熾烈に光る 17.暗き鎮魂歌
裏切り者、ガウリィ=ガブリエフ。
その事実が与えた影響は決して軽いものではなかった。
ガウリィは魔族との戦いが始まった当初から参戦していた傭兵であり、誰よりも魔族に対し優勢で
助けられた仲間も多く、信頼も篤かった
誰が裏切ろうとも、彼だけは・・・・誰しもがそんな思いを抱いていたはず。
アメリアもゼルガディスもリナからの報告に言葉を無くし、立ち尽くした。
「そういうわけで、もうガウリィ・・・戦力としてあてに出来ないから二人にはもっと頑張ってもらわないと
いけなくなるわ。大変だろうけどお願いね!」
まるで大したことではないと明るく、二人を励ますリナに・・・意地っ張りなその性格を知っているだけにつらかった。リナは決して、人前で弱いところは見せはしないだろう。
リナは一人で、『ガウリィの消失』という事実を背負いこむ。
「ゼロスもまたちょっかい出してくるみたいなこと言ってたし、のんびりしてられないわよ!」
笑顔が痛々しい。
無理をして笑っているとはわからない・・・自然ないつもの笑顔だ。
だが、そんなはずが無いのだ。
「リナさん・・・っ」
「よせ、アメリア」
泣けばいい、そう言って慰めるのは易しい。
だが、DSSFの総大将であるリナがそんな部分を見せるわけにはいかないのだ。
・・・たとえ、昔からの仲間であるゼルガディスたちの前でさえ。
「・・・頼りにしてるから」
その一言が、二人に与えられたリナの精一杯の弱気だった。
(ガウリィ・・・・)
戦友。仲間。・・・・家族。
リナがガウリィに抱いていた思いは”恋”とは違う。けれどとても大切なもので、誰もその存在の代わり
にはなれないほどに重いものだった。
心は痛みを訴え、血を流し続ける。油断すれば、立ち上がれなくなりそうなほどに。
鏡に映るリナの顔は無表情で、蒼白を通り越して土気色。
ゼロスの策略に、まんまと嵌まっている己。
自覚しているのに、避けがたいこの負の思いは・・・敵ながらあっぱれというしかない。
リナが人間である限り、この『感情』から逃れる術は無い・・・・だからこその『人』。
「・・・ゼロス」
人間たちに対し、宣戦布告をした当人ながら、今まであまり表には出てきていなかった。
「・・・許さない。絶対に、許さないわ・・・ゼロス」
駆け引き?
だから何をしてもいいと?
「今までのところは、あたしの惨敗よ・・・だけど、覚悟しておきなさい」
絶対に許さない。
リナは呟く。
(・・・あんたには、絶対に”滅び”を与えては、やらない)
†+†+†+†+†+†+†+†+†+†
「ようこそ、ガウリィさんv」
ゼロスは上機嫌に目の前の人物に声をかけるが、反応は一切返ってこない。
無理もない。
彼はしっかりと両の目を閉じ、冷たい石壁に・・・斬妖剣で串刺しに吊るされているのだから。
「殺したのか、ゼロス」
「いいえ、獣王様。殺してしまっては道具としての価値が無くなりますから・・・ただ、目覚めていただいても邪魔にこそなれ、役には立たない方ですので」
血の気を失った顔に、唇から一筋流れ出る朱が・・・禍々しく赤い。
「彼は道具ですよ」
「獲物を捕らえるための、か」
「ええ・・・・・・極上の」
暗紫色の瞳が、闇に煌いていた。