熾烈に光る 6.光闇の邂逅
「まったく、このくらいで済んで感謝するのね!昔のあたしなら黒こげの炭にしてるわよ、炭に!」
腰に手を当て、言い放つリナ。
「いえ・・あの、これでも十分すぎるぐらいだと思います・・」
アメリアがぴくぴくと手足を痙攣させる門番二人に哀れみの視線を注ぐ。
・・・確かに最近人に向けて魔法使ってなかったから加減度が・・・ちょっと
失敗しちゃったような・・・・ま、いいか。生きてるんだし。
当の門番たちが聞いたら泣き叫んでしまいそうなことを思いながら、ふとリナはアメリアに問うた。
「ところで、アメリア。よくあたしが来たのがわかったわね」
「もちろんです!正義の心は何者も見逃しませんっ!」
「・・・・あたしは悪の化身かい・・・・・」
ジト目で睨みつけるとアメリアの顔がひきつる。
「い、いえ、そういう意味じゃないですよ!ええ!いくらリナさんが昔、悪行三昧だったとしても今は大人しくされてるんですから」
全然フォローになってない。
「・・・はぁ、ま。いいわ。んで、案内してくれるんでしょ?」
「もちろんです!こちらへどうぞ!」
活動的な巫女服に身を包んだアメリアはリナの手を引いて先導していく。
「ところで、リナさん」
真っ白なタイルが敷き詰められた廊下を歩きながら、アメリアが振り返る。
「何?」
「・・・何か魔法使ってらっしゃいます?」
「あ、わかる?」
「ええ、何か・・・リナさんがリナさんじゃないような気がします」
なかなか鋭い。さすが巫女といったところか。
リナは素直に感心した。
「ちょっと目くらましの魔法で目立たないようにしてたの。城に着いたら解くつもりだったんだけど・・・ばたばたしてて忘れてたわ」
リナは早口で呪をつむぐ。
同時に、紗がかかっていたようなリナの雰囲気が一気に明瞭になった。
「・・・・・ああ、リナさんですね」
アメリアが目を細める。
決して見えないはずなのに・・・リナの生気がきらきらと輝いて眩しい。
「リナさんて・・・・」
「ん?」
「同性の私が言うのも変ですけど・・・本当に綺麗ですよね」
昔のリナならそんなセリフを言われようものなら照れ隠しの炸裂弾でも放っていただろう。
だが。
「ありがとう、アメリア」
大輪の薔薇が咲き誇るような笑顔で、その賛美を自然に受け取る。
もうリナは少女、では無い。
驕りでも、思い上がりでもなく、その賛美を受けるにふさわしい女性なのだ。
それを感じてアメリアは、逆に頬を染めてしまった。
「よう。来たな」
「あ、ゼル。おひさしぶり♪」
そこへ通りがかったのか、ゼルガディスが二人に近づいてきた。
未だ人間の姿に戻ることを諦めていないゼルガディスだったが、今はそんな余裕などなく、一時中断し、このセイルーンの王宮でその力を発揮していた。
「何か門のあたりで騒いでいると思ったら・・・到着する早々これか」
苦笑まじりの小言がリナに向けられる。
それさえもリナはなつかしいと感じてしまう。
「あたしのせいじゃないわよ。口は災いの元ってね」
ぱちんっとウィンクしてみせるとゼルガディスは大仰な仕草でため息をついてみせた。
「何言ってんだ。どう考えてもリナのせいだろ~が」
「・・・・・・ガウリィ」
振り返ったリナは、そこになつかしい金色と空の青を見つけた。
瞬間、言葉を忘れる。
「久しぶりだな、リナ」
「・・・・・・久しぶり」
昔と少しも変わらない笑顔に、リナははにかむような笑顔を返した。
そう、ガウリィとリナが出会うのは本当に久しぶりだった。
ゼルとアメリアはしょっちゅうでは無いが時折、リナの隠れ家に顔を見せにやって来ていた。
けれど、ガウリィだけは・・・旅を止めて別れてから一度もリナに会いに来ることは無かった。
薄情だからじゃない。
むしろ。
ガウリィの顔を見ることで思い出してしまうつらい過去をリナに、思い出させないために。ただ・・・それだけのために。
・・・リナのために。
「大きくなったな~」
「・・・何よ、それ」
親戚のおじちゃんか、お前は。
「それに凄く・・・・・綺麗になった」
「・・・・・・・。」
リナはアメリアと同じように返そうと口を開き・・・・何も言わずに閉じた。
変わりににやり、と好戦的に笑うと。
「馬鹿ね~、今さら何言ってんの。あたしを誰だと思ってんの!知る人ぞ知る天才美少女魔道士、リナ=インバースよ!そのあたしが成長すれば、美女になることなんて当然でしょ、当然!この世の必然よ!」
リナのセリフにその場に居た三人が呆気に取られたように固まった。
そして・・・・・
一瞬後、王宮中に盛大な笑い声が響いた。
アメリアに案内され、一行が到着したのはアメリアの父、フィリオネル王の
私室だった。
「よく来たの~、リナ殿!歓迎するぞ!」
「あ・・ありがとうございます(汗)」
数年前より更に不気味な貫禄を増したフィリオネル王に捕まれた腕をぶんぶんと振りまわされながらリナはひきつった笑いをかえした。
「お主が来てくれば百人力、いや・・・千人力じゃ!よろしく頼むぞ!」
「こちらこそ」
フィリオネルも、王子の時と変わらない、一回りも二回りも年の離れたリナに何の拘りもなく頭をさげる。
その人柄こそが、財産だ。
リナはそう思う。
「出来ることなら歓迎の宴でも開きたいところなんじゃが、今は急時でろくなもてなしも出来ん。許してくれ」
「とんでもない。そんな必要はありませんって。余計な気を使わないで下さい。
フィルさん・・・いえ、陛下」
「そう言ってくれると助かる。・・・それにしても、お主」
「はい?」
フィリオネルがリナの頭から足元をしげしげと見つめ、感心したように頷く。
「女の子というものは変わるものじゃの。いや、ごほんっ、綺麗になった」
「・・・・ありがとうございます」
褒め言葉は何度言われても嬉しいものだ。
それがお世辞や追従でなく、真実言われたことならばなおさらに。
「父さん!リナさんはお疲れなんですからそろそろ・・・」
「おおっ!そうじゃったな!アメリア!」
「リナさん!リナさんの部屋はゼルガディスさんやガウリィさんが居る客室のほうへ用意させていただきましたけど良かったですか?」
「別にどこでもいいわよvタダで美味しいご飯が食べられるならv」
「・・・・・外見はいくら変わっても」
「中身は変わらんな」
「変わりませんね」
しみじみ頷く三人にリナは、にっこりと極上の笑顔を見せた。
「「「・・・・・・・っ!」」」
その笑顔に顔を蒼白にさせてひきつる三人。
下手に呪文を連発するよりも数倍、その笑顔は衝撃を与えた。
凶悪だった。
◆
「うーんっ!さすがセイルーンっ!布団がふかふか~っv金かけてるわね~」
リナはアメリアに案内された自分の部屋のベッドの上に上機嫌で飛び乗った。
その姿はとても『大人の』女性には見えない。
リナはしばらくその心地よさを満喫した。
くり色の髪が純白のシーツの上に流れて、まるで水中に居るように思わせる。
そのままリナは目を閉じ、興奮していた神経を研ぎ澄ませた。
そうすると、肉眼ではわからなかったことが「見える」ようになる。
昔はそれほどではなかったが、旅をやめ隠れ家の中で結界を張った生活を送るようになり、リナのその力は驚くほどに鋭くなっていた。
右隣の部屋のガウリィの気配。
左隣のゼルガディスの気配。
アメリアに、フィルさんに・・・城中の適度な緊張感。
そして・・・
「・・・いつまで隠れてるつもり?」
「おや、バレちゃってましたか」
三日月が空間に現れた・・・と思うと闇色の僧衣に身を包んだ、お馴染みの相手が姿を現した。
「・・・ゼロス」
「こんにちわ、リナさん。お久しぶりです」
獣王ゼラス=メタリオムの腹心は、全く変わりない笑顔を浮かべてそこに在った。