熾烈に光る 12.交錯する想い 


 魔血玉ですよ・・・

 そう呟いたゼロスの言葉がリナの中でコダマする。

「・・・・・・・・・は?」
「リナさんが砕いた魔血玉の欠片をいつか使うときもあるかもしれないと取っておいたんです。これほど早く出番があるとは思っていませんでしたけど」
 リナはゼロスの一定の距離をとり、睨みつける。
 空間を渡る魔族にはそんなものは屁でも無いかもしれないが、人間的心理として幾分、安心できることも確かだ。
「・・ただの貧乏性じゃないの?」
「そうなんですよ。もう薄給で・・・必要経費なんて認めていただけないんで自分で稼ぐしかなくて・・・」
「あんたの給料なんてどうでもいいの。とにかくこれはあんたが作ったものってわけ・・・ミルガズィアさん、脅したわね?」
「いやぁ、なかなか強情な方で。全竜族とエルフの命の代償にようやく頷いていただけました。僕としては竜族もエルフもどうでもいいんですけどね。でもそれでリナさんが手に入るなら構わないかなと思いまして」
「あたしを手に入れる?・・・は、それこそお笑いよ。だいたいあたしに用があるんだったら今まで幾らでも機会はあったでしょ」
 結界を張っていたとはいえ、ゼロスがその気になれば容易くとは言わないまでもやぶれたはずだ。
「確かにお一人で隠遁生活を送るリナさんを唆すというのも魅力的ではありましたがそれでは面白くないじゃありませんか」
「・・・・・最低」
「魔族ですから」
 いつもの顔でにこりと笑う。
 
「・・・・どうしてもわかんないのよね」
「何がでしょうか?」
「あんたがあたしに執着する理由。魔族にとって他人・・まして人なんてそのへんのゴミと一緒でしょ?」
「とんでもない、リナさんをゴミだなんて。僕は思ったこともありませんよ。あなたは力強く、美しく輝く生きた宝石です。あなたが僕のものになるというなら・・・
 あなたの望みは何でも叶えてみせますよ」
「とっても心くすぐられる申し出ね。でもそんなのは他の人にやるのね。あたしは自分の望みぐらい自分で叶える。他人に叶えてもらおうなんて思わない」
 きっぱり断言したリナにゼロスは笑う。
「そんなあなただから欲しいんですよ。千年以上生きてきて僕の誘いをそこまではっきりと断った方はいらっしゃいませんでしたからね」
「つまりあんたはあたし自身に興味があるんじゃなくて、自分の思い通りにならない玩具が欲しくてたまらないってだけでしょ」
「さぁ。その違いはわかりませんが、僕が今欲しいのがリナさんであるということだけは変わりません」
 笑顔のままのゼロスにリナも笑顔を浮かべる。
「はっきり言う。あたしはあんたのものになるつもりも、魔族の側につくつもりも無い。
 あたしはあたしの思うとおり生きる。この人間としての生を精一杯に」
「リナさんならそう仰ると思っていました。ですが僕も諦めるつもりはありません。
 あなたがその指輪を嵌めている限り・・・あなたは僕から逃れることはできません」
 確かに指輪にかかった呪力の解放パターンがわからない限り、それがリナの指から抜けることは無い。
 簡単に解放できるような呪力をゼロスもかけてはいないだろう。
「はめている限り、ね・・・」
 リナは前に垂れてきた髪を後ろへ流すと、腰のレイピアに手をかけた。
 そして・・・


「だったらこうするまでよっ!!」

 右手の薬指に突き刺した。  









「大変ですっ!リナさんがっリナさんがっ!!」
 リナがゼロスと対峙している頃、セイルーンの王宮では突然姿を消したリナを探して右往左往しているアメリアが居た。
「おい、どうしたアメリア」
 そこへ魔族たちを退治してゼルガディスとガウリィが戻ってきた。
「大変なんですっ!リナさんが・・・ゼロスさんが・・っ!!」
「リナはともかく・・ゼロスが?あいつが来ているのか!?」
 要領が得ないアメリアにゼルガディスが叫ぶ。
 これまでゼロスには散々煮え湯を飲ませられてきたゼルガディスである。
 その怒りは底知れない。
「ゼルもアメリアもちょっと落ち着けって。アメリア、何があったんだ?」
「ガウリィ!?」
「ガウリィさんっ!?どうしたんです、まともなこと言って!?」
 二人に揃って驚かれる。
 それほどにガウリィがまともなことを言うのは珍しい。
「お前らなぁ・・・」
「たまには脳が正常に働くときがあるんだな・・・いつもそうだと苦労せずいいんだが」
「本当にそうですよね。・・・で、リナさんですけど・・・結界を強化しようとしたところへゼロスさんが現れたんです。・・で、私がリナさんの呪文が完成するまで応戦していたんですけど・・・呪文が完成した直後、ゼロスさんもリナさんも居なくなっちゃってたんです・・・ど、どこに消えちゃったんでしょうっ!?」
 再びアメリアは慌て出す。
「とにかくリナを探そう。ガウリィ」
「おうっ」
「リナがどこに居るかわかるか?」
「いや、わからんが・・・何となくこっちに居るような気がする」
 野生の本能で生きていると評判の高いガウリィである。
 リナのことならなおさら冴え渡るだろう。
「そうか、アメリア。俺たちはリナを探す。お前は後のことを頼む」
「はい、わかりました!また魔族が襲ってくるかもしれませんからね、守りを固めて
 おきますっ!」
「頼んだぞ」
 ゼルガディスとガウリィは走り出した。