「何か・・・食欲無いのよね」
そう、ぽつりと呟かれたリナのセリフに、ゼロスとセリスの顔から血のけが引いた。
元々赤い血など一滴も流れていないはずのこの二人にして、これほどの反応。
どれほど二人が驚愕したか推し量れるだろう。
「ど、どうしたんですかっ?」
「どうしたのっママっ!?」
大好物のニョロニョロの煮込みを目の前にしてアンニュイにフォークで遊ぶリナを
大慌てで二人が囲む。
「どこか体の調子でも悪いんですかっ!?」
「ママ、寝なくちゃっ!」
双子のようにそっくりな・・・しかし、片方は立派な大人で、もう一方は10を一つか
二つばかり過ぎたころの・・・がステレオでリナに語りかける。
「リナさんの食欲が無いだなんて・・・・この世の終わりが来てもそんなセリフを聞くことは
無いと思ってましたが・・・」
「ママ、きっととんでもない病気なんだよ!早く医者にみせないと!」
「あんたたちね・・・・」
二人の言葉を黙って聴いていたリナがジト目で二人を睨んだ。
普通ならここで竜破斬の一つも放つところだが、今のリナにはそんな気もしないのか
一つ小さくため息をつくとテーブルの腕にひじをつく。
「昨日あたりから・・・変なの」
昨日・・・。
リナの単語にゼロスとセリスはいったい何があったかと思い出す。
(・・確か、いつものように獣王様に呼び出されてこきつかわれて・・・帰ってきたのは
もう日が沈んでお星様が輝くころ・・・・)
(昨日・・・ママ、いつもどおりだったけど・・・朝は5人前、昼は7人前。夜は・・・
十人前。・・・・うん、いつもどおり)
「どんなふうに変なんですか?」
思いつくことがなくゼロスはリナに問いかけた。
「ん~・・・何となく重苦しくて・・むかむかする・・・」
「他には?リナママ」
「・・・吐きそう」
「「・・・・・・っ!!」」
ゼロスとセリスは顔を見合わせる。
「それは、リナさん・・・もしかして・・・」
「もしかして、ママ・・・・」
「何よ・・・」
リナは気だるげに問いかける。
この気分の重さをどうにかしてくれるなら、このさい何でもいいと思っているのかも
しれない。
「おめでたですよっ!」
「赤ちゃんが出きたんだっ!」
「・・・・・。・・・・却下」
リナの打ち切りに沈黙がおりた。
「却下じゃないですよ!きっと間違いありませんっ!」
何故、そこまで自信満々に断言できるのか。
とりあえず宿の部屋へリナを運びベッドに寝かせたゼロスは拳を握り締める。
「妹かな~弟かな~」
セリスは、一応楽しみらしい。
このあたりほとんど魔族のセリスだったが人間であるリナに育てられただけあって
感性は人間に近い・・・・のかもしれない。
「あのね・・・あんたたちあたしを何だと思ってるの?いくらあたしでも赤ん坊が出来れば
わかるわよっ!本当にもう・・・」
「でもそれしか考えられませんし・・・だいたい、リナさん。セリスが出来たときだって
全然気づいてなかったじゃありませんか」
「あれはっいくら何だってそんなことありえるとは思ってなかったし・・・」
当時はゼロスと既成事実さえ出来ていなかったのだ。
今となっては・・・そんなものリナは心当たりがありすぎて言葉に出来ないが。
「とにかくあたしには子供なんて出来てな・・・・うっ」
リナはがばっとベッドから起き上がると口を押さえて洗面所に走る。
「どう考えてもあれは”つわり”にしか見えないんですが・・・」
「・・・・うん」
珍しく親子は意見の一致を見た。
結局。
嫌がるリナを医者へ連れて行き検査をしてみたところ。
「おめでとうございます、妊娠3ヶ月です」
医者は朗らかにゼロスとリナ、セリスに宣告した。
「・・・・マジで?」
喜びに手をとりあうゼロスとセリスに挟まれてリナだけは顔をしかめていた。