馨しき
『・・・ツナ』
シェスタの国・・・とはいえ、ボンゴレのドンであるツナに滅多にその時間は与えられない。
執務室の隣に用意されている仮眠室は滅多に使われることなく、主の不在を伝えるのみ。
だが、さすがのツナも連日の激務に体のほうが休息を欲した。
書類に目を通しながら、うつらうつらと半分意識がとんだ状態になっていたツナを報告にやってきていたリボーンが見つけ、問答無用で隣室に押し込んだのが5分前のこと。
柔らかい日差しが窓から差し込み、爽やかな風がカーテンを揺らす。
全く、こんなにシェスタに最適な日も無かろうという昼下がりの午後。
用意されたベッドで静かに目を閉じるツナを、リボーンは銃の手入れをしながら眺めていた。
二十歳をいくつか超えたとは思えない、日本人独特の幼い風貌。
色素の薄い髪と・・・今は閉じられて見ることは叶わない琥珀の瞳。
シーツからのぞく華奢な肩。
争いごとなど全く向かないような白い印象。
それらはマフィアの中で、侮られるに十分な要素だった。
だが、ボンゴレの中でツナを『ボスらしくない』と言う者は無い。
それどころか『誰よりも、ふさわしい』自分たちの主・・・と部下たちは先を争い忠誠を誓う。
彼は部下を裏切らない。
彼等を家族とし、その身を糧として与えることを惜しまない。
それこそが、マフィア。マフィアの中でも別格として扱われる、ボンゴレのドン。
絶対不可欠な資質。
リボーンの口元が弧に歪んだ。
(・・全く化けたもんだ)
教育をまかされたリボーンもまさか、これほどに成長を遂げるとは思ってもいなかった。
どれほどに血が薄まろうと、ボンゴレの血はボンゴレということか。
―――― その馨しき血に、惹かれずにはいられない。