今、あたしはゼフィーリアの王宮に来ていた。
え?何でそんなところに居るのかって?
そんなの決まってるじゃない。
女王陛下にお呼び出しを受けたからよ。
そう、こんな風に・・・・
’リナちゃん、帰ってきたなら顔見せなさい♪’
・・・・・ホントに、こんな感じで。
全くアメリアというフィルさんといい、あたしの周りの王族てやつは妙に
フレンドリーだ。
別に悪いとは言わないが・・・・何か別の意味で疲れるのよね。
はふぅ・・・・
あたしは顎に手をついてため息をついた。
早く陛下の仕事終わんないかしら・・・・・・
待合室に通されて待つこと一時間。
昔のあたしだったら確実に竜破斬の一発もかましていただろう。
おおっ!リナちゃんっエライっ!!!
・・・・と、それよりもあたしには2つ心配事があった。
一つは実家に残してきたゼロスとセリスのことだ。
セリスはすっかり母ちゃんになついて、後をついてまわっては何やら話を
ねだっている。
ゼロスは・・・相変わらずにこにこ笑顔を顔に浮かべてその光景を眺めて
いたりする。(気分はすっかり楽隠居・笑)
通りがかりの一般人が見れば幸せそうなほのぼの~とした団欒の一風景
に見えるだろう。しかし。
しかし、である。
セリスが母ちゃんにねだっている話というのは、あたしの幼いころの昔話や
赤面ものの失敗談ばかり。
(そんな話聞いてどうすんのよ、セリス・・・・)
それを眺めているのは「幸せ団欒」などとはほど遠いところにいる魔族の
ゼロスである。
その笑顔の下でいったい何を考えているのやら・・・・・
(実はゼロスがリナの昔話を聞いて単純に喜んでいただけということをリナは
知らない・笑)
そして、二つめ!
あたしの「結婚子持ち」事件に多大なる衝撃(笑劇じゃないわよ!)を受けた
父ちゃんのことだ。
確かに父ちゃんはあたしのことを誰よりも可愛がっていて旅に出るときも最後
まで反対していた(というか唯一反対していた)。
しかし、一度こうと決めたらテコでも動かない頑固さは筋金入り。
そして結構、昔かたぎな人なのだ。
やっぱり突然はマズかったかもしんない・・・・・・・
朝食で顔をあわせた時は、夜よりは立ち直っていたけどゼロスとは視線を
合わせようとしなかったもんね・・・・。
まぁ、ゼロスと見つめ合われても困るもんがあるけど・・・・・。
ついでにゼロスは元から他人などアウトオブ眼中だ。
うみゅ~~っ、どうやって納得してもらおうかしら・・・・・。
ドバタむっっ!!
「リナちゃんっ!!」
いきなり扉が観音開きに開け放たれ、走ってきた人影に抱きしめられる。
「会いたかったわ!!元気だったっ?」
「ぐ・・ぐるじぃ・・・」
ぎゅうぎゅう抱きしめられてあたしは酸欠寸前だった。
「あらっ、ごめんなさい!私としたことが!」
「・・・い、いえ」
「もうっ、リナちゃんたら大きくなってっ!!」
「陛下はお変わりなく元気そうで・・・」
マヂで全然変わってないでやんの・・・・・
ある意味この人も化け物よね・・・・・
「リナちゃんっ!結婚して子供もいるんですって?」
ぶほっ!!
あたしは陛下の言葉に飲みかけていたお茶を吹き出す。
「な、なんでご存知なんですか!?」
「昨日、ルナから聞いたの」
いったい、いつの間に・・・・・・
「なかなかカッコイイ旦那さんなんですってね!長生きできそうな人で安心
したってルナが言ってたわよ」
ぎくぅぅっっっ!!
長生きって・・・・・長生きって・・・・・・
「確かに普通の人だったら、まず間違いなくリナちゃんよりは早死にする
だろうしね」
何だかすんごく失礼なこと言われてる気がするのはあたしの気の
せいだろうか・・・・・?
「しかも神官だって?・・・・・・神職者をたぶらかしちゃうなんて罪な女ねっ
リナちゃんっ♪」
めきしぃぃっっ!!
テーブルに突っ伏す。
う゛・・・・痛ひ・・・・・(涙)
「・・・たぶらかすって・・・・・」
姉ちゃんいったい陛下にどんな報告をしたんだろう?(汗)
「旦那さんと子供の名前はなんて言うの?」
「ゼ、ゼロスとセリス、て言います・・・・」
あたしは果てしない疲れの中で搾り出すように声を出す。
しかし、次の質問であたしは凍りついた。
「セリス君は何歳になるのかしら?」
「はい、一応5・・・・・・・・あぁぁっっ!!!」
あたしは頭を抱えて立ち上がり、陛下は目をパチクリさせている。
た、大変なことに気づいてしまったというか、忘れてた!!!
ま、まずひ~~~っっ!!
「へ、陛下!すみませんが、あたしちょっと失礼しますっ!!」
あたしは陛下の返事も聞かずに駆け出した。
まずい、まずい、まずい、まずい~~~っっ!!!
どうか間に合いますように~~っ!!
あたしはありとあらゆる神に祈った。
ドドドドドッッッ・・・・キィィィッッ!キュルルルッッ~~!!
粉塵を巻き上げ、30分の道のりをわずか5分で駆け抜けたあたしは
自分の家の前にいた。
はぁっ、はぁっ・・・ま、間に合った・・・??
バタンっ!!
扉を開く。
目の前には母ちゃんとセリス、ゼロスと・・・父ちゃん!?がいた。
「セリス君、何歳になるの?」
母ちゃんがそうセリスに聞いていた。
あぁぁぁっっ!!!
「え、とね、5歳です!!」
あぁぁぁぁぁっっっっ!!!!
答えちゃったぁぁっっっ!!!!
「そう、5さいになるの~」
「・・・・・・・・・ちょっと待て」
父ちゃんが口を開いた。
「それはおかしいだろ。5歳なわけないだろうが、リナが旅に出たのが5年前
なんだぞ」
あぁぁぁぁぁっっ気づいちゃったぁぁぁっっ!!!
「でもリナママがぼくはとしをきかれたら5さいっていいなさいていったの~」
「・・・・ですってね、リナ。どういうことかしら?」
背後から姉ちゃんの声がした。
ぎ、ぎぎ・・・・
「ね、姉ちゃん・・・・・」
「リナ、どういうことなんだ?」
「と、父ちゃん・・・・・」
「リナ、あんた旅に出る前からゼロスさんと出来てたわけ?」
「んなわけあるか~いぃっっ!!」
・・・・はっ!
それを否定しちゃったらホントのこと話すしかないじゃないか~~!
「「リナ」」
父ちゃんと姉ちゃんに両端から問い詰められる。
うう゛・・・・・。
そんな理由なんか言えるわけないじゃないよっ!!!
ゼロスが魔族だってバレちゃうっ!!
「セリス君、本当は何歳なのかしら?」
そんなあたしの苦しみも知らず母ちゃんがのほほんと聞いてくれたり
している・・・・・(涙)。
「セリス、いっさいなの!」
「せ、セリスっっ!!」
あたしは思わず叫んでしまう。
ぽん。
肩に誰かの手がかかった。
・・・・・・・てゼロス?
今まで見物してた奴が何で隣にいるのよ。
「リナさん、嘘はいけませんよ」
にこにこ顔で言い放つ。
だ~~~っ!!ゼロスっ!!あんたのせいでしょうが!!
あんたのぉぉぉっっ!!!!
「一歳でこれは・・・・ちょっと育ちすぎじゃない?ねぇ、リナ」
・・・・・・知ってるくせにぃぃぃ。
絶対に姉ちゃん面白がってる・・・しくしくしく。
「リナ、どういうことなんだ?」
「あ~~う~~~・・・・・・」
父ちゃんの言葉にあたしは意味不明な返事をする。
ゼロスの奴が全ての元凶なのになんであたしがこんなに苦労しなくちゃ
いけないのよぉぉ~~!!
そんな怒り心頭なあたしの方へセリスがとことこ歩いてきた。
「ママぁ、おやくそくやぶっちゃった・・・・ごめんなさい」
セリスがあたし譲りの赤い瞳で見上げてくる。
はうっ。
「い、いいのよ。セリス」
たとえ外見はゼロスに瓜二つでも性格は真っ当なセリス。
そんなセリスを叱れるわけがない。
仕方ない・・・・・本当のことを・・・・・・
「別に何歳だと構わないでしょう、セリス君はセリス君なんだから」
「か、母ちゃん・・・・・」
「ほら、お父さんだって孫が出来て嬉しいでしょう?」
「・・・・う゛、そりゃあ・・・・」
出た!必殺孫攻撃!!
「ほぉら、セリス君。おじいちゃんに高い高いしてもらいなさ~い♪」
「は~い♪おじいちゃん、高い高い~」
セリスの言葉にゆるみそうになる顔を必死に耐えている父ちゃん・・・。
「母は強しですね、リナさん♪」
「あんたね・・・・・・」
「いやぁ、リナさんの狼狽なんていう負の感情は滅多にお目にかかれません
からね~~、ごちそうさまでした」
食事してたんかい・・・・・・・・・・・
いつもならここで鉄拳制裁でも加えるところだがあたしはもうそんな力も
残ってないほど疲れきっていた。
ホントにあたしどうして帰って来ちゃったんだろう・・・・・・・・・。
「一家団欒の図」を見ながら力なく肩を落とすリナだった。
リナの苦悩はまだまだ続きそうである(笑)。