熾烈に光る 14.束の間の休息


 「すまぬっ!」
 突然現れたミルガズィアの第一声はリナへの謝罪だった。
 
 正式な手順を踏んでリナへの面会を求めた竜族の長、ミルガズィアはリナの顔を見るなり深々と頭を下げ、リナの言葉を待った。

「ミルガズィアさん・・いいですよ、大事にもなりませんでしたし。頭をあげて下さい。・・・あのゼロスのことだから・・・卑怯な手を使ったんでしょうし」
「いや、それでも私はゼロスの企みなど退けるべきであった。今まで信用してくれた仲間を裏切る
 非難されるべき行為だ。申し訳ない。・・・ついてはこれを受け取ってもらえぬか?」
「・・・・何です?」
 ミルガズィアが差し出したのは、厚さ20センチはあろうかという凶器にもなりそうな本。
「・・・もしかしてクレアバイブルの写本vv
「いや、儂が千年以上に渡って書き溜めてきた・・・」
「書き溜めてきた?」
 リナは期待に胸をふくらませる。

「珠玉のギャグ集じゃ」

「いりませんっ!」
 リナは即答した。












 とりあえず、ミルガズィアの謝罪を受け入れたリナはアメリア達も呼んで今後の対策について話し合うことにした。
 まぁ、もっとも集まった連中は気心も知れた相手ばかりなのでほとんど午後のお茶ののりだったが。
「先日の攻撃で破壊されたところは人員を割いて復旧作業を急いでいます。大した被害じゃなかったのですぐに修復できると思いますけど」
「ありがと、アメリア。ゼル、偵察のほうは?」
「今のところ、魔族連中が動いている様子は無い。先日の攻撃以来大人しくしているようだ」
 ありがとう、と頷いたリナは一心不乱に焼き菓子を頬張っているガウリィにちらりと視線を向ける。
 ・・・・とりあえず静かにしていれば文句は無い。
「ミルガズィアさんのほうはどうですか?ゼロスがちょっかいかけてきたりとか・・・」
「いや、あれ以来ゼロスは現れていない」
「そうですか・・・でも不思議ね。あんなにあっさり諦めるぐらいなら最初から余計な策略なんて巡らす必要無かったでしょうに」
「んぐ、リナにさ・・・ごくん。会いたかっただけじゃないのか?」
「・・・・。・・・・・」
 食べるかしゃべるかどっちかにしろ・・・・というセリフはガウリィには通じない。
 くらげだから。(おいっ)
 かわりに、リナが据わりきった眼差しでガウリィを睨んでやった。
「しかし、それが真実かもしれぬな」
「ミルガズィアさん・・・そんなわけないでしょ・・・」
「えー、でもゼロスさんって何だか昔からリナさんのことだけは特別扱いだったじゃないですか。会いたかったかどうかはともかくとして・・・何か用があったのかもしれませんね」
「あいつがあたしを特別扱いしてたのは上司に命令されてたから!あいつ個人にあたしに対する感情どうこうは無いわよ。それに今のあたしは、あいつらにとって用なしだろうし・・・・あの呪文使えないわけだから」
 ゼロスから買い取ったタリスマンはリナ自身が破壊してすでに無い。
 ・・・・その欠片で作ったものがあの指輪だとゼロスは言っていたがそれも本当かどうか・・・。
「しかし・・・不思議なことだ。ゼロスの力ならば・・・失礼だが、人間の娘一人あっさり殺せるだろうに・・・
 あえてそれをせぬというのは・・・」
 ミルガズィアが眉をしかめて首を傾げる。
「・・・単に遊んでいるだけじゃないのか?あいつの趣味が悪いのはわかったことだ」
「ゼルちゃん・・・相変わらずゼロスのこと嫌ってるわね」
「あいつのことが好きだという奴が居れば見てみたいくらいだ」
 確かに、と一同頷く。
 これまで散々煮え湯を飲ませられた相手だけに、皆の評価は厳しい。
「まぁ・・先日のはあたしがこの戦いに参戦したことへの挨拶だとは言ってたけど・・・」
「お前の力を試しに来たのかもしれんな」
「・・・この結界のことじゃな」
 神聖魔法による結界であることを少し前に聞いて、驚いたのはミルガズィアも同様だ。
「真に稀有な娘であることよ」
 そう言ってリナに尊敬とも畏怖ともとれる視線を注いだミルガズィアだ。

「魔族相手に黒魔法じゃ限りがあるでしょう。白魔法や精霊魔法も限界がある。残るは・・・失われたとされていた神聖魔法の復活しかない」
 リナはそう思って研究しようと決意した。
 必ず、いつかもう一度降魔戦争は起こる・・・それがリナの生きているうちに起こるのか、死んでからなのかはわからないが・・・それでも来るべき日に少しでも役に立つように・・・。

「思いのほか、その日が早く来てびっくりしたけど・・・少しは研究が進んでて良かった」
「攻撃魔法もあると言っていたな、どの程度のレベルなんだ?」
「あたしも実際には試してみたことが無いけど、理論としては・・・竜破斬の3倍くらいの威力はあるわ」
「3倍!?」
「ま、少なく見積もってね」
「それは楽しみなことだな・・・儂らも負けぬようにせぬと」
「ええ、人間の力には限りがありますから、期待してます」
 一度裏切った相手が二度裏切らないという保障は無い。
 だが、その疑う心こそがゼロスの狙いだったのならばそれに対するまで。
 これまで以上の協力体制を築くことを約束して、ミルガズィアはドラゴンズピークに帰って行った。







「何だか、ここに来て以来息つく暇も無かったわね・・・戦争だから当たり前のことでしょうけど」
「すみません、リナさん・・頼ってばかりで」
「すまないな、不甲斐ない奴らで」
「な~に言ってんの!あなたたちだってこれまで頑張ってきたでしょ。今までさぼってたあたしが忙しいのは当然なのよ。らしくないこと言ってると竜破斬で吹っ飛ばすわよ?」
「・・・リナさんが言うとしゃれになりません・・・」
「・・・確かにな」
 アメリアとゼルは苦笑した。
「何だかな・・リナ・・・・・・・・」
「何、ガウリィ?」

「大きくなったな、お前」







 ずるっべしゃっ!






「・・・近所のおっちゃんか、お前は・・・・」
「大きくなったって・・・・」
「もっと他にいいようがあるだろうが・・・・」
 三人の呆れた視線がガウリィに突き刺さる。

「えー、だってさぁ。いきなり魔法使って人ぶっ飛ばすこともなくなっただろ?静かに食事するようになったし・・・むやみやたらと人に噛み付くこともなくなったしなぁ・・・」
「・・・・まるっきり保護者の心境ですね、ガウリィさん・・・」
「人に噛み付くって・・・・あたしは野生動物か・・・・」
「・・・ガウリィ・・・・お前、苦労したんだな・・・・」

 いやぁ、それほどでも・・・と頭をかくガウリィに・・・リナは心の中で”次の戦は最前線配置決定”と丸印をつけていた。