熾烈に光る 22.復活
傾いだリナの体を受け止めて、ゼロスはその胸に突き刺さった剣を抜いた。
だが、その剣には一滴の血糊も無く、リナの体からも血が流れ出ることは無かった。
リナのうつむいていた顔がゆっくりと上を向く。
開かれた目には、煌く紅玉。
口元には・・・・笑みがのぼった。
「・・・・・よくやった、獣神官」
ゼロスは身を引き、膝を折った。
「御復活、お祝い申し上げます。我らが王よ」
捧げられた赤の剣を、『リナ』は受け取る。
「――― 長き時であった。漸く、愚かな神の封印から自由に。我を戒めるものは何も無い」
禍々しい気は、哄笑と共に空間を満たしていく。
びしり、と音がして氷塊に罅が入る。
罅は、きしみをあげて氷塊を走り――――甲高い音を立てて、氷塊は粉々に割れた。
二人に降り注ぐ、透明な欠片。
その封印の氷には、もはやどんな力も無い。
ただの『氷』
「我を邪魔するものは何も無い!この世界に、滅びを招こうぞ!!」
リナ=シャブラニグドゥの叫びに、大地が呼応し大気が震える。
「ふふ・・ははははっ!我が力が満ちる!何というキャパシティ・・・っ我がために生まれたような器ぞ」
リナの声。リナの体。
中身が変わっただけで、その外見は同一人物とは思えぬ凶悪な雰囲気に包まれる。
決して闇には侵されぬ強い輝きを放っていたリナ・・・・リナ=インバースは、居ない。
そこにあるのは、『闇』そのもの。
赤と黒のオーラが互いにまじりあい、氷窟の天井を衝きぬけ・・・・山脈の上・・天を貫く。
地の底から、天に・・・空に渦巻く暗雲が見えた。
「ゼロス、と言ったか。我が封印を解いた功績により、傍に在ることを許す」
膝を折ったままの姿勢で居たゼロスに、上から言葉が掛かる。
「・・・・恐れ入ります。見に余る光栄です」
顔を上げたゼロスの顔には、いつもながらの笑みが浮んでいる。
そして、二人の姿は消えた。
魔王が復活を果たす直前、DSSFの天幕では一騒動起こっていた。
自分たちを裏切り、姿を消したガウリィが、何も無い空間から突然降って沸いたのだ。
しかも、その身に斬妖剣をを突き刺して。
ただ事では無い状態に急いでアメリアの天幕に運ばれ、リザレクションがかけられる。
その間に、リナの天幕へと伝令に訪れたゼルガディスは、ガウリィと入れ替わるようにリナもまた
姿を消したことを知った。
一瞬、ストレス解消の盗賊イジメに出かけたのかとも思ったが、ここカタート山脈に盗賊など居る
はずが無い。そんな勇気があれば、盗賊などに実を落とさず真っ当に働いている。
――――飲み残しのお茶。
ティーカップは簡易テーブルの上に置かれている。
だが、ティーポットはどこにも無かった。
「リナ・・・・っ」
何かがあったのだ・・・・・・・恐らく、ゼロス。
(こんなことならば・・・絶対に一人になど・・・・・っ)
ゼルガディスはテーブルに拳を打ち付けると、荒々しく天幕を出た。
DSSFは、リナの存在があってこそここまでやってきた。その存在が進軍前に消えたとあれば
総崩れとなりかねない。
リナの身は心配だった・・・・・・・・・・が、これまでも彼女はどんな状態からも道を切り開いてきた。
ならば、その強さを信じよう。
今は、自分たちが出来ることを。
「ああーーーーーーっ!!!」
ガウリィの様子を伺おうとやってきたアメリアの天幕で、絶叫が響いた。
「っアメリアっ!!」
頭を押さえ、声を限りに叫んでいたアメリアは、蒼白な顔で呟く。
「悪が・・・悪が・・・・・いけませんっ・・・!!」
目の焦点が合っていない。
巫女特有のトランス状態に入っていた。
「アメリア・・・っ!しっかりしろ!」
その瞬間。
カタート山脈、連なる山々から火柱があがった。