この世は不可解 2


「何かの間違いでしょ」

 医者に出来ちゃった宣言をされたリナはそれでも信じていなかった。
 何しろ自覚症状というものが無いのだ。
 少々吐き気はするな~とは思うが、それほど酷いものでも無いし。
 体がちょっとだるいな~とは思うが、動けないほどでは無い。
 セリスを生んだときの辛さを思い出すと、とても同じものとは思えなかった。


「リナさんっ!駄目ですよっ!そんな危ないことしては!!」
「ママっ!そんなの僕がするよっ!!」
 だが、男ども二人はすっかり信じきっていてリナが何かする度に、やれそれは駄目だ 自分がする。そんなことは体にさわる、と煩くて仕方が無い。
 大好きな盗賊いぢめさえ好きに出来ない。


 ・・・・ストレス溜まるってーの。

 リナは日増しに凶悪な人相になっていった。
 

「リナさん」
「・・・・何よ」
「どうして、自覚無いんですか」
「あるはずないものをどうやって自覚しろっていうのよ!」
「でも、ママ。・・・ママの気じゃない気を感じるんだけど・・」
「気のせいよ」
「いや、気のせいって・・・」
 リナのこの頑なさはいったい何なのだろう。
 ゼロスとセリスは二人揃って打つ手なしで困りに困っていた。
「リナママ」
「リナさん」
「もう・・・うるさいのっ!」
 リナはばーんと席を立つと、『ついて来ないでよっ!』と釘を刺して食堂を飛び出した。

「「・・・・・はぁ」」
 深くため息をついたゼロスとセリスだった。







 食堂を飛び出したリナは一人、街中を歩いていた。
「あたしだって・・・」
 そう、リナだとて、子供ができたといわれて嬉しくないわけが無い。
 新しい命は母親になるものにとって何よりの喜びだ。
 けれど。

「どうして・・・あたしじゃないのよっ!」
 セリスの時はまさかそんなことになるなんて夢にも無かっただけに、混乱もあって…… ああ、そうなんだと納得してしまっていた。
 だが、今回は・・・。
「生むのはあたしなのに・・・」
 そのリナが最初にわからないでどうして、ゼロスやセリスに先をこされるのか。
 魔族だから?
 ・・・・そんなの理由にならない。
「・・・い・・・・悔しいっ!!」
 リナはどこまでもリナだった。


「何がそんなに悔しいのさ、お嬢さん」
「そうそう、怒ってないで笑ってみせてよ~」
 リナが振り向くと、いかにもな軽い風体の男たちが壁を背に下品な笑い声を立てていた。
 どこにでも居るゴロツキ、というやつだ。
 最近はゼロスやセリスが常にリナの周りを固めていたためそんな奴らに声を掛けられる ことも滅多に無いことになっていたのだが。

「・・・・・・ふふふふふふふ」
 リナは不気味な笑い声を発する。
 これぞ飛んで火にいる夏の虫。
 少しばかり相手に不足ありすぎる気もしないでは無いが、ストレス解消にはもってこい。
 
「・・・・覚悟しないさいよ」
 リナの笑いにゴロツキどもの顔がひきつる。
 









   ≪≪ ダメ・・・・っ!! ≫≫




「・・・・・っ!」
 リナが呪文の詠唱に入ろうとしたその瞬間。
 どこかから、そんな叫び声が響いた。
 そして・・・

「あっ!・・・・痛・・・っ!!!!!」
 いきなりお腹を抱えてうずくまり、苦痛を訴えるリナの姿にごろつきが慌てた。
 まだ何もしてないぞ、と互いに確認しながらおたおたと無意味に手足をばたつかせる。

「ちょ・・・っと、い・・・医者・・・医者呼んできて・・・っ!!!!」
「は、はいっ!!」
 リナの命令にゴロツキ達はぴしっと敬礼までしてみせた。
 逆らうと恐ろしいことになりそうだったと後で男の一人が語った。








「駄目ですよ。無理をしては・・・」
 病院に運びこまれたリナは出来ちゃった宣言された医者に釘を指されていた。
「・・・・・・・」
「不安定な時期ですから、気が立つのは仕方ないこととは思いますけれど、今は大事な 命を育てている時期なんですから・・・あなただけの体では無いんですよ」
「・・・・・はい」
 全くごもっとも。さすがのリナも反省の色が濃い。

「リナさんっ!!」
「リナママっ!!」
 そこへ駆けつけたゼロスとセリス。
 ベッドに横たわるリナをのぞきこむと、必死にどこか悪いところは無いか、大丈夫なのかと あちらこちらを探ってみる。

「・・・・・・っ(怒)」
 あまりの騒ぎようにキレたリナから鉄拳が飛んだ。