自分が”自分”だと自覚した日。
ぼくは、ママのお腹の中でまどろんでいた。
そこは暖かでとても気持ちがいい場所だった。
とくん、とくんと動くママの心臓の音は耳に心地よく、ぼくは眠りに誘われる。
『ママ・・・』
そう・・・”ママ”だった。
ぼくにとって何よりも確かなのはママだけ。
『ママ・・・』
ぼくは静かに呼びかける。
けれど、聞こえないのかママは答えてはくれない。
ぼくは、そっと目を開けて外へと意識を向かわせる。
やがてぼんやりとだったけれど瞳に外界の様子が映し出される。
まず見えたのは何か器に入った黄色いスープ・・・・・だと思う。
それに手がのびて・・・次にはずず~っとすする音。
目の前にある顔は・・・・・・・気配をさぐる。
自分とよく似た気配・・・・・・・・パパ?
何だか泣きそうな顔をしている。
『リナさぁ~~ん』
”リナさん”・・・・・・?
・・・・・・・・・ママの名前?
『ママ・・・・ママ・・・・・』
知りたくてもう一度、名前を呼んだ。
けれど届かない。
『・・・・・・・・・』
そのとき、誰かがぼくを呼んだ気がした。
『・・・・え?僕を呼んだ?』
『・・・・・・・・・』
やっぱり呼んでいる。
誰?だれ?
『今から力を送ります』
・・・・・・パパ?
思った瞬間に力が流れこんできた。
「ま、ま・・・・・・」
呼びかけとともにママの手がぼくを包み込んだ。
ああ・・・リナママの手・・・暖かい・・・・・・。
『大好き・・・・・・ママ』
『あたしも、あなたのこと愛してるわよ』
ふぎゃーっ!
「まぁまぁ、元気な男の子ですよぉ」
思いのほか難産の末、生まれた子供を産婆がリナに見せた。
「ほんと・・・・・ていうかあんたにそっくりじゃない?」
「そうですか?・・・・・・・そうですねぇ」
リナの言葉にゼロスがぽりぽりと頬をかく。
「まぁ・・・僕の分身みたいなものですからねぇ・・・・・」
「・・・・・・でもあんたの外見て作りものでしょ?」
「作りもの・・・・・・いや、でも一応本質に一番あった外見なんですが・・・・・」
「ふーん・・・・・・あっ!!見てみて!!目、開けるわよっ!」
とても子供を生んだばかりとは思えないほど元気なリナは子供の顔をのぞきこんで
きゃーきゃーと声をあげる。
「ああ・・・瞳はリナさんそっくりですね♪」
「そう?」
「はい、とっても綺麗ですvv」
「・・・・・ばーか」
ゼロスの言葉に照れたリナは子供に顔を向けた。
「名前はどうしますか?」
「・・・・もう、決めてある」
リナは子供の顔を優しく撫でる。
「この子は・・・・・・・・・・”セリス”」
それがぼくの名前。