生まれいずる悩み!? ゼロリナSide


「リナさんっ!!」
 唐突に空中より現れたゼロスはいつもの笑顔が嘘のように必死な形相をしていた。
 
 そして・・・・・・・・・・・・・。


「僕と結婚して下さいっ!!」


 セリフの内容も唐突だった。



「・・・・・・・・・聞くけど、ゼロス」
「何ですか?リナさん」
「・・・・今、どういう状況かわかってる?」
「夜、ですね」
「そうなのよ、夜も夜、草木も眠る丑三つ時。女の肌はこの時間に作られると言っても 過言ではないた~いせつな時間なわけ・・・・・・・・なのよっ!!!!

 
 
 リナの竜破斬が炸裂した。
 










 ずずず~っとリナが最後の皿のスープを飲み干したのを確認してゼロスは声を かけた。

「それでリナさん・・・昨夜のお話なんですが・・・・」
「・・・・・・?昨夜?・・・・・・・・・何かあったけ?」
 がっくし、と効果音がつきそうにゼロスの首が傾いた。

「一生一大の告白でしたのに酷いです、リナさん・・・しくしく・・・しくしくしくしく・・・・・」
「だぁ~~~っ!!男がいじいじすんじゃないわよっ!!」
 何につけ湿っぽいのは大嫌いなリナなのである。


「・・・・それでいったい突然に何なのよ?あたし魔族の酔狂に付き合ってるほど暇じゃ ないんだけど?」
「ちゃんと覚えてくださってるんじゃないですか」
 ゼロスの苦笑にリナはにっこりと微笑んだ。
「だってあたしの安眠妨害してむかついたんだもん♪」
 リナはフォークをふりつつ明るく答える。
 どうやらむかついたのは竜破斬で綺麗さっぱり片付いたらしい。
「まぁ、僕も慌てていたものですから・・・」
「確かにあんたにしては珍しく慌ててたみたいね・・・・獣王に首にでもされた?」
 それはリナの冗談だった。
「・・・・・首切り寸前ですね・・・」
 だが、ゼロスは眉をひそめ深刻に答えたのだ。
「え・・・・ホント?いや~・・・ははは、魔族でもそんなことあるんだぁ・・・・まぁ気を 落さないで強く生きてちょうだい!!んじゃ!!」
 どうやらややこしいことになりそうだと思ったリナは巻き込まれないうちにさっさと 逃げようと思ったのだが、がしっ!とゼロスに捕まれた腕にそれは叶わなかった。
「逃がしませんよ、リナさん・・・」
 暗紫色の目が本気だった。
「・・・・・わ、わかったわよ、詳しく話しを聞けばいいんでしょっ!」
「そうしていただけると助かります」
「それで?どうして獣王に首にされるようなことになったわけ?」
「まだ首になったわけじゃありません!・・・実は・・・」
「実は?」
「できちゃったみたいなんです」
「・・・・・・は?何が?」


「子供です」


「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
 しばし顔を見合わせた二人。
 おもむろにリナが口を開いた。
「・・・・え・・・と・・・・・ゼロス、て・・・・・・・女だった、の?」
 リナはこめかみに手をあて苦悩するような表情でセリフを搾り出した。
「違いますっ!!」
 勢い込んでゼロスが否定した。
「じゃあ・・・・何なのよ?」
「僕じゃなくて・・・・・・・・・・・・・リナさんにできたんです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。はい?」
 思わず、リナは尋ねかえす。
 聞き間違いであることを願いつつ。
 そんなリナにゼロスの笑顔はどこまでも不吉だった。

「リナさんに僕の子供が出来たんです♪」






「・・・・なにいぃぃっっっっっ??
 リナの絶叫が宿の食堂に木霊した。







 とりあえず、ゼロスの首根っこを捕まえて自分の部屋へと移動したリナは戦闘態勢 に入った。
「さぁ・・・さっさと白状してもらいましょうか」
 すぐにでも神滅斬が発動できるようにすでに手は印を結んでいる。
「あの、リナさん・・・・?」
 リナの鬼気迫る表情にゼロスが冷や汗なんかたらしてみせる。
 余裕の態度に見えるがかなり内心本気だったりする。
「あたし・・・全然っ!!身に覚えないんだけど・・・・その、あんたの・・・・あの・・・・ 子供が・・・・・・できる・・・・・・・・・ような・・・・・・・こと
 語尾が照れのために段々しりつぼみになっていく。
「ええ、そうなんですよね~・・・リナさん結構ガードが固くて・・・いつもいつもはぐらか されてしまって・・・リナさんのあのときの声とかの感触とかいつも想像だけで 終ってしまっ・・・て、てリナさんっ!?」
「ゼ~ロ~ス~~ぅ~~~」
「ああぁぁっっリナさんっ!!落ち着いて下さいっ落ち着いてっ!!!」
 ここで人(魔)生が終ってしまっては話が続かない。
「だったら訳わかんないこと言ってないでさっさと事情を話しなさいっ!!」
 ぎろりっ!と睨まれる。
「えーと、そもそも僕たち魔族には”子孫を残す”という概念はありません」
「それはそうよね」
 だいたい魔族というのは精神体なのである。
「ですから人間でいう生殖行為なんかも必要ないわけです」
「・・・のわりには・・・あんたあたしによく絡んでくるじゃない?」
「だってリナさんのこと愛してますからvv」
「なっ・・・!!」
「やっぱり愛している人とは1つになりたいと思うじゃありませんか♪」
「・・・・・///
 本当にこいつは魔族なのか?と思わずにはいられないセリフを連発するゼロス。
「というわけで、今回のことは僕にも晴天の霹靂でして・・・・」
「・・・・霹靂、て・・・・・・それじゃあ全然何も説明になってないじゃないっ!だいたい 何であたしにもわからない、子供が出来たなんてことがわかるのよっ?」
「リナさんの中から、ほんのかすかですが魔の気を感じます・・・・しかもそれは僕と 酷似してまして・・・・それを獣王さまがお気づきになられたんです」
「魔の気・・・て・・・そんなバカな・・・・」
「本当です。獣王さまが仰られるには・・・・僕のリナさんに対する執着が形をもって リナさんの中に入り・・・・それをリナさんが受け入れて下さったそうなんですvv」
「受け入れた・・・・て・・・・・・・・・・・・・え・・・・・えぇぇぇ・・・・っ!!!」
 呆然となったリナが目を見開いてゼロスに掴みかかった。
「いつよ!!いつ、あたしがそんなことしたって言ってんのよっ!!!全然知らない わよっっ!!!!!」
「え~・・・・いつと言われましても・・・・僕にもなんとも・・・・」
「ちょっと元々あんたのせいでしょっ!!はっきりしなさいよっ!!」
 がくがくっっ!!とゼロスの襟を掴んで前後左右にゆさぶるリナ。
 相当、動揺している。
「はっきりとおっしゃいましても・・・では」
 ぽりぽりと頬をかいていたゼロスはリナに近づき、腹部に手をあてた。
「ちょ・・・・っ!?」
 突然のことにリナの頬が朱に染まる。
「ほんの少し僕の気を、この中の子供に与えます。そうすればリナさんにもわかると 思いますから・・・・・」
 ゼロスの言葉とともにリナの腹部のあたりがほのかに熱くなる。



『・・・・・・・・・』




「・・・・・っえ!?」
 かすかに聞こえたた”何か”にリナの手が恐る恐る自分の腹部に触れる。


『ま、ま・・・・・』


「い、今・・・”まま”て・・・言った・・・・・?」
 半信半疑でゼロスの顔をうかがう。
「聞こえましたか?」
「聞こえるも何も・・・・・・・・今のって・・・・・・」
「リナさんのお腹の中にいる子供の声です♪」


「あたし、の・・・・?」
 信じられないという顔をしつつもリナは自分の腹部をみつめ、いつのまにか止めて いた息をほぅ~とついた。
「僕の、でもありますけどね♪」
「そこのところが今一納得できないとこなんだけど・・・」
 リナは大きく溜息をつき、とろけるような笑みを浮かべた。
「確かにあたしの中に・・・・・新しい命がいるみたいね」


 それは、リナが「母」を自覚した瞬間だった。



「納得していただいたところで、話は元に戻るんですが・・・」
「納得したわけじゃないわよ。子供がいるのはわかったけどどうしてゼロスの子供 なのかわかんないのよねぇ・・・・」
「あうぅぅっっリナさん酷いですぅぅぅぅぅ」
「酷いて言われても・・・・・・あんた、そこまであたしに”執着”とかしてたわけ?」
「ご存知ありませんでしたか?」
「うんっ♪」
 即答されてしまう。
 つくづく今までの行動が報われていない。
 
「それじゃあ、改めてリナさんに言います」
「ん?」
 ゼロスが笑みをおさめて、暗紫色の瞳をまっすぐにリナに向けた。



「愛しています」


「・・・・・・・・」
 ゼロスがリナの手をとり口づけた。

「リナさん、貴女だけを。何よりも・・・誰よりも・・・・・・・・この僕の存在全てをかけて」
「ゼロ・・・ス・・・・・」
 いつもならばここで”何言ってんのよっ!”とでも言ってうやむやにしてしまえるのに リナを見つめるゼロスの目はどこまでも真摯で視線を逸らすことさえ出来なかった。

「確かに僕は魔族で・・・・人間とは全く正反対の存在であり・・・この世界の滅びを 望むものです・・・・・。でも、リナさん」
「・・・・・・・・」
「何故でしょうか?貴女と会ってから僕はその望みを忘れてしまった・・・・・・いいえ、 それどころか貴女と共に生きたいとさえ願ってしまったんです」
「ゼロス・・・」
 そろそろと見上げるリナにゼロスは、微笑み・・・・・告げた。




「リナさん、僕と一緒に生きてくださいませんか」



 リナにはわかった。
 それが誤魔化しも嘘偽りもない、ゼロスの真実の言葉だと。









「生きて、あげるわよ・・・・・・・・・・一緒に」
 長い沈黙の後、リナはそう言うと輝く笑みをゼロスにみせた。
「リナさん・・・・愛しています・・・」
「・・・あたしも愛してるわ、ゼロス・・・」



 ゼロスの顔がおりてきて・・・・・・・・・・リナの唇に冷たい唇が重なった。
 けれど、冷たいはずの唇は何故か、リナの心に温かく響いた。



















「ところで、ゼロス」
「何ですか、リナさん♪」
「どうして獣王に首にされることになったわけ?」
「ええ、それが・・・『女の一人も幸せに出来ないなんてそれでも男なのっ!!
責任とらないと首にするわよっ!!』と仰いまして・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
 部下も部下なら上司も上司である。
 ”幸せ”とか堂々と口にする魔族がいていいんだろうか?
 
「これからずっとリナさんと一緒で嬉しいですvv♪」
 本当に嬉しげに顔を笑みで崩壊させるゼロスを見ながらリナは思った。



魔族の滅びも近いかもね・・・・・・・・・・・。