熾烈に光る 8.出陣の調べ


ゼロスの訪問があって一夜明けた翌日。
 リナは休む間なく軍議に呼ばれた。
 もちろん、リナも文句を言うことは無い。むしろ望むところだ。


 軍議が行われる大広間の最も上座にはフィル王が座る。
 その両脇を将軍が埋めるのが常だが、今は右側にアメリアが座り左側は
 ・・・・空席となっていた。


「ねぇ、左軍将軍は誰?実質の総大将が遅れていいわけ?」
 リナは疑問に思ってゼルガディスに尋ねた。
「いや、居ない」
「へ?」
 リナが呆けたような声をあげる。
 左軍将軍といえばまず真っ先に求められるもののはずだ。
 全ての指揮の要。
 将軍なくして軍は機能しない。
「リナ、お前なら左軍将軍の重要性がわかるはずだ」
「当たり前でしょ」
「われわれの敵は魔族だ。それが明らかになった途端に今までの左軍将軍は辞任を願い出た・・・自分には荷が重いとな」
「無責任な」
「無理もないがな。戦いなど無縁の世界で将軍の地位などただの飾りだ。だが」
「そうも言ってられなくなって辞めた?それこそ無責任よ」
 容赦ないリナの言葉にゼルガディスは苦笑した。
「でも・・・それからずっと誰もならなかったわけ?」
「というよりは、誰もなりたがらなかったというところだな」
「・・・そんなに人材不足ってことないでしょう、いくら何でも。ゼル、あんた立候補しなかったの?」
「俺は人を使うよりも、独りで行動することに慣れている。むかんだろう」
「だからっていつまでも空席は・・・」


「では、軍議をはじめよう」
 フィル王子の言葉にリナは話をやめた。
 広間も静けさに包まれる。

「さて、今日はまず今まで空席であった左軍将軍を任命する」
 ざわめきが広がる。
「魔族討伐特別部隊(Demon Slayers Special Forces)、DSSFの左軍将軍に・・・」


「リナ=インバースを任命する」


「・・・・なっ!?」
 リナは驚きに目を見開いた。
「リナ=インバース殿・・・将軍、こちらへ」
 フィル王が左の席を指し示す。
「リナさん」
 アメリアも立ち上がる。
「ちょ・・・っ」
 いくら何でもそれは無いでしょうっ!!という叫びはぽんと背後から押された手にとめられる。
「リナ、行けよ」
「ガウリィ・・・」

 リナは周囲に目をやった。
 そして、立ち上がり、フィル王に顔を向けた。

「一つ・・・聞いてもいいですか?」
「何でも」



「私を選んだ理由は・・・名声?」
「勘、だ」
 フィル王の即答にリナはにくすりと笑った。
 その笑みは猛々しくも美しく、その場に居る者全てを魅了した。

「お受けします」
 リナはゆっくりとフィル王に歩みより、その手を握った。
「頼んだぞ」

 満座に拍手がわき起こる中、リナは左軍将軍の席へと立った。
 リナが肩へと流れる栗色の髪を片手ですき、視線で




「言っておくけど、皆。あたしは負ける戦はしない。やるからには必ず勝つつもりでするわ。例え魔族が相手でもね!容赦なくこき使うから覚悟してよ!」
 
 その言葉にリナを知る者たちはにやりと笑い、知らない者は驚いたもののすぐに笑みを浮かべた。
 その反応にリナは満足する。

 魔族相手に怖じる者はここには居ない。

「では、軍議をあらためてはじめるとしよう」













 

「どう、ゼロス。リナ=インバースの取り込みは上手くいった?」
「残念ながら」
 群狼の島、獣王の宮殿でゼロスは膝まづいていた。
「ちっとも残念そうに見えないけど」
「それは獣王様も同じでは・・?」
「フフフ・・・簡単に手に入るものなんて面白くないのよ」
 主従は顔を見合わせ、似たような笑みを浮かべた。

「では、本格的に動くとします」
「まかせたわよ」
 獣王の言葉にゼロスは黙礼すると空間に姿を消した。