魔の記念日・・・?


 春が過ぎ、だんだんと夏へと向かうこの季節。
 かなり過ごしやすい季節では、ある。

 だけど。
 あたしにとってこの季節の・・・・この日は。
 思い出すのもむかつく日。
 何故ならば・・・・・・・









「ふざけんじゃないわよーっ!!!ゼロスっ!!!
 今日もリナの叫びとともに、どぐぁぁんんっっと破壊音が響いた。
「あんた契約の石どこにやったのよっ!!!」
「そんなこと教えるわけないじゃないですか、ははははは♪」
 ゼロスはリナの攻撃を巧みに避けながらひらひらとマントを揺らす。
 その傍では、9歳程度の子供・・・・ゼロスにそっくり・・・・・・が透明な器に入った バニラアイスをスプーンですくっていた。
「あんたねぇっ!!あたしは魔族なんてやる気は無いって言ってるでしょ!!
 契約解除する気が無いなら契約の石渡しなさいっ!!!粉々にくだいて やるからっ!!!!!」
「ダメですよ、リナさん♪僕はリナさんと一緒に魔族がしたいんですからvv」
「ふざけんなぁぁぁっっっ!!!!!」

 又、一つ山が消えた。

 
「リナママも諦めればいいのに・・・」
 セリスはアイスを口に含んで飲み込み、ぽつりと呟きを落とした。
 毎年毎年、この時期になると壮絶な夫婦喧嘩が繰り広げられる。




 だが、今年のリナはちょっと違った。




「ふ・・・・そこまであたしを魔族のままで居させようとするならこっちにだって考えが あるんだから!!」
 リナは腰に手を当て、空中に逃げたゼロスに宣言した。








「浮気してやるっ!!」




 そのままリナはレイ・ウィングを唱えるとどこかへ飛び去ってしまった。





 ひゅるるるる~~~~・・・・

 冷たい風が木の葉とともにゼロスの髪をゆらす。



「・・・・ぱ、パパ?」
 しばらく呆然としたゼロスはセリスの言葉に我にかえった。
「はっ!り、リナさんっ!!!!」
 慌てるゼロス。

 そしてゼロスも一瞬にして姿を消した。


「もう、パパもママも・・・」
 と言いつつセリスは残りのバニラアイスを食べるのだった。








「リナさんっ!!」
 近くの町にリナの気配を辿って移動してきたゼロスはリナの名前を恥ずかしげもなく 連呼する。
「リナさーーんっっ!!僕が悪かったですから戻ってきてくださいっ!!」
 その姿に街の人たちは後ろ指を指しつつ、『奥さんに逃げられたんだってよ』
 『まぁ、お気の毒さま』『暴力でもふるったんじゃないかね?』『あんな優しそうな顔で』
 『ほんと、人は見かけによらないねぇ』と好き放題言われていることなど知らない。

 
 一方のリナは、結婚して子供が居るとは思えないほど若々しく、また結婚しているから こそ艶めいた容姿に男たちの視線を集めていた。

 しかし、本人が思っていることと言えば。


 浮気してやるって出てきたけどろくな男が居ないのよね・・・・・
 どいつもゼロスより容姿は劣るし・・・・
 あんまり品もよさそうじゃ無いし・・・・
 ゼロスほど気もきかなそうだし・・・・・
 
 はぁ・・・と落胆のため息をつくリナ。
 そんな姿を勘違いした男が声をかける。

「ねぇ、君。ため息なんかついて心配ごとでもあるのかい?」
「・・・・・別に」
 ここで、あんたらがつまんないから、とは言わないリナである。
「ここらじゃ、見かけないよね?旅の途中?良ければ街の中を案内しようか?」
 (してもらうほど広くないけど)
 リナはすかさず心の中でつっこむ。
「そんな奴より、もうすぐお昼だし俺と食事にでも行かないか?」
 一人声をかけたことで、負けてなるものかと一人二人と参戦してくる。

「・・・・おごってくれる?」
 リナの言葉に男は大きく頷き、促すようにリナの背中に手をまわした。
 リナに上目遣いでねだられ、断れる男は男ではない!
「もちろん、いくらでも奢らせてもらうよ」
 きらんっと男の白い歯が光る。
 
 (変な奴・・・・・ま、いっか。ただで食べられるんだし♪)
 どこまでも商売人の血が抜けないリナだった。






 ・・・が、男が余裕の顔で笑っていられるのもそれまでだった。
 店につくなり、リナの注文した量に口をぽかん・・と広げたまま呆然としている。

「あの・・・・君が食べるわけじゃないよね?」
「あたしが食べないで誰が食べるのよ。どんどん持ってきてね~♪」
 テーブルの上はあっという間に色とりどりの皿と料理が占領した。

「さぁ、食うぞv」
 リナの目はきらきらと輝き、ナイフとフォークを手に握る。
「あ、あの・・・・」
「いっただきっま~~~すっ!!」
 隣の男の掛ける声など気にせず、リナはゴーの合図と共に食事を開始した。

 次から次へと恐るべきスピードで消えゆく料理の数、数、数。
 いったいどこに入っていくのさ?と問わずには居られない量。
 それでも、リナは。

「おっちゃーんっ!デザートにマンゴーのプリン追加ね~♪」
 まだ頼む。
 食事に誘った男はあまりのことに茫然自失。
 大きく口を開け、ただただ自分の招いた事態に放心するだけ。


「んーっ!なかなか美味しかったわね♪おっちゃん、ごちそうさまーっ!」
「おうっ!また来てくんな!姉ちゃんの食いッぷり気にいったよ!!」
「ありがとーっ!おっちゃんの料理も美味しかったわよ♪」
 世間では非常識だといわれるリナの食欲も料理人にとっては自分の料理を心ゆくまで 食べてくれる有り難いものでしかない。
 いつも、リナは料理人受けだけは非常によろしい。

「それじゃ、勘定よろしくね♪」
 にっこり可愛く笑ったリナは放心する男の手にひらひらと紙を乗せた。
 おそらく、我に返った男はそこにかかれている金額を見て再び放心するだろう。







「なーんにも無い街だと思ったけど、結構食べ物は美味しいのね♪」
 リナは上機嫌で街を歩く。
「食後の運動ってあんまり好きじゃないんだけどね・・・」
 ぽつりと呟いたリナは上機嫌だった顔をさらに笑顔にした。

「あたしの後をつけようだなんて・・・いい度胸じゃない」
 リナはくるりと振り向き、誰も居ない空間に向かって話かけた。


「ふ、さすがに我らが宿敵、リナ=インバース。だが、今日こそはその命もらいうける!」
 空間から姿を現した、適度に人形をとった魔族は腰に手をあて、リナに宣言した。


「うわ~~・・・久しぶり♪」
「・・・・・・・・・・は?」
 リナのまるでなつかしいものに出会ったようないい様に魔族は不審な顔を浮かべた。
「だって、もうここ何年かあんたみたいな魔族に会ったこと無かったんだもん!
 やっぱ魔族はそうでなくちゃ倒しがいが無いわよね!もう、ホント最近は・・・魔族のくせに 妙に過保護なやつとか、魔族のくせに”次は女の子ね♪”とか言ってくる姑とか・・・・」
 リナは言うにつれて腹が立ってきたのか、拳を握り締める。

「・・・ま、いいわ。じゃ、やりましょう♪」
 リナは上機嫌で手に魔力を集めはじめる。
 しかし。

 (何故だ?何故魔族に狙われてこんなに喜んでいるっっ!??)
 当の魔族は混乱していた。

 と、そこへ絶好(最悪?)のタイミングで現れたのは・・・・・




「リナさんに何をするんですかっ!!!!」
 リナ言うところの”超絶過保護魔族ゼロス君”だった。
 散々リナを探し回ったゼロスは漸く、僅かな魔の気配を辿ってやって来たらしい。

「僕のリナさんに危害を加えるなんて言語道・・・・ぐわぁっ!!」
「邪魔すんじゃないわよっ!!」
 ゼロスはリナの鉄拳を顔面にくらった。
「あたしが日頃たまりたまったストレスを解消しようってのにそれを邪魔するなんて それこそ言語道断!神をも恐れぬ所業と知りなさいっ!!」
 腰に手を当て、びしぃぃっとゼロスを指差す。


「おい゛・・・・」


「だいたい、あんたがあたしを嵌めたりしなかったら余計な気苦労も増えなくて 食欲も無くなったりしなかったのにっ!!」
「・・・・・いえ、十分にあると思いますが・・・」
「うるさいっ!これ以上邪魔したらホントに離婚するからねっ!!」
「そんなご無体なぁぁっっ!!!」
 ゼロスが号泣してリナにすがりついた。


「おい゛・・・お前ら・・・」

「あ・・・お待たせ♪それじゃ、ちゃっちゃとはじめましょv」
 リナは笑顔で魔族に振り向いた。









「・・・・・・・・・つまんない」
 あっさりとさよならしてしまった魔族にリナは不機嫌に呟いた。
「ははは、仕方ありませんよ。だって今のリナさんは人間だったときより魔力は強く なってますし・・・・死にませんし・・・・そのあたりの魔族では到底太刀打ちできません♪」
 ゼロスはリナと肩を並べて歩くことができて上機嫌である。
「近隣の盗賊は全部いなくなっちゃったし・・・・」
「リナさんが全部破壊しちゃいましたからね♪」
「・・・やっぱり一箇所に居るってのは性に合わないわね」
 リナは空を見上げるとぽつりと言った。

「セリスも大きくなったし・・・また旅に出ましょうか?」
「僕はリナさんがいらっしゃるなら旅だろうと腰をおちつけようとどちらでも構いませんよ」
 セリスはどうでもいいんかい?
「そう」



「じゃ・・・出発ましょう♪」
 リナは今日一番の笑顔をゼロスに見せた。