天賦の才 凡夫の才
投げても超一流、打っても超一流。眉目秀麗で性格も良。
全くケチのつけようが無い『人』が、山本武という人物である。
その反対に、何をしてもダメ、容姿もごくごく普通。ケチをつけはじめたら限りが無い
それが沢田綱吉という人物である。
この二人が『親友』であるというのは、世に美女と野獣の組み合わせが多いように己に無いものに惹かれたのだろうかというのが大方の予想だった。
山本武は堂々と宣言する。『ツナは俺の親友だ』と。
沢田綱吉は、申し訳なさそうにこっそりと、しかし嬉しそうに『山本は、俺の親友…かな…?』と首を傾げる。
「山本」
「んー?」
部活が終わり、道具を片付けていた山本にチームメイトが話しかけてきた。
「来週の日曜日なんだけどな」
「あ、わり。予定入ってんだ」
「おいおい、練習試合入ってるぞ」
チームの大黒柱である山本が抜けるとなると大いに支障をきたす。
「いや、ツナと映画観に行く約束してんだ」
「ダメツナとかよ!」
そんなもの断ればいいだろう試合のほうが大事だと迫るチームメイトに山本は笑顔で『無理』とあっさり否定した。
「何でだよ!」
「だって、俺がツナと映画観に行きてーからな」
ツナも色々と忙しいみたいでさやっと約束とりつけたんだよなーと山本は鼻歌まじりに上機嫌だ。
たかがダメツナと映画を観に行くのに、何故そこまで山本が上機嫌になるのかチームメイトにはわからない。だって、何をやってもダメダメダメなダメツナなのだ。山本と釣り合わないにもほどがある。
「山本、付き合う奴は選んだほうがいいぞ」
親切な忠告のつもりだった。
ダメツナと付き合ったって山本が得るものなど何もない。そう思ったから。
「選ぶ?…ああ、そうだな。ツナに選んでもらえて良かったなー」
「いや、そうじゃなく…」
ダメツナじゃなくてお前のほうが、と言いかけたチームメイトの鼻先にバットが突きつけられた。
「ツナは俺の親友だ。あいつよりスゲー奴を俺は知らねーし、俺のこと親友だって言ってくれるのがスゲー嬉しかったりする」
だからそれ以上綱吉を否定するような言葉を吐くな、と爽やかな笑顔を浮かべる瞳には冷たい炎がかぎろう。チームメイトの背筋にぞくりと寒気が走りぬけた。
「じゃ、そういうことで。お疲れ~」
いつの間にか片付けを終えた山本はさっさと夕闇の中を去っていく。
ただ呆然と見送った。
(ツナ、ツナ。俺の大事な親友)
初めて見つけた何よりも大切な宝物のように、綱吉の名はそれだけで山本の心を熱くする。
小さなその背中に駆け寄らずにはいられない。
その瞳に己の姿は映してもらいたくてたまらない。
「ツナ!」
「っ山本!?」
背後から覆いかぶさった山本に、綱吉の琥珀の瞳が大きく見開かれる。驚愕の後に、山本を認めて柔らかく溶けていく眼差しは、極上の蜂蜜のように甘やかでうっとりする。
「部活終わったの?」
「ツナは補習だったのか?」
「うん、サイテー。終わんなくて宿題になっちゃった」
「うわ、そりゃ大変だな」
「ホントだよ」
顰められた顔が、山本を見てくすりと笑う。
「何?」
「ここ、泥がついてる」
綱吉の手が、山本の頬をたどった。
その温かさに心臓がどくりと音を立てた。
「あ、わり」
「いいけど」
山本は照れ隠しにごしごしと袖で頬を拭った。
(ツナはスゲー奴)
改めて思う。何げないただ一つの行動で、これだけ山本を揺さぶることが出来るのは綱吉ただ一人だ。そして、山本を山本武として、普通の友人として接してくれるのも。
「ツナ。俺、ツナのこと、好きだ」
「何、急に」
「好きだ」
「俺だって、山本のこと好きだよ」
何言ってんだか、と綱吉は照れくさそうに笑った。
好きだ。好きだ。どうしようもなく好きだ。
俺をここまで狂わせる、沢田綱吉。
こんなスゴい奴は他には居ない。