7、願いは叶う、きっと
再びマリリアードが幼稚園を休んだのは、O2と約束を交わしてから二ヵ月後のことだった。
O2は保母さんに腹痛だと、どう見てもそうとは思えない病状申告をするとさっさと幼稚園を
後にした。向かうはマリリアードの自宅である。
前に来たようにインターフォンなど押さず、さっさと無断侵入したO2を出迎えたのは機械とは
思えない声を発する『オドロ』だった。前に来た時はもっと機械らしかったはずだが。
「前と違うな」
『これが通常です』
「なるほど」
つまり猫を被っていたということか、とO2は納得した。
「マリリアードはどうした?」
『……』
「オドロ、応えろ」
『幼稚園はどうされました?』
「腹痛で早退だ」
『光主はお部屋にて……』
聞く前に、O2は記憶にある部屋へ到着していた。
「マリリアード入るぞ」
「はい、どうぞ」
予想外に平静な声に扉を開けるO2の手が一瞬止まったが、そのままノブをまわす。
マリリアードはベッドの上に身を起こし、O2の方へ顔を向けていた。
「元気そうだな」
「オリビエ。わざわざお見舞いに来てくださったんですか」
いつもの穏やかな笑顔を浮かべ出迎える。どこにもおかしなところは無い。
だが、違和感を感じた。
「……今日は何があった」
「少々体調を崩しまして、大事をとってオドロに休むようにといわれたんです。ご心配をおかけしまし
たけど、大丈夫で・・・」
「マリリアード」
O2は言葉を遮り、マリリアードの目を覗き込んだ。
「お前……目が見えていないのか」
「……全く、あなたときたら」
5歳児とは思えない仕草でため息をつき首を振ったマリリンは、苦笑を浮かべた。
「気づかれない自信はあったんですけど」
「無駄な努力をしたな。いつもより少し瞳孔の動きが鈍い」
いったいどんな観察眼を有しているのか、O2はあっさりと言い放った。
「オリビエ、察しが良すぎますよ。あなたにはおちおち隠し事もできませんね」
「マリリアード。他に何を隠している?」
O2はじっとマリリンから視線をはずさず、その肩を掴んだ。
「……」
「平静なふりをしているが、かなり狼狽しているだろう」
「……どうしてわかってしまうんでしょうねぇ」
「話を逸らすな。聞くまで帰らんぞ」
「いつからそんなにお節介になったんですか?」
「お前は特別だ。他の誰が生きようが死のうが構いはしないが、お前に何かあれば、俺は、俺として
生きることは出来なくなるだろう」
マリリアードの顔から表情が消えた。
「診断で、目がウィルスに犯されれば……タイムリミットが始まると」
「……っ!」
O2が息を呑んだ。
「オリビエ……」
見えてないはずの目で、しっかりとO2の手を取ったマリリンは泣きそうな笑顔を浮かべた。
「どうか、オリビエ……たとえ私が居なくなっても、あなたがあなたとして生きることをやめないで下さい」
「言うな」
「私の、お願いです」
「マリリアードっ!」
「オリビエ」
「あなたが、私は大好きですよ」
きっと、その笑顔は。
一生忘れられないだろう。