熾烈に光る 11.神 域


 「・・・早速、御大自らお出ましとはね」


 外界の騒々しさと切り離されたこの結界の部屋。
 アメリアとリナ、その10メートルほど先にすとんと着地したゼロスは相変わらずの怪しい笑顔をその顔に貼り付けてぺこりとお辞儀した。

「せっかくのリナさんの初陣ですからね。盛大にお祝いをと思いまして」
「余計なお世話よ!・・・アメリア」
「はいっ!邪魔者は容赦しませんっ!さぁ、ゼロスさん。お相手は私がします!」
「ははは、お元気ですね~。でも僕の相手をして下さるにはちょっと役不足だと思いますが・・・まぁ、いいでしょう」

 ゼロスが錫杖を軽く床に打ち付ける。

「「・・・っ!!」」
 突風がリナとアメリアを襲う。

「・・・はぁっ!!」
 
 シャン・・・・ッ。

「・・・よく受け止めましたね」
 アメリアが両腕をクロスさせる形でゼロスの錫杖の一撃を防いでいた。
「正義は必ず・・・・・・・勝つんですっ!」


 リナはゼロスとアメリアの様子をちらりと横目で見ると呪文の詠唱に入った。







    この世を統べる慈しみ深き神よ
    汝の力もて  我らに光を与えたまえ
    一の光明



 五芒星の頂点の一つに青白い光がともる。



   聖なる恵み  聖なる心
   我らが願いしは 平安
   二の光明



 また一つ五芒星に光がともる。





「なかなか頑張りますね、アメリアさん」
「当然ですっ!」
 結界の外ではゼロスがアメリアの攻撃をひらりひらりと余裕で避けている。
 本気を出していないのは見え見えだった。
 いったい何を企んでいるのか・・・



  正しき導き 指し示せ
  目指すは 神の御許
  三の光明



  たどり着くは 難きとも
  そは聖域なり
  四の光明

  


 リナの少し高めの声が明朗に響く。
 目を閉じ、頭上へ両腕を広げ、天から注ぐ光を浴びる姿はまさに聖なるもの。


  光の道 輝きの手
  時は来たれり
  五の光明



 五芒星の最期の頂点に光が灯った。
 天に掲げられていたリナの手が素早く印を組む。


「火竜、天竜、地竜よ。今こそその力を解放す。光よ、道を辿り魔を滅せよ!
 


 神聖結界っ!!



 リナの力ある言葉に呼応して五芒星から眩き光が立ちのぼった。
 光はどんどん強さを増し、範囲を王宮からセイルーンの街へと広げる。

 この聖なる光の結界の中ではそこらの下級中級魔族は跡形も残らず滅んでしまうだろう。高位魔族だとて、その力を半減するに違いない。
 

「く・・・っ」
 アメリアとやりあっていたゼロスは苦しげに顔を歪めるとしゅっと姿を消す。
 ゼロスほどの魔族がこの程度で滅ぶはずは無かろうから、結界の外へ移動したのだろう。

「リナさんっ!やりましたねっ!!・・・て、あれ?」

 ガッツポーズになって振り向いたアメリアは五芒星の中心に立っていたはずのリナの姿が無いことに首をかしげた。

「・・・・リナ、さん・・・?」























「・・・・・っ!!」
 呪文を唱えた瞬間、凄まじい反動を感じたリナは・・・何故かセイルーンの結界の外である森へ飛ばされていた。
「・・・・・・どうして・・・?」
 呪文はうまくいったはずだ。
 事実リナの目にはセイルーンの街が光のドームに覆われているのがわかる。
 以前小規模ながらも同じ呪文を唱えたときはこんなことは起こらなかった。

(・・・いったい?)



「リナさん」
「・・・・っ!!」
 条件反射で飛びのいたリナは、そこへにこ目のゼロスを発見した。
「・・・ゼロス」
「リナさん」
「・・・・」
 ゼロスは笑顔だったが・・・何かがいつもと違う。
 ・・・そう、こんな笑顔をゼロスが浮かべるときはいつも何かの謀がうまくいったとき。

「あんた・・・あたしに、何をしたの・・・?」
 リナ独りがここへ飛ばされたのはゼロスが関係しているとしか思えない。
「僕は別に何もしていません・・・・ただ」
 ゼロスの視線がリナの下方へ向く。
 その視線を辿ったリナは・・・・・・・・・・・・・。



「まさかっ!」
 ・・・・・・・・・・指輪。

「リナさん、あなたにはその色がよく似合う」
「これ・・・あんたが・・・・」
「それ、見覚えありませんか?」
「・・・・?」
 眉をしかめるリナにゼロスはますます笑みを深くする。


「あなたが砕いた・・・・」








     魔血玉ですよ。







 ゼロスは暗紫色の瞳を覗かせた。