熾烈に光る 2.破滅の音
「・・・・ミルガズィアさん」
そこにはもう二度と会うことなど無いだろうと思っていた黄金竜の長が居た。
「招待もされておらぬに、突然訪れるような無礼な真似をして済まない」
「違うんですっ!リナさん!私が・・・ついて来てもらったんです!」
ミルガズィアとアメリアが交互にリナに語りかける。
「・・・わかったわ、とにかく立っていられるのも何だから座って下さい」
「すまぬ」
厳かに動くミルガズィアにリナは大きく吐息をつく。
「ミルガズィアさんがこんな所まで出てくるなんていよいよ大事ね」
だいたい黄金竜の長老がドラゴンズピークを離れることがそうは無い。
・・・離れるのは余程の事態。
そう・・・・あの、『赤眼の魔王』が復活したときのように。
「えーと、ミルガズィアさんはお水で良かったんですよね?」
「ああ、すまぬ」
使い慣れたキッチンからコップに水を入れ、リナはアメリアと自分用に紅茶を用意した。
机の上に置かれたコップが三つ。
互いに手をとり、一口ずつ口に含む。
そこでミルガズィアが口を開いた。
「察しのいいお主のことだ、単刀直入に言おう」
「ええ、あたしもそのほうが嬉しいです」
「我々に・・・力を貸して欲しい」
「・・・・・あたしの?」
「そう、お主の」
リナは首を傾げた。
無理も無かろう。
竜の力・・・純粋に力だけを比較するならば人間など足元にも及ばない。
『ドラまた』などという不本意な名称をいただいているリナだとて真正面からあたれば・・・・その辺の雑魚竜はともかく、ミルガズィアなどでは相手にもならないだろう。
そんな存在がわざわざ出向いて、リナに力を請うという。
「あたしの力なんてミルガズィアさんたちに比べればお話にもならないでしょう?
必要だという理由がわからないわ」
「・・確かに、人の力というのは我ら竜族・・エルフ族・・どの種族に比べても
魔法力という点ではどの種族にも及ばぬだろう」
「・・・・・まぁ、確かにね」
「だが、それでも我らに魔族に打ち勝つなどという真似の出来るものはおらぬ。
いや・・・リナ=インバース。お主を除いて誰も居ないだろう」
「・・・・・。・・・・・・」
リナは呆気に取られたように口を開き・・・・閉じた。
重々しい雰囲気が場に満ちる。
微動だにしないリナとミルガズィア、それをアメリアは心配そうに見つめていた。
「・・・あたしは・・・・ミルガズィアさん、あなたが思っているほど強くはない」
ただ、幸運に見ぐまれていただけ。
「力無いものが、魔王を滅ぼし、冥王を滅ぼし・・・・覇王までも相手にすることは
不可能だ。儂だとして己の目で見て聞かなければ・・信じはしなかっただろう。
ただの人間に出来ることではない」
「・・・色々な意味でリナさんはただの人間じゃないと思います」
「・・・アメリア、あんた喧嘩売ってんの?」
「い、いいえっ!!」
ふぅ、とリナは息を吐く。
「とにかく、ミルガズィアさん。申し訳ないですけど今のあたしでは何の力にもなれないと思います。ガウリィの光の剣も・・・魔血玉も無い、今は」
「リナさん・・・・」
「アメリアも悪いわね、せっかく来てもらって」
「いいえ・・・」
「では、それらの代わりを用意すると言えば・・・力を貸してもらえるだろうか?」
「・・・・・・。」
ミルガズィアの言葉に今度こそリナは本気で絶句した。
「全く完全に、とはいかないかもしれぬ。だが・・・かなり近いものを用意することはできると思う」
「・・・本気で言っているんですか?」
「もちろんだ」
「・・・・とりあえず、そこまでする事情を伺いましょうか?」
ミルガズィアは深く頷き、口を開いた。
「そう、あれは・・・お主がここへ落ち着いてしばらく経ったころのことだった」
ドラゴンズ・ピーク。
竜族、エルフ族・・・それらは1年前の出来事が嘘のようにひっそりとした静寂に満ちた暮らしに戻っていた
「我らは平和だった・・・・平和だと思い込んでいた。だが、それが大いなる勘違いであることに気づいたのは・・・それからすぐのことだった。
ドラゴンズピークに突然現れた強大な魔の気配・・・・騒ぎ立てる同胞たちと儂の前に姿を見せたのは・・・」
ミルガズィアは言葉を切り、リナを見た。
「お主も良く知っている・・・『竜殺し』の名を冠した魔族」
『ゼロス』
「・・・・・っあいつが!?」
魔族らしからぬ穏やかな笑顔。
どこまでも慇懃無礼なデスマス口調の獣神官。
現在、この世界に存在する魔族で5指に入る力の持ち主。
リナはこのゼロスに何度も利用され、また煮え湯を飲まされた。
リナとしてもゼロスをこき使ってやった・・とは思うがそれでも。
『利用された』という思いのほうが強い。
「獣神官は・・・魔族としての瘴気を抑えることなく溢れさせながら我らに宣言した」
「・・・・・・・」
何を、そう問わなくてもリナにはわかるような気がした。
「第二次降魔戦争のはじまりを」