「はいぃぃぃぃっっっっ?!」
リナの声が家中に響いた。
「うるさいわよ、リナ」
ルナのその一言にリナは慌てて口を閉じた。
もう条件反射である。
「だ、だって・・・姉ちゃんっ!!そ、そんなの今さら・・・」
「今さら、何よ?・・・私が見たいってこれほど頼んでるのに断るわけ?」
「い゛・・・・」
その態度のどこが頼んでいるのだと思いながらもリナは姉の目つきに顔を
ひきつらせる。
ま、まずひ・・・・・
ここで嫌だと言えば、間違いなくあたしは次の瞬間、この世にいない。
本当なんだって・・・・・・・
「・・・・わ、わかりまひた・・・」
「そう、良かった。じゃあ二日後ね♪」
「ふ、二日~~ぁ?!」
「そ。もう教会には言っておいたから♪」
・・・・それって問答無用・・・・?
「ふん♪ふふん♪ふんっ♪」
鼻歌を歌いながら頭に三角頭巾をかぶり、エプロンをして窓の桟にはたきを
かけているのは・・・・・・・・魔族のゼロスである。
あたしの母親に言われて家の掃除をしているらしい。
非常にご機嫌なようだが、かなり不気味な光景である。
「セリス・・・あんたの父親・・・本当に魔族なのかしら・・・・」
にこやかに掃除をする様子はどう見ても、立場の弱い婿どのである。
「リナママがいちばんよくわかってるとおもうけど?」
「・・・・・・・・・・・」
何だかそれも嫌な気のするリナ。
「しょうがないよ。ママとのけっこんしきとってもうれしいみたいだから、パパ」
たどたどしい口調ながら図星をつくセリス。
「皆に祝福されまくって、生の気溢れまくりなのに・・・それでも喜べるあた
り謎なのよ・・・それにも増して謎なのが・・・あたし、あいつと結婚式
するのが嫌じゃないてところなのよ・・・・」
「本当ですか、リナさんっ?!」
「うげっ!聞いてたの?!」
家の掃除をしてたと思って油断してたわ・・・。
「ね、ね、僕と結婚式をあげるのがそんなに嬉しいなんて・・・・ああっ!僕は
何て幸せ者なんでしょうっ!!!」
「あんた・・・・・・魔族捨てたわね・・・・・・・・・」
「リナさん、愛してます!!」
「人の話聞いてないし・・・・・・・」
「リナさん♪リナさん♪」
はたきを投げ捨て、あたしを抱きしめるゼロス。
セリスもゼロスの行動に感化されて一緒に抱きついてくる。
「ママ♪ママぁ♪ぼくも」
こ・・・こひつら・・・・・。
あたしはひくひくとこめかみを引きつらせるのだった。
「へぇ・・・綺麗よ、リナ♪」
「あ、ありがとう姉ちゃん・・・」
あたしは教会で姉ちゃんが用意したという純白のウェディングドレスを着て
いた。
「私よりもあんたのほうが先に着ることになるとわね~」
「・・・・・・」
その言葉にちょっと恐いものがひそんでいたと思ったのはあたしの気のせい
だろうか・・・・・・・?
「ま、あんたも魔族なんて伴侶にしてこれから大変だと思うけど幸せになるの
よ、わかったわね!!」
「・・・・・うん」
・・・・・・やっぱり姉ちゃんにはゼロスが魔族だってことバレてたか・・・
それでもあたしを祝福してくれる姉ちゃんに・・・不覚にもあたしの目に涙が
浮かんだ。
「ほらっ、皆が待ってるわよっ!!」
とん、と背中を押される。
そう、いつだってあたしの背中を押して前へと進むきっかけを作ってくれたの
は姉ちゃんだった。
「姉ちゃん・・・・・・・・・・ありがとう」
「・・・・・・・・・ばか」
外であたしを待っていたのは滅多に見たことのない正装の父ちゃんだった。
「リナ、・・・・・・綺麗だな」
「・・・・・父ちゃん」
「・・・・幸せになるんだぞ」
「・・・・・うん、うん!」
そして差し出された腕にあたしの腕をからめた。
花婿の・・・ゼロスのところまで・・・・・・。
目の前の豪壮な木製の扉に緊張する。
「リナ・・・」
父ちゃんの呟くような声にあたしは決然と前を見た。
・・・・・引き返すことなんてあたしは考えない。
ひたすら前へ・・・・それがあたしだから。
ギィィィィィ・・・・・・・
扉がゆっくりと開き・・・光があふれる。
真っ直ぐに前を見つめる。
視線の先には・・・・・見慣れた後ろ姿。
そして周りに視線をやれば・・・・・・・・・・
アメリア?!
あたしの視線に気がついたアメリアがにこりと笑って手をふる。
セイルーンからここまで普通ならゆうに一週間はかかるはず。
それがここにいるということは・・・・・・姉ちゃん・・・・あたしが里帰りするって
伝えたときから計画してたな・・・・・・。
その横に・・・・ゼルガディス。
よく連絡ついたわね・・・・・・・・。
他にも見知った顔がちらほらと・・・・・て、あれは。
どこかで見たような・・・・・・・・・・・・・・!!!!
獣王っ?!それに海王もっ?!
何でいるのよっ!!!!
しかも獣王なんか満面に笑みを浮かべて手振ってるし・・・・。
・・・・・最近の魔族、て・・・・・・・・・・・・。
結婚式の緊張もどこへやら、あたしは呆れかえっていた。
そんな最近の魔族事情を考えながらもあたしと父ちゃんは粛々とバージン
ロードを歩いていく。
「リナさん・・・・」
振り返ったゼロスが感極まったようにあたしの名を囁く。
「・・・世界一・・・綺麗です・・・」
ば、馬鹿っ!!式の最中にっ!!
「・・・・・ゼロス君、リナをよろしく頼むよ」
「はい。絶対に幸せにします」
だから、あんた魔族でしょうが・・・・・・・・そりゃ嬉しくないとは
言わないけど・・・・その・・・あの・・・・・
「ママぁ~おかおあかいよぉ~」
後ろでドレスの裾を持つセリスが余計な口をはさむ。
それをひと睨みして黙らせると、父ちゃんの腕からはなれ、ゼロスの腕へと
腕を移した。
「本当に綺麗ですよ、リナさん・・・」
ちゅっ!
耳もとでささやいて頬にキスする。
「ちょ・・・っ」
「え~オホンっ。新郎新婦、そういうことは誓いの言葉の後でやるように」
新婦の言葉に客席から笑いがおこる。
くぅぅぅぅっっっゼロスの奴のせいで~~~っ!!
あたしは思いっきりゼロスの足を踏みつけてやった。
・・・・魔族だから痛みを感じないだろうけど!!
「ゼロス=メタリオム、汝、リナ=インバースを生涯妻とし、愛することを誓い
ますか?」
「はい、誓います」
「リナ=インバース、汝、ゼロス=メタリオムを生涯夫とし、愛することを誓い
ますか?」
「・・・・・・・・・はい」
これであたしとゼロスは・・・・・・・・・・正真正銘「夫婦」となった。
「では、誓いの口づけを」
・・・・・・・やっぱりやらないと駄目か・・・・・・・・
だいたい人前でこんな恥ずかしいこといったい誰がやりはじめたのよっ!!
絶対、張り倒してやるわっ!!
「リナさん」
何だかいつもより5割増しでにこにこ顔だし、ゼロス。
「・・・・・・ゼロス、頬じゃ・・・駄目?」
「今更、ですよ。リナさん♪僕たちもう、子供までいるんですよ?」
いや・・・そりゃあそうなんだけど・・・・・その・・・・・・・
「相変わらずリナさん、照れ屋さんですね。そこがいいんですけど」
「う、うるさいわよっ!」
「オホンっ!!」
再び、神父がせきばらい。
「それでは、リナさん」
「う・・・わかったわよ・・・」
そっと目を閉じるとゼロスの気配を感じる。
・・・・やわらかに触れるようにされた口づけ・・・・・・・。
パンっ!!パパパパンッッッ!!!
「な、なななな何っっ!!???」
突然に響いた破裂音にあたしは式の途中であることも忘れて叫んでしま
った。
「リナ、おめでとう!!」
「リナさんっ!!おめでとうございますっ!!」
「おめでとうっ!!!」
皆の祝いの言葉、そして手には何故かクラッカー・・・・・。
姉ちゃんは・・・・・・導火線に火をつけ耳を押さえ・・・・・・・・・・導火線?!
ヒュ~~っバーンっ!!パパパパンッッ!!!
盛大な花火があがる。
ギャラリーからは『た~まや~』なんて声も聞こえる。
・・・・・・・あの、ここ一応教会の中なんだけど・・・・神父目まわしてるし・・・
「やっぱりこういう式は派手にしなくちゃねっ!!」
・・・と姉ちゃん。
「ふむ、では私も・・・」
姉ちゃんの言葉に肯いた獣王が・・・教会の屋根を吹き飛ばした。
「それじゃあ、私も」
海王まで・・・・・どこから引っ張り出したか特大シャワーが街を襲った。
そして、雨上がりの晴れた空には虹がかかっていた。
「いや~綺麗ですね~~」
ほのぼのと見上げるゼロス。
「きれい、きれい♪」
唱和するセリス。
・・・・・・・・・・・・もう、どうにでもして・・・・・・・・・・・・
頭を押さえて脱力した。
あたしはもう何も言えなかった・・・・(このあたしが!!)
こうしてハチャメチャ結婚式は幕を閉じたのであった。