熾烈に光る 9.不の旋律


 左軍将軍に任命されたリナは、まず前線では無く竜族、エルフ族が魔族と戦火を
 交えているカタートに足を運んでいた。

「やはり、来たか。リナ=インバース」
 リナを出迎えた長老のミルガズィアが人間へと姿を変えながら近づいてきた。
「来ました。それから力を借りに」
「うむ」
 ミルガズィアは短く頷く。
 リナは何かの魔道具を介さずとも最強の魔道士だ。
 しかし、魔族が相手となるとやはりそれなりなものが必要となる。
 かつてリナが所持していた魔血玉、光の剣共に失われ代わりとなるものが必要なのだ。

「こちらに来るが良い」
 ミルガズィアは何も言わずともわかっていた。
 リナは聖なる力が満ちる森深くの洞窟に案内された。
「ここにあるものは、クレアバイブルの力を借りて我ら竜族とエルフ族が生み出したもの。そなたが必要とするものを持って行くがいい」
「ありがとうございます・・・てきゃーっ!お宝たくさんっ!あ!これなかんか捨て値で売っても相当価値があるわね・・・あぁっ!!これも・・・っ!」

「・・・・・・。・・・・・リナ=インバース」

 ミルガズィアの呆れた声にリナがはっと我にかえった。
「あははは、やぁね~、ちょっとした冗談。冗談だって♪」
「・・・・かなり本気に見えたが」
「・・・・まぁまぁ」
 リナは誤魔化すようにパタパタと手を振ると、改めて宝の山を見渡した。
 ここにあるもの全てがかなりの力を秘めていることは触らないでも感じられる。
 さて、どれがいいか・・・と悩み始めたリナの目にある指輪が目に止まった。
「これ・・・」
 手に取ってみる。
 5つのルビーが十字の形に配置され、銀・・だろうか、施されている装飾は少々古めかしい感じがしたが悪いものでは無い。

「ああ、それは・・・」
 どんな謂れで作られたものか、とリナが耳をすます。


「・・・・拾い物だ」


 どげしっ。


「・・・なっ・・落とし物なんか置いておかないでよ!!」
 あまりのことに近くの壁に頭突きをかましてしまったリナは、しかし指輪はしっかりと手に持ったままだ。


「いや、各地で道具を集めさせている仲間の一人が持ち帰ったものなのだが・・・
 何となく値打ちものに見えたのでそのままにしておくのは忍びなく・・」
「そういうのドロボー、ていうのよ。人間界では・・・」
「いやいや!一応持ち主は捜してみたのだ!」
「・・・一応ね・・・」
 どうだか怪しいものだと言わんばかりのリナのジト目にミルガズィアの額に汗が光ったのを見逃さなかった。
「でも・・これ。ただの宝飾品てわけでも無さそうなんだけど・・」
 かつてリナが持っていた魔血玉と何か似たものを感じる。
 気のせいと言われればそうかもしれないほど微弱なものだが・・・・・。

 リナは指輪をためつすがめつ眺めながら、右手薬指にはめてみた。
 特に何かが起きるという訳ではないようだ。

「ん~。何かしら、これ・・・」
 もう一度点検しようと指輪を掴んだリナは叫んだ。





「と・・・・・・・・取れないーーーっ!!






 ぎゅうぎゅう引っ張ってみるが指輪はリナの指から離れようとはしない。
 おかしい。
 はめた時は大きすぎるかと思うほどにはぶかぶかだったのに。


「・・・・リナ=インバース・・・わざとにしては演技が下手だぞ?」
「誰が演技してるかぁっ!!本当に取れないのっ!!」
 取れるものなら取ってみろ、と言わんばかりにミルガズィアの目の前に指を突き出したリナ。
 ミルガズィアは指輪に触れ、わずかに引いた後、ふむと頷いた。
「確かに取れぬようだ。・・・取るには指ごと切断せねばならんな」
「おいおいっ!」
「だが、そこまですることは無かろう。どうもこの指輪には呪いがかかっていた
 ようだな・・・かなり性質が悪い」
「の・・・・」






「呪いぃ――っ!!?」






「この数ある品の中でもそんなものを引くとは余程、お前は運が悪いのか悪運が強いのか・・・」
「んなことに感心しないでよっ!魔道具探しに来て呪われました、なんて冗談にもならないわ!」
 リナは一刻も早く、指から指輪を抜こうと解呪の呪文を色々と唱えてみるがどれも一向に効き目が無い。
 今のリナにならば、呪いごときの一つや二つ、何の苦もなく打ち消すことができるはずなのに・・・・。

「・・・特殊な呪いのようだな。私にも解呪は出来ぬようだ。おそらくこれは掛けた当人しか解けぬようになっておるのでは無いか?」
「・・・・最悪」
 いったいどんな呪いがかけられているのか、まだわからないが、良きにしろ悪しきにしろ迷惑甚だしい。

 (だいたい落としものなんかこんなとこに置いておかないでよ!)

 自然とリナの怒りは見知らぬ竜族の拾い主に向かう。

「まぁ、これといって害が出ているようでは無し、放っておいても構わないのでは
 無いか?」
「・・・でも呪われたままってのはかなり気持ち悪いんだけど・・・仕方ないわね。
 セイルーンに帰ってアメリアにでも聞いてみるわ。それで、他の魔道具だけど・・」
 リナはごそごそと探り出した、マントやらステッキやら、防具、剣・・・目ぼしいものを全て持って帰ることにした。

「・・・でも、せっかく作ったものでしょ?あたしがこんなに持って帰ってもいいの?」
「ふむ。何しろ我らは人とは違い、元来己の力のみを頼りにする者。魔道具はただそれの気休め程度にしからならぬ。だから有効に使う者があるなら、それにこしたことは無い」
「そうですか・・・。では、有難く使わせていただきます」
 リナはミルガズィアに頭を下げると、踵を返した。


















「・・・・あれで、良かったのか?」
「ええ、十分です。ご協力感謝しますよ。ミルガズィアさん」
 何も無い空間に漆黒が生まれる。
「約束は守って貰うぞ」
「もちろんです。竜族、エルフ族の方々には手を出しませんよ。ご安心下さい。これでも僕は約束は守るほうなんです」
「・・・・・ゼロス」
「それでは、ご機嫌よう」
 魔的な微笑を貼り付けたゼロスは、現れた時と同じように一瞬にして姿を消した。



「・・・・・すまぬ。リナ=インバースよ」
 苦渋に満ちたミルガズィアの声が洞窟に消えた。