主よ 人の望みの 喜びよ 13
2時間ほどの飛行の後、スカルと綱吉はマフィアランドに降りた。
ただ今管理者不在ということで閉鎖されているマフィアランドは、以前に来たときと同じように整えられていたが、どこか閑散としていた。
「コロネロ先輩の指示でここに連れてきた。・・・これからどうするかはコロネロ先輩に聞け」
リボーンとの戦いで無事に生き残れたならば、コロネロが来るはずだから。
「ありがとう、スカル。元気でね。あまり無理しないように」
「……」
置いていこうとするスカルに恨み言も言わず、綱吉は気弱な笑顔を浮かべている。
一緒に来るか、などとスカルには言えない……言いたくても。己の強さは、リボーンには劣ることを知っているがゆえに。スカルについてきたとしても綱吉は逃げられない。
悔しい。
こんなにその事実が悔しかったことは無い。
「俺は、もっと強く……強く、なります」
「うん」
切実なスカルの思いも知らず、綱吉は『他の奴らとちがってスカルは素直で頑張り屋さんだなぁ』と微笑ましく思っていた。
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波が打ち寄せる砂浜沿いを歩き、誰にも会うことなく裏マフィアランドに綱吉は辿りついた。
コロネロと何か打ち合わせをしていた訳では無い。ただ、ここにスカルに連れてこられて、ここがコロネロと最初に会った場所だから。何とはなしに来てみただけだ。
それが何故……
「遅いよ、綱吉」
南海の楽園には不似合いな黒い学ランが、翻る。
「雲雀、さん……?」
雲雀は呆然とする綱吉に、足音もたてることなく歩み寄る。
「鬼ごっこをしているんだってね?」
鬼ごっこ?
「赤ん坊が鬼で、君が餌だろう」
「エサ!?……いや、ええもう、似たようなもんですけど」
必殺のトンファーを構える雲雀の姿に綱吉は怯えた。最早刷り込みだ。
「鬼を追い返してあげたら君は何をくれる?」
「えぇっ!?」
雲雀が満足する何かを差し出せるほどのものを綱吉は持っていない。安易に頷いて、後で用意できなければトンファーでぼこぼこだ。
「え、俺に、雲雀さんにあげるようなものは何もないですっ!!」
そんなおこがましいっ!と高速で綱吉は頭を振る。その横を高速のトンファーが過ぎる。
「ひっ」
「君の時間を貰う」
何だ、それは。どういう意味なのか。
「いいね」
首元にトンファーを突きつけられ、否も応も無い。何も応えられない綱吉に構うことなく自己完結した雲雀は呆然とする綱吉の肩を押した。
たたらを踏んで、綱吉は尻餅をつく。
「景品は、そこで見物しているといい」
景品!?
不穏な言葉にぎょっとして文句を言おうと口を開いた瞬間。
ごぉぉと頭上間近を戦闘機が通過していった。
「あ、あぶっ!?」
ここが居住区なら後で住民争議になりかねない近さだ。
戦闘機につられた視線を戻せば、そこには黒い影。
「ツナ」
手こずらせやがって、とニヤリとイイ笑いを浮かべる。
綱吉の背筋が粟立った。危険!危険!オールレッド!今すぐ退避せよ!!……超直感は綱吉に絶体絶命を告げてくる。
「駄目だよ。赤ん坊。綱吉の時間は僕のものになった」
すでに!?
「邪魔をするつもりか、雲雀」
「正当たる権利を主張するだけだよ。欲しければ奪ってごらん」
リボーンの笑みがす、と引いた。
「上等だ」
ひぃぃっ!重い!痛い!空気が!!!
本能的にその場から逃げ出そうとした綱吉に、二対の視線が突き刺さる。
「綱吉、大人しくしてなよ」
「心配するな。すぐに終わる。……お仕置きだぞ、ツナ」
どっちが勝っても地獄だ。
綱吉は涙をこぼした。