熾烈に光る 16.愉悦の遊戯
「・・・・すまん、リナ」
「ガウリィ・・・・・否定しない、のね」
まさか・・・という考えもしなかった人物、ガウリィの裏切りに、リナの声が震える。
「・・・冗談でしょ?何とか言いなさいよ・・・この、くらげっ」
「すまん」
「ガウリィっ!!」
誰に裏切られるよりも、リナを動揺させる。・・・これが狙いだというのなら、あまりにも酷い。
(許せない・・・っ)
「・・・っゼロスっ!居るんでしょっ!出てきなさいっ!!」
「はぁ、もう少し見物していたかったんですが・・お呼びとあらば」
宙に浮び出る、黒い人影。
相も変らぬ謀めいた笑みを浮かべて、リナとガウリィの目の前に現れた。
「あんた・・・こんなことして、あたしが黙っている思ってるの?」
「いいえ、大層怒られるだろうな、とは想像しましたが」
全く悪びれた様子もなく、言ってのける。
「ガウリィに・・・こいつに何を言ったのよ!ガウリィがあたしを裏切るなんてっ」
「ありえませんか?実際に、裏切られたのに?」
「・・・・・・・・・っ」
くすくす、とゼロスの笑い声が響く。軽やかなのに、毒々しく癇に障る笑い声だった。
「・・・リナに近づくな」
ガウリィがゼロスとリナの間に入ってくる。身を挺してリナを庇おうとする姿は、以前とどこも変わりは無い。
ゼロスがそんなガウリィの行動に、おやおやと眉をあげた。
「今さら、あなたにリナさんを庇う資格があると思われているんですか?・・・・これまでさんざん僕たちへ情報を流しておきながら・・・・」
「・・・・ガウリィ・・・・」
「・・・リナ・・・すまん、俺は・・・・」
「リナさん。ガウリィさんはねぇ・・・」
「言うなっ!」
ひゅんっとガウリィの剣筋が宙に走り、ゼロスが紙一重でかわす。
「・・・何よ、ゼロス・・・言いたいことがあるなら言いなさいよっ!」
「僕としても言いたいんですが・・・・ガウリィさんが怖い目で睨むので言えません」
「ガウリィッ」
ゼロスでは埒が明かないとガウリィへ視線を向ければ、それを避けるようにガウリィはふいと顔を背けた。
いったい何があるというのか・・・。
「・・・・あたしに関係すること?」
ゼロスもガウリィもリナの問いかけに何も反応しなかったが、僅かに空気が緊張した。
「・・・さて、ガウリィさん。もう潮時じゃありませんか?リナさんに見つかってしまっては、もう人間側に居ることは出来ないでしょう?あなたにはこちら側に来ていただきますよ」
「な・・・っ!ゼロスっ!・・・・ガウリィっ!」
ガウリィがゼロスのほうへ、一歩踏み出す。
「ガウリィ・・・っ!あんたは・・・・あんたはそれでいいのっ!?」
リナの叫びにも、ガウリィの足は止まらずゼロスのほうへ近づいていく。
「ゼロスに・・・ゼロスなんかに騙されて、いいように使われてっ!そっちに行ったて何にもいいこと無いんだから!」
「騙されたとは、人聞きの悪い」
「人聞きの悪さなんて、気にしないくせに何言ってんのよ・・・あんたにガウリィは渡さないわ」
「それはリナさんが決めることではありませんよ、ねぇ、ガウリィさん」
ガウリィとゼロス、わずか1メートル・・・そこでガウリィは振りかえらず、リナの名を呼んだ。
「・・・・・リナ」
とても大事そうに。
「俺が守りたいのは、リナだけだ。お前が笑っていられるなら・・・何だってやる」
優しく、強く。強固な意志を秘めたガウリィの言葉。・・・現在形で語られるそれ。
「ガウ・・リィ・・・」
「俺は、お前を守る以外の戦い方を忘れた・・・俺が戦うのは・・・リナ、お前のためだけだ。・・・だから」
「ガウリィッ!!」
どくん、とリナの鼓動が痛みを訴える。・・・不吉な予感。
「・・・・・元気でな」
ガウリィの手にある、斬妖剣が無造作にその喉へ・・・・・吸い込まれる。
「が・・・ガウリィッ!!」
「・・・・全く、どうしてこう死に急ぐような真似をするんでしょう?」
斬妖剣は寸でのところで、見えない壁に止められていた。呟いた言葉から、ゼロスの仕業だろうと検討がつく。
「ガウリィさん、そう簡単に死んでいただいては困るんですよ・・・そういう契約でしたでしょう?」
「・・・・・・・・・っ」
斬妖剣がガウリィの手から離れ、地に転がった。
「リナさん、僕たちはこれで失礼しますv」
がくりっと意識を失ったガウリィの体が宙に浮く。
「ゼロスっ!」
姿を消そうとするゼロスに、リナが呪文を唱える。
「リナさん・・・あなたの負の感情はとても美味しかったですよ・・・僕のこれまで生きてきた中で極上」
「・・・・・・・・っふざけ、ないで・・・っ!!」
「本当ですのに・・・残念です。もっとあなたの傍に居たいところなんですが僕も何かと忙しく、ですがいずれまた近いうちに。リナさん・・・あなたを誘(いざない)に参ります」
『聖烈斬っ!!』
リナが放った青白い閃光は、一瞬遅くゼロスが・・・ゼロスとガウリィが居た空間を抉った。
「・・・・ゼロスッ」
怒りに、目がくらみそうだった。