徒歩であと一日。
それがあたしの故郷ゼフィール・シティまでの距離だった。
つまり、目と鼻の先というわけ。
そして今、あたしは街道のわきで身長に違いはあるけれど瓜二つの顔に
心からの警告を言い聞かせていた。
「いい、ゼロス。間違っても姉ちゃんに逆らっちゃ駄目よ!」
「・・・・・・どうしてですか?」
あたしの言葉にゼロスは暗紫色の瞳をのぞかせて尋ねた。
「どうしてもっ!!」
たとえあんたと言えども姉ちゃんにかかったら即混沌行きよ!!
あたしの鬼気迫る顔に恐れをなしたかゼロスがこくこくと首を縦にふる。
よし、ゼロスのほうはこれでいいわね。
「セリス」
「はい、ママ?」
ゼロスの隣で大人しく自分が呼ばれるのを待っていたらしいセリスは紅色の
瞳をきらきらさせてあたしを見上げてくる。
「ルナ姉ちゃんに会ったら何て呼ぶか覚えてる?」
「うんっ!『はじめまして、ルナおねえちゃん』・・・・でしょ?」
「そうっ!!間違っても・・・間違ってもっっ『おばちゃん』なんて言ったら駄目だからねっっ!!」
「は~~い♪」
お気楽に返事をするセリス。
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
まぁ、ルナ姉ちゃんに会ったことがないから無理もないとは思うけど。
セリスがそんなセリフを言おうものなら・・・あたし、殺されるかも。
「とにかく二人ともくれぐれも騒ぎを起こさないようにっっ!!」
『はいっ!!』
ふぅぅぅぅぅっっっ。
ホント、返事だけはいいのよね。
変わってない。
それが5年ぶりに帰る故郷への第一印象だった。
「ほう、ここがリナさんの故郷ですか」
ゼロスが手を目の上にかざしてあたりを見回している。
「そうよ」
「ここにセリスのおじいちゃんとおばあちゃんがいるの?」
「そうよ、ということであたしの家に行きましょ!」
木製の扉の前に立ったあたしは緊張に手が震えていた。
「リナさん?」
きっと姉ちゃんはバイトでいないはず・・・とは思うんだけど・・・。
「ママぁ?」
いないとは・・・・・・・・・
「あんた、家の前で何やってんの?」
「うきゃぁぁぁっっっ!!!!」
どげしっっっ
突然後ろからかかった声に驚き叫んだあたしに容赦なく姉ちゃんの手刀が
お見舞いされた。
い、いたひ・・・。
目の隅に一歩ひくゼロスとセリスの姿。
「る、ルナ姉ちゃん・・・ど、どうして?」
「私が家にいちゃ悪いの?」
「い、いえっ!!」
ふるふると首を横に振る。
・・・ああ、勢いつきすぎて飛んでいきそう・・・・
「で、でもバイトがあるんじゃ・・・・?」
「今日は定休日、買い物して帰ってみたらあんたが扉の前で石像になってるし。
何してんの?」
「あ・・・と・・・実は報告することがあって・・・」
「ふ~ん」
姉ちゃんがゼロスとセリスに目をむける。
「ま、だったらさっさと入りなさい。父さんも母さんもいるはずよ」
「・・・・・うん」
姉ちゃんの言葉にあたしたちは家に入ったのだった。
「リナ、お帰りなさいっ!」
台所でお昼の用意をしていたらしい母さんがまずはあたしを見つけて
声をかけた。
「ただいま!・・・・・父さんは?」
「庭で釣り道具の手入れしてると思うわよ、もうすぐお昼だから戻ってくるから
後ろの二人を紹介してくれるかしら?」
あの・・・目がきらきらしてるんですけど。
「え、と、あたしの・・・夫(←小声)のゼロスと・・・子供のセリス」
「どうも、ゼロスと言います。リナさんのお母上とお会いできて光栄です」
いつものにこにこ顔でソツなく挨拶するゼロス。
「私もお会いできて嬉しいわっ!!」
「・・・・セリスも」
あたしの言葉にマントに隠れていたセリスが出てくる。
「ぼく、セリスです・・・・・・・・・・お、おばあちゃん、こんにちは」
「まぁっ(はぁと)、こんにちは。セリス君はパパにそっくりね~。それにしても
リナ、結婚したのなら便りの一つも寄越しなさいな、急に帰ってきても何の用意も
出来ないじゃない!!」
「え、別に・・・・<」
「別にじゃありません!リナをお嫁さんにもらってくれるなんて奇特な方はそうは
いないのよっ!」
・・・・・・おい゛。
「しかもこんなハンサムさんっ!!」
いや~照れちゃいます・・・・とゼロス。
ガタタタッッッ!!
背後で何かが崩れる音がして振り向くと父さんが呆然と立っていた。
「リナ・・・け、結婚・・・し、ただと・・・・!?」
「うん・・・・」
「し、しかも子供まで・・・・・・・!?」
「うん」
バタ。
あ・・・・・・・・・倒れた。
「まぁ、あなたったら!そんな倒れるほど喜ぶなんて!!」
う~ん・・・・今のはどっちかというとショックで倒れたんだと思うけど・・・。
「リナ、ゼロスさんもセリスくんも長旅で疲れてるでしょ。部屋に案内してあげなさい」
「うん、じゃあゼロス、セリスこっちに来て」
父さんのことは取り敢えず母さんにまかせることにした。
トントン。
部屋で旅装を解いていたあたしたちにノックの音が聞こえた。
「はい?」
「リナ、入るわよ」
言い切るところがルナ姉ちゃんらしい。
「さて、リナ。お帰り」
「あ、うん。ただいま」
「ゼロスさん、セリス君。はじめまして、リナの姉のルナです」
「はじめまして、ルナさんのお噂はリナさんからかねがね」
「いったいどんな噂かしら」
ひぃぃぃぃっっゼロスっ余計なことを言うんじゃないっ!!
「こ、こんにちは、ルナおねえちゃん」
おしっ!教えたとおりの返事が出来たわね!!
あたしはセリスににっこりと笑いかけてあげる。
「ふ~ん・・・ところでリナ」
ぎくぅぅぅっっっ。
「な、なんでせう・・・?(滝汗)」
「ゼロス、ていう名前どこかで聞いたことがあるんだけど・・・」
「き、きき気のせいじゃ・・・」
「確か獣王の部下にそんな名前の神官がいたと思うんだけど?」
ば、ばれてる、完璧ばれてる・・・・(滝汗)。
「ま、父さんにはばれないようにしなさいよ」
「・・・・・・・・・・・・・はい゛」
それだけ言うと姉ちゃんは部屋から出て行った。
・・・・・絶対あたしが不死になってるだなんて言えない(汗)。
はふぅぅぅぅ。
「いやぁ、さすがリナさんのお姉さんですねぇ。セリス、滅ぼされないよう
に気をつけましょう」
「はい、パパ」
あんたらね~・・・・。
「ママ~おなかすいたぁ」
ずる。
なんだかこのマイペースなところ・・・・誰に似たんだか・・・・・。
「はいはい、じゃ下に行きましょ」
階下に下りるといったい今の時間でどうやって作ったのか
テーブル一杯に料理の皿が並んでいた。
「さぁ、たくさん食べてねっ!!」
母さんの言葉にあたしたちは一斉に戦闘体勢に入った。
「セリスっ!好き嫌いしないで食べなさいっ!」
「あっ・・・それあたしが狙ってたやつなのに~っゼロスっ!!」
「やっぱり(もぐもぐ)・・おふくろの味が(んぐっ)一番よねっ!」
「セリス、口のはしにソースがついてるわよっ!」
「リナさんもほっぺたにご飯つぶがついてますよ」
ぺろ。
ぱく。
「・・・・なななな、何すんのよっ!!」
「とっても美味しかったです」
かぁぁっっ。
母さんや姉ちゃん(父さんはいない)の前で何をやらかす、この・・・
バカァァッッ!!!!
「ラブラブね、リナ」
「愛されてるわね~、リナ」
「いや~ははは」
・・・・・うう、もう嫌かも・・・・・しくしく・・・・・・
「ママ~、は~い」
ちょっぴし斜線を背負うあたしにセリスがプリンを食べさせてくれる。
「セリス・・・・」
「ママ、げんきだして」
ああっ!あたしにはあんただけよっ、セリス!!
思わずきゅっぅと抱きしめる。
「リナさん、僕も僕も」
何かほざいているゼロスの口においもを押し込んで黙らせる。
まったく・・・・・とんだ里帰りである。