもいいわ。居ないよりましだし・・あんたに関係なくも無いし」
「え!?・・・ま、まさか・・・離婚だなんて」
「して欲しいの?」
「とんでもないっ!駄目ですっ!認めませんっ!嫌ですっ!!」
「・・・・・・・・・」
何でこんなアホな魔族になってしまったのか・・・いや、元々これが本性なのか。
「・・・違うわ、セリスとルシアのこと」
「どうかしましたか?」
離婚話ではないとわかり、ゼロスはいつもの喰えない笑顔を浮かべた。
「ゼロス、あたしが気づいて無いと思ってるの?」
「何をですか?」
「あの二人がしていること。これでもあたしは二人の母親なんですからね!」
「そして、僕の奥さんですvv」
「・・・話を逸らすんじゃないの。ねぇ、ゼロス・・・あたしだってこれまで随分酷いことしてきたし、それを後悔したりも
しないし、聖人君子で居ろなんて言う気もさらさら無いわ・・・でもね」
「一応、選んではいるみたいですよ?」
「・・・・・慣れてほしくないの・・・・・・滅ぼすことを」
「リナさん」
「あんたは魔族だからわからないだろうけど・・・怖いのよ。誰よりも強い力を持ったあの子たちだけど、絶対に負け
ないとは限らない。いつか、あたしの知らないところで・・・あの子たちが失われたら・・・あたしは」
「リナさん、大丈夫ですよ・・・セリスもルシアもリナさんを悲しませるほど愚かではありません」
「そうよね、あんたよりずっと優しいもの」
「僕だってリナさんには優しいですよ?」
「本当に?」
「本当ですっ!リナさんのためだった何でもしますよっ!世界征服でもっ!」
「いや、それは面倒だからいいわ。・・・だったら一つ頼みごとしてもいい?」
「何なりと!」
ゼロスの子気味いい返事にリナは輝くばかりの笑顔を浮かべた。
呆けるゼロス・・・ゼロスでさえ、滅多に見せてもらえないリナの全快の笑顔なのだ。
「セリスとルシア・・・ちゃんとあの二人を見捨てず導いてやって」
「・・・リナさん」
ゼロスの顔から表情が消えた。
「あんたも時々甘いわよね。あたしが気づいてないと思った?何年一緒に居ると思ってんの?」
くすり、と悪戯っぽくリナが微笑む。
「魔族だから愛情抱け、なんて無茶は言わないけど・・・、人と魔族の狭間にあるあの二人が、ちゃんと自分で選択
した道を生きていけるように。・・・これから待ち受ける運命に勝てるように」
「・・・・わかりました、お約束します。でも、心配はいらないと思いますよ」
「どうして?」
「何しろ、リナさんの子供ですから」
「・・・・褒め言葉?」
「はい、もちろんです」
笑うリナは、ゼロスの冷たい口づけをくすぐったそうに受け入れた。