サワサワ・・・・サワサワ・・・・
開けた窓からカーテンを揺らしてさわやかな風が入ってくる。
ここはゼフィーリアに続く街道筋の宿屋。
季節は春を通り過ぎ、夏を目前にしていた。
はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
そんなさわやかな天気に陰気なため息を漏らしたのはあたし、リナ=インバース・・・いや、今は・・・。
ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっ。
元凶の顔を思い浮かべてしまってますます深いため息をついてしまった。
「ママ~、リナママぁどうしたのぉ?」
あたしに声をかけてきたのは5歳程度の男の子。
あたしの息子、セリスだ。
さらさらの黒髪とあたしゆずりの紅い瞳が可愛らしい。
ただ父親と瓜二つていうのは考え物だけど。
「ん、何でもないのよ。セリスは心配しなくていいのよ。・・ところで、あの・・パパ・・・は?」
どうにもあいつをパパなんて呼ぶのは・・・顔がひきつる。
「パパはねぇおしごとがはいったて!」
「仕事?・・・・まさかお宝独り占めするつもりじゃ・・・」
あたしに黙って行ったところが怪しい。
「セリス・・・どこに行くか聞いてない?」
「きいてないよ。でもパパがどこにいるかはわかるよ」
「本当!そこにママを連れて行って」
「うんっ!」
頷くとセリスはあたしの手を握った。
次の瞬間あたしたち親子の姿は部屋から消えていた。
まず目に写ったのは、ところどころが崩れ落ち蔦のはっている白い神殿だった。ひっそりとしていて人影はない。
う~む・・・思いッきし盗賊のあじと、て感じね。
「おっし!セリス、中に入るわよっ!」
「はい、ママ!」
私とセリスは勢い良く駆け出した。
「ライティングっ!」
薄暗い部屋に明かりがともる。
「うきゃっ!火炎球!」
どごぉぉぉんんっっっ
突然、足をつかまれてついつい火炎球を唱えてしまった。てへ(はぁと)
う・・ぅ・・
あ、なんかうめいてる。
あ、あたしは悪くないかんね!乙女の足に勝手に触るのが悪いのよっ!
・・・・・・・しょうがないわねぇ。
「治癒!」
「う、あ・・・た、助けてくれ・・・・」
むさくるしく剃りあがった頭、汚れた皮の服、おまけに近くにシミターなんぞが転がっているのを見ると・・・ここをねじろにしている盗賊のようだった。
見ればそこかしこに同じような奴がぴくぴくしている。
しかし心やさしいあたし。一応話しくらいは聞いてあげることにした。
「ど、どうしたのよいったい?」
「へ、変な・・神官の格好をした奴が・・・いきなり・・・・」
おっ!やっぱし!
「それでそいつはどこに行ったの?」
「奥の・・・・宝物庫に・・・・」
宝物、という言葉にリナの目がきらん☆と輝いた。
「セリス!行くわよっ!」
まだ小さいセリスを脇に抱えると奥に向かって走り出す。
「お、俺は・・・・」
当然、無視である。
どどどどどどどどど・・・きゅきゅきゅきゅきゅぅぅぅぅぅっっっっ!!!
粉塵をあげる勢いで(いや、ほんとにあがっていたかも)奥の部屋にたどり着い
リナはそこに見覚えのある後姿を見つけた。
「見つけたわよっ、ゼロスっ!!」
「!り、リナさんっ!?何故ここへ!?」
慌てて振り向いたのはご存知謎の神官、いやいや獣神官ゼロスである。
そして今はあたしの・・・・・・・・・・・『夫』だったりする。
あ~なんか照れるな・・・・・・・・・・・
「ふっふっふっ、お宝独り占めしようったってそうは問屋がおろさないんだからっ!」
「独り占め、て・・・・」
「だってあんたあたしのこと誘わなかったじゃない」
セリスを抱えなおす。
「セリスがいなかったらまんまと出し抜かれるところだったわ!」
そこであたしは褒めるかわりにセリスの頬にキスしてあげた。
「あぁっっ!ずるいですよっ、リナさんっ!!セリスばっかりっ!!」
「なに言ってんのよっ!セリスのほうがゼロスよりよっぽど役に立つわよっ!」
「ああっっひどいですリナさんっっ!!」
「ママにも」
その時腕の中で大人しくしていたセリスがリナの首に手をまわすとちゅっ、と頬に
キスをした。
「ああっっっ!セリスっっ!僕のリナさんに何をするんですかっ!!」
「だ、誰があんたのよっ!」
錫丈をぶんぶん振り回して抗議するゼロスにリナは顔を真っ赤にしている。
「だ、だいたい僕が一人で出かけなくてはいけなかったのはリナさんが悪いんですよ!」
「あたしの何が悪いってんのよっ!」
神滅斬でぶった切るわよ。
「リナさんが昨日の夜、僕を宿から追い出すのが悪いんです!!」
「そ、そんなのあんたがふざけたこと言い出すからじゃないっ!!」
「親子三人で川の字に寝たいっていうののどこがふざけたことだって言うんですかっ!!」
「隅から隅までよっ!だいたいあんた寝る必要なんてこれっぽっちも無いじゃないっ!」
「そんなこと言ったらリナさんだって不死になったんですから寝る必要ないじゃないですか!」
「あ~~っっっ人がせっかく忘れようとしてたこと思い出させたわねっ!!もう
許さないんだからっっ!!!」
そう、あたしはゼロスの計略によりまんまと不死の体にされてしまったのだ。
その時の悲しみ(というより怒り)は近隣の山を5,6個ぶち壊したくらいじゃ収ま
らなかったほど・・・・・。
あ・・・・何か思い出したらますます腹たってきたわ!
「ほぉぅぅぅぅいいでしょう、僕もリナさんには言いたいことがたくさんあるんですからっ!」
ゼロスがにこ目をぴくぴくさせている。
「あのぉ・・・」
そのときゼロスの後ろのほうから遠慮がちに声がかかった。
『あぁ?』
ゼロスとリナ二人の殺意のこもった瞳に盗賊の頭らしいアイパッチをした男は
「い、いえ何でもないです」と慌てて口を閉じた。
そうだろう、命は大切にしなくてはいけない。
「ゼロス、覚悟しなさいよっ!青魔烈弾破っ!!」
ちゅどぉぉぉぉんんんんっっっっ
「あああっ本気できましたねっ!!」
「ふふんっ、獣王牙操弾っ!」
「そんなのじゃ僕にはききませんよっ!」
「・・・・と思わせて竜破斬っっ!!」
どがしゃぁぁぁぁっっっ!!!!!
「ああっ卑怯ですよっ、リナさんっ!」
「あんたに言われたくないわよっ!!」
その時、くいくいとリナの裾をひく小さな手。
「んっ、セリス?どうしたの?ちょっと今手がはなせないんだけど」
「ママ、おなかすいたぁ~」
ずしゃぁぁっっっ
ゼロスとリナが盛大にずっこけた。
「セリス、魔族でありながらお腹が空いたなど・・・・・・・リナさんに似たんですね」
「なによっ!あんただって魔族のくせに食事してるじゃないっ!」
「ママぁ、ふうふげんかはだめなんだよぉ」
「・・・・・・・セリス、そんな言葉誰に聞いたの」
再び口をはさんだセリスにリナは頭を抱えた。
「パパもママいじめちゃだめぇ」
「どちらかと言えば僕のほうがいじめられてたんですが・・・まぁ僕も大人げなかっ
たです。ごめんなさい、リナさん」
「・・・・・・あたしも追い出して悪かったわよ・・・・ごめん、ゼロス」
「はい、リナさん」
ゼロスが差し出したのは一抱えもある袋。
「本当はお土産にするつもりだったんですが・・・」
「え、もしかして・・・・・お宝(はぁと)?」
「はい」
さっそくリナは包みを開けて中を確認している。
この時点ですでにリナの機嫌はなおっていた。
「セリス」
その間ゼロスがセリスを呼んで抱き上げた。
『うまくいきましたね、セリス。空間移動もできるようになりましたし』
『うんっパパ!』
『まったく、リナさんは意地っ張りですからねぇ、こうでもしないと仲直りしてくれな
いんですよ』
『ゼロスパパもくろうするね』
セリスの言葉にゼロスが思わず苦笑をもらす。
『仕方がありません、惚れたほうの負けですから』
『うん、ぼくもママすきぃ!』
『駄目ですよ、リナさんは僕のものなんですから』
『ええぇ~~でもママはぼくのママだよぉっ!』
そんな企みがされていたことなど知らないリナは相変わらずお宝の鑑定に余念がない。
「リナさん、そろそろ帰りませんか?宝の鑑定なら宿でも出来ますし」
「そうねっ!こんなところにいつまでもいたってしょうがないし。とっとと帰りましょ」
リナの言葉を聞くとゼロスは片手にリナを抱き上げ、三人はその場から姿を消した。
「お、おいっ・・・・・」
その場に残されたのは身包みはがされた盗賊たちと、攻撃魔法のせいで
ぼろぼろに崩れ落ち、瓦礫の山と化した神殿だけだった。
教訓: 夫婦喧嘩には巻き込まれないようにしましょう(はぁと)