そんなのあり!?


「いいですか、セリス。この計画はあなたのフォローが肝心なんですからね。
失敗は許されませんよ」
おかっぱ頭の獣神官はいつも浮かべているにこにこ顔を消し去り厳しい表情で 自分よりも半分以下の背丈・・・・おそらく推定年齢5歳・・・・・の子供に念を 押していた。
「うん、わかってるよ!ゼロスパパ!」

!!!!!!

いつの間につくったのか・・・返事をした子供は確かにゼロスの子供であることを 深く納得させてしまうほどゼロスに瓜二つだった。
ただ一つゼロスと違うのはその瞳の色。ゼロスのそれが紫色であるのに対して セリスと呼ばれた子供のそれは夕日を思わせる深紅だった。

「ママが呪文を唱えそうになったら泣いて走って行けばいいんでしょ?」
「そうです。セリフはちゃんと覚えましたか?」
「うん、ばっちり!・・・『ママは僕と一緒にいられなくても平気なのっ!?
僕のこと嫌いになっちゃったのっ!?』」
「なかなかいいですよ、ただ演技には小道具も必要ですからね」
そういってゼロスがセリスに手渡したのはどこにでも売っている普通の目薬だった。
「これを目にさして涙を表現するんです。僕たち魔族には涙というものがありませんからね」
「わかった!」
いったい何をするつもりなのか・・ともかく二人は計画の成功を願って手をとりあった。


「リナさん・・・・・ねぇ、リナさん・・・・・・」
「ん・・・・うむぅ・・・・るさい・・・・・ゼロ、ス・・・・・すーすー」
(寝ぼけてますね、リナさん。今夜は少しいじめすぎちゃいましたもんね(はあと)
リナは寝台の上、ゼロスの隣で眠りの国を彷徨っていた。
ゼロスはその様子に満面の笑みを浮かべる

「リナさん・・・・僕と・・・・い・・く・・・しますよね?」
「んぅ・・・・・」
「リナさん・・・うんと言ってください・・・」
「・・・・・・・・・」
「ねぇ、リナさん・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・うん・・・・・」
「・・・・・・・返事しましたね、リナさん♪それでは」

(あ、ん・・・くぅぅっ・・・苦し・・・な、に・・・胸が・・・ああああっ)

「ああぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」

あまりの苦しさに叫び声をあげて起き上がったリナは目の前の・・・にこにこ顔に 嫌な予感を覚えた。

「・・・・・ゼロ、ス・・・・・」

肩で息をしながらゼロスの(今は自分の伴侶となった)名前を呼んだ。

「何か悪い夢でも見たんですか?」
「・・・・・・・・ううん・・・・夢は見てないと・・・・・思うけど」
「突然悲鳴をあげられたので驚きました。大丈夫ですか、リナさん?」
「うん、大丈夫・・・・心配させてごめん、ゼロス・・」
「いいえ、とんでもありません。リナさんがお元気なら十分です(はあと)」
(拒否反応が起きたら大変ですからね)
「・・・・・・・・・」
何かがひっかかった。

「・・・・・・・ゼロス?」
「何ですか、リナさん?」
にこにこにこにこにこ。
ゼロスがこの表情をするときにはきまって何かを企んでいる時だ。

「・・・・・・ゼロス・・・・・あんた何企んでんの?」
「いやですね~何も企んでなんかいませんよぉ」
もう終っちゃいましたし~とゼロス。
「・・・・・・・・何が終ったっていうのよ?」
「ええ~それは・・・・」
「それは?」
「秘密です♪」

ぴきっ!

「ゼ~ロ~ス~っ!白状しなさいっ!!!」
「ええ~駄目です。言うとリナさん怒ってしまいますから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・つまりあたしが怒るようなことしたわけね?」
リナの目に怒りの灯火がちろちろと見え隠れする。
「何したのよっ!!!乙女を寝込みを襲うなんて万死に値するわよっ!!!」
「そんな~僕はリナさんの夫じゃありませんか。寝込みを襲うのは僕の
特権です(はあと)」
「ゼ~ロ~ス~ッごちゃごちゃ言わないでさっさと白状しないさいっ!しないと・・」
「しないと?」
「離婚するわよ!」
「そんな!?リナさん横暴ですっ!!!」

離婚・・・その一言に焦るゼロス。
・・・・・・・お前は本当に魔族か?

「だったら早く言いなさいよ!」
首根っこを捕まれ容赦なくがくがく振り回されながらもゼロスは普通に答えた。

「ちょっとリナさんと不死の契約しちゃいました♪」

「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・しちゃいました♪・・・・・じゃあぬぁいでしょうぅぅぅっっっっっ!!!!!何考えてんのよっっこのボケボケゼロスぅぅぅぅぅっっっっ!!!!」
「ほら、怒ったじゃないですか・・・」
「ぬぁにが『ほら』よぉぉっっっ!!!あんたが悪いんでしょうっっっ!!!
もぉうっ許さないんだからっゼロスっっ!!!!!!」
「落ち着いてくださいよ、リナさん。これで僕とリナさんは永遠に一緒(はあと)
というわけで悪いことなんか一つも無いじゃありませんか?何でそんなに怒るんです?」

ぶちぶちぶちぶちっっ!

リナのそう固くはない堪忍袋の緒が一斉にぶちぎれた音がした。
「・・・・・黄昏よりも昏きもの・・・・・血の流れより紅きもの」
「あぁぁぁっっっ!!!!リナさぁぁんん!!!」

バタンッ!

そのとき突然寝室の扉が開いて先ほどの男の子が駆け込んできた。

「リナママっ!!」

「セリスっ!?あんたまだ起きてたのっ!」
リナの言葉を無視してがしっ!と抱きついてくる。
「ママっ、パパをいじめちゃイヤっ!!!」
「・・・・・・」
「ママは僕といっしょにいられなくてもへいきなの!?ママ僕のこときらいに なっちゃったのっ!?」
「・・・・・!?」
「ねぇっママっ!!」
「・・・・・・・・・セリス・・・・・・・・・あんたのこと嫌いになんてなる わけないでしょ。何馬鹿なこと言ってんの・・・・・・」
「だってママにんげんのままだったらすぐにしんじゃうでしょ?僕のことおいて いっちゃうんでしょ?」
うるうるとその大きな瞳に涙をにじませ見上げるセリス。
「・・・・・・・・・・・・」
リナはセリスをぎゅっと抱きしめた。
「馬鹿ね・・・セリス・・・・・・」
リナの怒りのボルテージは今やすっかり下降してしまっていた。

(セリス上出来です!)
その後ろでゼロスが計画の成功に密かに拳を握っていた。
セリスもリナに抱きしめられながら片方の手をそっと広げて大いに貢献してくれた 目薬をリナにばれないようにゼロスに手渡す。
幼いながらもそこはやはりゼロスの子供だった。


ああ、素晴らしきかな親子の連携プレー!
こうしてうやむやの内にリナはひたすら拒否し続けてきた不死を得ることになって しまったのであった。

めでたし、めでたし。

「ちょっとぅっっっ!!!あんた何勝手に終ってんおよぉっっ!!!あたしはいったい どうなるわけっっ!!!そんないい加減でいいのっっ!!そんなのって・・・・
そんなのって・・・

そんなのってあり~~っっ!?」