熾烈に光る 18.生命の叫び
「そんな無茶苦茶なっ!」
「無謀ですっ!」
「わざわざ殺されに行くようなっ!」
DSSFの会議にて、リナの出した提案にあちらこちらから反論の叫びがあがった。
その提案とは。
『魔族の本拠地。カタート山脈に殴りこみをかける』
というもので。反論の声が上がるのも無理の無いものだった。
リナはそういう反論が出るのは予想していた。これまでの魔族の強さを思い知る人間たちにとって
それは無謀なことにしか思えないのだろう。
だが、リナもここで引くわけにはいかなかった。
「これまで、私たちは魔族が襲ってくるまでただ待つだけで何もしてなかった。いつも受身でいいように
踊らされていた。・・・いい、よく考えて見て。あたしたち人間は長くても80年強もすれば死ぬか、老い
で戦うことなんて出来なくなる。でも魔族は違う。あいつらに寿命なんてあって無いようなもの。そんな
奴らを相手に延々戦争を続けるなんて、どだい無理なのよ。だけど、あたしたちは負けるわけには
いかない。そうして、・・・このまま戦い続けていったら、自分たちの子供、孫・・・皆、戦い続けなければ
ならなくなるかもしれない。そんなの、嫌でしょ?」
リナの言葉に部屋に沈黙がおりた。
皆、痛みをこらえたような表情を浮べ、うなだれる。
「あたしは嫌よ。戦いばかりの世の中に、子供なんて生みたくもないし、育てたくもない」
数少ない女性将校がリナの言葉に頷いた。
「だったら、短期決戦。一か八か、賭けるしかない」
「・・・でも、それで負けたらどうされるおつもりか?」
「このまま戦わずにいても、結果は同じよ。魔族にいいように遊ばれて戦力を削られ、玩具のように
扱われ・・・・・・・・・・殺される」
「「「・・・・・・・・・」」」
「いい、戦いわね。弱気になった方が負けなの。負けると思って戦わないで。あたしはいつだって、誰が
相手だろうと、勝つつもりで戦うわ。それがたとえ・・・1%の確立さえなくても」
ゼルガディスが僅かに口元に微笑を浮かべた。
かつてリナとともに、赤眼の魔王と戦った過去を思い出したのだろう。
「・・・生きるの、勝って、皆で生きるのよっ!」
リナ=インバース、一見華奢で庇護の対象とすべきか弱い女性に見える。だが、彼女は少女だった
頃から不思議な雰囲気を持っていた。
不可能を可能にする力。この人ならば、と思わせる何かがリナにはあった。
そして言葉だけでなく、誰よりも前で、敵と戦い続けてきた・・・その実力。
彼女ほど魔族を知る者は無く、彼女以上に魔族と戦い、今も生きている者もいない。
彼女に向けられる皆の視線に、臆する色は無かった。
皆、誰か大切な者のために・・・戦うことを決意した目だった。
「作戦の詳細は、龍族やエルフたちの代表も呼んでするから・・・それまで各自準備を整えるように」
「「「「はっ!!」」」」
リナは、テーブルの下の拳を強く握りしめた。
「リナ=インバース。人の娘よ、つくづく怖いもの知らずというか、無謀だな」
リナの提案を聞いたミルガズィアは感心するようにそう言った。だがそこに反論する雰囲気は無い。
「魔族と戦うと決めた時点で、すでに無謀だったんです」
「・・・そうかもしれぬ。だが、人の力ではカタート山脈に入るのも難しかろう」
「だからあなた方にお願いしているんです。・・・魔族と共生なさるつもりは無いんでしょう?」
「当然のこと。あれらは滅びを望むもの、我らとは相反する存在だ」
「それに、ミルガズィアさん。約束してくれましたよね?これまで以上の協力体制を、と」
「・・・確かに。我らとてこのままでは決着がつかぬと思い初めていたところ。・・・そのような案も出るには
出た・・・だが、我らは魔族の恐ろしさを知っている・・千年前の降魔戦争を。恐らく今回も多くの仲間を
亡くすことを覚悟せねばならぬだろう」
「・・・・・その、降魔戦争ですが」
「何だ」
「それは北の魔王が復活したために起こったんですよね?」
「ああ、そうだ」
「おかしいと思いませんか?今までずっと静観していた魔族が・・今回に限って魔王の復活も無しに
宣戦布告してくるなんて・・・いったい何を企んでいるのか・・・」
「ゼロスか」
「はい」
暗紫色の瞳の魔族。それ以上の高位の魔族はまだ姿を現していない。ということは、今回の戦争。
ゼロスが今のところ全権委任されているといっていい。
ゼロスに命令が下せるのは、獣王と同位の者。冥王と魔竜王は滅んで不在。覇王はリナとの戦いの
痛手がまだ癒えるには早い。海王だけは、全く動きが無いだけに一切が闇の中。
「いったい何が狙いか・・・手持ちのカードが少なすぎて、予想も出来ない」
「私には、一つ。疑いがある」
「何です?」
「・・・以前にもそなたに言ったことがあるが。お前が魔王の転生体である可能性だ」
「それは・・あたしも考えました、真っ先に・・・・でも、その可能性は限りなく低いでしょう。もし魔王の
転生体ならば、神聖魔法は使えないはず・・・それに」
リナがもし、魔王の転生体だとすれば、人の魂を操る冥王が気づかないはずが無い。
だが、冥王はただリナを利用したに過ぎず、また・・・ルークの時も。
ゼロスの立場なら、ルークよりもリナを罠にかけたほうが、手間も暇も少なくて済んだはずだ。
それをしなかったということは・・・・やはりリナは違う、ということ。
ならば何故、ゼロスは執拗にリナにからんでくるのか。
その応えは・・・『金色の魔王』しか無い。
だが、リナはこの世の破滅を招くような、あの呪文を二度と唱えるつもりは無い。たとえどんな犠牲を
強いられようと・・・もう二度と、出来ない。
それが狙いならとんだ的外れもいいところ。
「・・・ミルガズィアさん、DSSFの将軍としてお願いします。カタート山脈進攻、手を貸して下さい」
「わかった。出来る限りのことをさせてもらおう」
「ありがとうございます」