熾烈に光る エピローグ


 闇の力は世界を覆い、人々は絶望した。
 その時、聖なる光が天から降り注ぎ、闇を打ち払った。
 そして、世界に平和は訪れた。



 人々にわかったのは、ただそれだけだった。



















 空を仰げば、青く。太陽が輝いている。
 まさに誰かの笑顔を思い出すような、快晴。

「何処に、行ってしまわれたんでしょうね…」
 問いかけは空気と混じり、消えてしまう。
 錫杖を持つ黒い影は、その存在を人々が認識する前に宙から消えた。







 世界が魔の手に落ちようとしてから一月。世界は、まるで嘘のように以前の状態を取り戻した。
 つまり、多少の諍いはあるものの平和だった。

「ガウリィさんっ!ゼルガディスさんっ!」
 魔族に壊された街の復興を手伝っていた二人にアメリアが駆け寄った。
「お昼にしましょうっ!」
「いつも悪いな」
「何を言っているんですか!私たちは正義の仲間!遠慮など無用ですっ!」
 拳を握るいつものテンションのアメリアにガウリィとゼルガディスは顔を合わせて苦笑した。
「それにしても…平和だな」
「良いことです!」
 王女とは思えないほどに、手際よく食事の準備を整えるアメリアはゼルガディスの呟きに大きく頷く。
 ガウリィは腰を下ろすと空を見上げ…太陽の光に眩しそうに目を細める。
 太陽が。
 彼等の太陽が消えて一月。その行方は未だもって知れない。
 けれど彼等に悲壮感は無かった。
「リナは大丈夫だ。そんな気がする」
 まさにガウリィの野生の勘としか言いようの無いもの。何の根拠も無いものだが、あの闇を切り裂く光が収まった後に姿を消してしまったリナの姿を必死で探す彼等にガウリィはそう言った。
 そしてルナは微笑って故郷へと帰って行ったのだ。
 その後、ガウリィはリナを探しに行くでもなく、こうして街の復興に精を出している。
「ガウリィさんは…リナさんを探しに行かないんですか?」
「ん~…」
 アメリアの差し入れを次々と腹に収めながら首を傾げている。
「…たぶん、今行ったらリナに怒られる気がするんだよな~」
「お前、色々やったからな…」
 確かに。リナに竜破斬の一つや二つ…平気で直撃されそうなことをガウリィはしている。
「いやぁ、ははは」
 笑い事か。
「…んーリナとは、またその時が来たら会える、そう思う」
「ああそうだな」
「きっと今もどこかの食堂で叫んでるに違いありません!」
 そうかもしれないな。

 太陽は沈まない。
 空に、今日も輝いていた。

「さぁ、もうひと頑張りするぞ!」
「はいっ!」
「ああ」
















「おばちゃーんっ!AランチとBランチとCランチ、それぞれ二人前ね!!」
「あいよぉっ!!」
 威勢の良い声に尋常で無い注文。彼女は一人でテーブルにつている。連れが後から来る様子も無い。これが大男だったり、ぽっちゃり系の女性だったのならおかしくも無かっただろう。
 彼女は美しい女性だった。誰もがはっと目を惹く容姿である。しかし、それにもかかわらず、彼女は周囲の喧騒とは遠いところに在った。周囲の人間たちは彼女の存在に気づかないように、それぞれの話に興じている。

「お探ししましたよ」

 その静謐に閉ざされた空気を割って入った存在。彼女の目の前に座った彼は、彼女と同じように周囲の人間の視線を集めることなく食堂に入ってきた。

「ルビー・アイ様、それともスイフィードと?」

「はい、お待ちどおさまっ!!」
「ありがとっおばちゃんっ!!」
 すちゃっとフォークとナイフを握った彼女はいざっとランチ攻略にとりかかった。

 ばくばくばくっもぐもぐもぐっごくんっ!!

「あの・・・」

 むしゃむしゃはぐはぐっちゅーっぽんっ!!
 
「おばちゃーんっ!デザート、ここからこっちまでお願いっ!!」
「あいよっ!」
 彼女は彼の存在などまるで気づかないように、続けてデザートを注文した。
 その間にランチの皿は綺麗に片付けられた。
「はいっ!たくさん食べておくれよっ!」
「ありがと、おばちゃんv」
 ナイフとフォークをスプーンに変えて、彼女はジェラートにとりかかる。
「し・あ・わ・せv」
 一口含んで、頬を染める。心底、食事をするということを楽しんでいるのがわかる。
 ゆえに目の前の彼は完全無視。
「すみません・・・・僕が悪かったです・・・」
 彼女は2個目のケーキにとりかかっていた。

「リナさん」

 初めて、彼女がテーブルから顔を上げ・・・目の前の彼を見つめた。
 変わらない赤玉の瞳が彼を見つめる。それだけで彼の中の何かが満たされる。
 ずっとひたすらに探し続けていた存在。気配や魔力では探すことができないと早々に諦め、彼は己の足で彼女が立ち寄りそうなところを探し続けていた。まるでそれはただの人のように。
 そうして、漸くこの食堂で彼女の姿を見つけたときの歓喜。

(ああ、僕は・・・)

「ゼロス」
「!!」
「・・・まだあたしに何か用?」
「リナさん」
 魔族であるゼロスの顔色が変わることは無い。
 それでも彼は、彼女の視線に口を開くことが出来なかった。それだけのことをしたと彼は自覚している。後悔など恐らくない。魔族にそんなものは無い。
 それなのに、身の内に湧くこの恐怖は。

「おばちゃんっ!ごちそうさま!」
「またおいでね~」
 立ち上がったリナをゼロスが追いかける。
「リナさん・・・っ」
 立ち止まったリナに、ゼロスが追いすがる。
「貴女を、探しました。ずっと。あの時から・・・獣王様のご命令ではありません。僕が、僕自身の意思で貴女を探していたんです。・・・何故ですか?・・・何故、僕は・・・・」


「ゼロス。馬鹿ゼロス」


 振り向いた彼女は、笑っていた。
 輝く太陽のように。

「いつまで気づかないふりしてるつもり?・・・あたしはもう気づいたわよ」
 そうして入り口に歩いていく。
「リナさんっ!」
 扉を開き、明るい町並みが広がる。
 そこには、すでにリナの姿は無かった。







「愛してたわ。         そして、愛している。ずっと。ずーっとね」







 ゼロスは、目を閉じ・・・・・・・・微笑を刻んだ。
 そのまま、彼の姿も空気に消える。








 そして物語のおわり。
 そして、始まり