熾烈に光る 10.魔の胎動
魔族 対 人間。
これは誰がどう考えても人間側に不利な対戦カードである。
元来人間はその負の感情を魔族に補食され、餌となり玩具となってきた。
魔族との力の差はまさに天と地ほどもかけ離れており、魔力という点においてはどう足掻こうと人間に勝ち目はなかった。
ただ、人間には時に驚くほどの智者が生まれ、その魔力を己のものとして使う方法を編み出した。
しかし、それさえも所詮借り物に過ぎない。
その気になりさえすれば魔族は一瞬にして人間を滅ぼしてしまえるだろう。
それを魔族たちがしない真実の理由を知る者は・・・・・・・・多くない。
空に小さな点が浮かび、徐々に大きくなりその姿をはっきりとさせる。
やがて巨体に翼をばさりとたたみ、セイルーン王宮へ下り立ちたのは竜だった。
その背にはリナが荷物を抱えて乗っている。
「ありがとう、ミルガズィアさんによろしく」
リナの言葉に竜はわずかに首を動かすと再び飛び立った。
「リナっ!」
「リナさんっ!」
その姿を視認した仲間が駆けてくる。
「ただいまーっ!」
「いきなり竜が飛んでくるからびっくりしました」
その言葉通りアメリアは目を丸くしている。
「あはは、さすがのあたしもこれだけの荷物を抱えてあそこから帰ってくるのは大変だし、時間の無駄だから送ってもらったの・・・というわけで、これ適当に見繕って持って帰ってきたから各々使えそうなもの取って行って。どれもかなりのマジックアイテムであることは確かだから」
「あのリナさんがタダでモノをくれるなんて・・・」
「何か悪いもの喰ったのか?」
「おいおい・・熱は・・・無いな」
「あんたたちねぇ・・・」
リナのこめかみがひくひくと動く。
「というのは冗談で・・・ありがとうございます、リナさん」
「これで少しは使える奴が増える」
「全く、最初から素直にそう言えばいいでしょうに・・ひねくれてるんだから」
「・・・リナにだけは言われたくないと思うぞ?」
「うるさいわよ、ガウリィ」
ねめつけたガウリィにリナは荷物の中を漁り、一振りの剣を差し出す。
「はい、あんたにはこれね」
「ん?俺にはこいつがあるぞ?」
「確かに斬妖剣も役に立つだろうけど、これはガードもしてくれるから。ほら、あんた魔法関係全然使えないでしょ。あたしたちが傍に居るときはいいけど、広範囲の
魔法攻撃受けたらいくらあんたでも剣で防ぎようが無いし」
「う~ん、だが俺は二刀流じゃ無いしなぁ・・・」
「大丈夫、これ腰にさしてるだけで十分役に立つし、軽いから」
リナはガウリィの手にレイピアよりは少し大きめの魔法石が装飾された剣を渡した。
「・・確かに軽いな」
「まぁ、剣ていうよりは盾みたいなものだしね」
「ありがとう、リナ」
「どうしたしまして、あんたにはガンガン働いてもらわなくちゃ困るし、ね?」
「・・・・何か怖いな」
ウィンクしたリナにガウリィは苦笑を浮かべた。
「えーと、それからアメリアにはこれ」
「・・・・手袋、ですか?」
「あんた魔族を素手で殴るなんて暴挙、今でもしてるんでしょ?それをつけてれば魔力増幅しておまけに防御UP!とっても優れものなんだから!」
「はいっ!ありがとうございます!!」
アメリアはその手袋を受け取って大切そいうに胸に抱いた。
「ゼルちゃんは~・・」
「ちゃんはやめろ」
「何がいいか一番悩んだんだけど、魔力増幅できるアイテムが一番いいと思ってこれね」
「・・・・何だ、これは?」
50センチほどの木の棒の先に白い紙が折られてついている。
はっきり言って何をするものか皆目検討がつかいない。
「これをこ~して・・」
リナは木の棒を左右に振る。
ばさばさと白い紙が揺れた。
「祈ると、あら不思議。途端に魔力が増幅するという・・・」
「ふざけるな」
そんなことをしている間に敵にばっさりだ。
「というのは冗談で」
「・・・お前な・・・」
ゼルガディスの目が呆れに細められる。
「本当は、これ」
「・・・?ただの石のように見えるが」
「ゼルはオールマイティーに何でもこなすけど・・・一つだけ弱点がある。何かは自分でもわかってるでしょ?」
「・・・・ああ」
「ゼルは攻撃型。魔法も剣も使えるけど・・・必殺技が無い」
「・・・・」
「この石にはね、小さな魔法なら三つ。大きな魔法なら一つ封じることが出来るの。
こうして・・・手に握って・・・・」
リナはカオス=ワーズを小さく唱える。
「竜破斬」
リナの手の中の石が赤く光り、普通の石へ戻った。
「今、この石には竜破斬が入った。これを敵に投げつければ1回に限り竜破斬の効果が得られるってわけ」
「なるほど・・・使い用によっては便利なものだな」
「そうでしょ。攻撃魔法だけじゃなくて白魔法系もOKだから♪」
「そうか、ありがたく受けとろう」
「それで、私たちのはいいですけど・・・リナさんは?」
「あたし?う~ん・・・あたしはねぇ・・・ちょっとコレはというのは無かったのようね・・」
「その指に嵌めてるのは違うのか?」
ガウリィがリナの右手にはまっている指輪を指差した。
「おおっ!ガウリィさんにしては目ざといっ!」
「これね~・・・」
指輪がリナの手に嵌まるまでの経緯を言えば、間違いなくアメリア達は笑うだろう。
何しろ拾いもので、しかも呪いがかかっているとくる。
「何でも無いわ。ちょっとしたマジックアイテム。ほとんどただの飾りだから。ま、あたしはこんなものなくてもへっちゃらだしね!」
リナは笑う。
「何も三年、ただのんびり過ごしていたわけじゃないから」
その言葉はすぐに証明されることになる。
「大変ですっ!王城へ魔族の攻撃が・・っ!!」
軍議の最中飛び込んでいた兵士は顔を真っ青にして飛び込んできた。
「何、魔族だと!?」
「守護はどうなっているっ!?」
場が騒然となる。
今までここが魔の直接攻撃にさらされたことは無かったのだ。
「静かにしなさいっ!」
リナの一声に場がしん、と静まった。
「魔族はどこへ攻撃を仕掛けてきたの?」
駆け込んできた兵士にリナは問うた。
「はっ、中庭へ・・・」
「わかったわ。ゼル、ガウリィ、侵入してきた魔族は頼むわ」
「わかった」
「アメリア、これ以上の侵入を拒むために結界を張るから手伝って」
「はいっ」
「後の者は魔法が使える者はゼルたちに、そのほかの者は街へ被害を広げ
ないように警備を固めて!」
「はっ!」
「さて、と」
「どうするんですか、リナさん?」
王宮の中心、五芒星が敷かれた広間へ来たリナとアメリアはその中心へ立った。
結界は歳月をかけて巫女たちが力を注いでこれ以上無いものをつくりあげて来た・・・それを更に強力にすることは白魔法にさほど通じないリナには無理なように思えた。
「神聖魔法を使うわ」
「え・・・?」
アメリアが目をみひらく。
この世界で今まで神聖魔法を使えた者は一人も居ない。
術の構成は出来てもどうやっても発動しないのだ。
「そんな・・・いくらリナさんでも無理ですっ!」
「大丈夫。今なら使えるわ・・・フィブリゾとガーブが滅んで世界の結界が緩んでいる今ならね・・・・」
「どういうことですか?」
「クレアバイブルに触れて知ったことがいくつかあるの。今の世界の構造と仕組みを・・・それを元にあたしは三年間で神聖魔法を完成させた」
「本当ですかっ!?」
「ええ、ここで冗談言ってても仕方ないでしょ。ただし、それを使うのにかなりの時間が必要だからアメリアに邪魔が入らないように守って欲しいのよ」
「わかりました!」
「・・・あっさり頷くけど、大変よ。たぶん邪魔者が来ると思うから・・・」
「大丈夫です!正義を愛する心があれば、どんな邪魔者もこのアメリアが成敗してくれますっ!」
がしっとポーズをとる、アメリア。
生憎、ここには高い場所が無いので登れないのが心残りな所だろう。
「・・・・凄く不安だけど、頼んだわよっ!」
「まかせて下さいっ!」
「それは困りますね」
二人の背後から声が掛かった。
「「ゼロスっ!!」」