熾烈に光る 5.戦の序章


 アメリアとミルガズィアが去ってから一週間がたち、リナは決心していた。

 
 いつか、また旅立つことがあれば使おうと思っていた装備品は手入れを欠かさず倉庫にしまわれていた。
 それをリナはひとつ、ひとつ取り出して蘇る過去を己に刻み付ける。


 ドラゴンの皮をなめして作ったバンダナ。
 幾度も身を守ってくれたショルダーガード。
 愛用だった黒マント。
 非力な自分の手にはちょうど良い重さのショートソード。
 お気に入りの服は旅を止めた後も半年ごとに自分でサイズを測り作りなおしていた。


「・・・もう一度、これをつける日が来たのね」
 ゆるやかな淡い色のローブをまとったリナはそれらの品々を並べて、そして手にとった。

「仕方ないわよね。だって、あんたたちに顔向けできないようなことはしたくないし。
 大人しく、こんなところに閉じこもってるなんて・・あたしらしくない。あたしは・・・
 

 リナ=インバース、なんだから。


 ねぇ、ルーク。ミリーナ」
 そう呟いてリナは笑った。









 ああ、なつかしい街並み・・・。

 リナはセイルーンの城門をくぐり、六芒星の魔方陣に守られたなつかしい街を感慨深く眺めていた。
 
 ここでも色々なことがあったわよね・・・
 お家騒動に巻き込まれたり。
 ・・・魔族に殺されかけたり。

 思えば、本格的にリナの人生に魔族が関わりだしたのは、この街からだと言ってもいいのでは無かろうか・・・。
 そして、魔族と人間の力の差を思い知ったのも。


 リナはそんな過去を思い出しながら黒マントを風になびかせて、王宮への道を静かに歩いていた。
 
 歩くにつれてゆれる長い美しい栗色の髪。
 誰もが振り向かずにはいられない美しい顔。
 醸し出す空気と存在感。

 それらは、常ならばとてつもなく目立ち、また人目を集めただろうが・・・生憎、今のリナはそんな衆目の視線を集める趣味はない。
 一種の目くらましの魔法で周囲に溶け込んでいた。
 このセイルーンにやってくるまでに通った町々と同様に、ここもリナのよく知っている活気が無かった。
 皆、あたりを伺い恐る恐る歩いている・・・といった感じ。
 それでも、まだここは『白魔法都市』と言われるだけあって、店もきちんと開かれているようだし、人々の顔にも多少の笑顔が浮かんでいる。

 だが、その『不安』と『恐怖』はそれを糧としないリナにとっても重く、はっきりと感じることができた。
 
「その・・思いこそが魔に力を与える」
 けれど、ただ人に魔族に対応する術などなく怯えることしか出来ない。
「ろくな世の中じゃないわ」
 リナは誰も居ないはずの空を睨み上げた。














「止まれ!」
「何者だ!無断で城に入ることは許されん!」
 セイルーンの城の門兵たちがリナの前に槍を突き出し行くてを阻んだ。
 以前よりも出入りが厳しく、門兵たちもただの飾りでは無いようだ。
 槍の握り方、動き・・・そこそこに腕の立つ人間なのだろう。
 
 昔のあたしなら・・・・・・爆円舞あたりで吹き飛ばしてたかしら・・・?

 リナはくすり、と笑った。

「何を笑うっ!?」
「あ、ごめん。別にあんたたちを笑ったわけじゃないんだけど・・・ここ、通してくれる?
 今からまた出直すっていうのも面倒だし、アメリアに呼ばれたから来たんだけど」
「何・・・アメリア様に・・・?」
 門兵はますます不審そうな顔になった。
「証明するものは?」
「う~ん、別に無いけど・・・あたしの名前、かな?」
「・・・・何だと?」


「あたしは・・・リ・・」




「リナさんっ!!」
 名乗ろうとしたリナの目の前にしゅたっと何かが降りてきた。
 
 ・・・・・げしっ。

 いや、落下したと言ったほうが正しい。
 
「・・・・・っ!!」
 顔面から地面に仲良くしたアメリアは痛みをこらえつつ、何事も無かったように笑顔を浮かべた。
 ・・・・相変わらず頑丈な子ね・・・・。

「来てくれたんですねっ!」
 リナの手をとり、ぶんぶんt振り回す。
「まぁね。傍観者を気取る、なんてあたしの趣味じゃないし。売られた喧嘩は倍にして売る、てのが心情だし」
 アメリアが引きつった笑みを浮かべる。


「あの・・アメリア様。お知り合いですか?」
「はい!この方は『リナ=インバース』、私たちの希望です!」

 ・・・おいおい。

「な・・っ!?リ・・・『リナ=インバース』!?」
「こ・・この方があの有名な・・・!」
 パターン通り門兵たちが目を丸くする。
 そして・・・・


「し、しかし・・」
「胸が・・・」
 

「「・・・・ある」」
 


 あたしは門兵二人を問答無用で吹き飛ばした。