5、初めての……


 O2が見舞い(?)に行った二日後マリリンは何食わぬ顔で幼稚園へ姿を現した。

「マリリン、もう風邪はいいの?」
「ええ、もう大丈夫です。ご心配をおかけしました」
「無理しちゃダメだよ?」
「ええ、ありがとうございます」
 そつなく子供たちの相手をするマリリンの前にO2は立ちふさがった。O2を苦手としている子供たちは ひきつった顔でマリリンの傍から離れていく。
「おはようございます。どうしたんですか、オリビエ?」
「害虫駆除だ」
 あまりのいい様にマリリンは怒るより笑ってしまった。
「まったく、あなたという人は遠慮がありませんね」
「お前に遠慮なぞしてどうする。苦しいのなら家で大人しくしていろ」
「おや、そう見えますか?」
「見えないから言っている」
 困ったようにマリリンは首をかしげた。確かに苦しくないわけでは無かったが、数日前よりも苦痛は 減り、気分も楽になっていた。もしかすると……
「オリビエのおかげなのかもしれませんね♪」
「……?」
 マリリンの意味不明な言葉にO2が眉を寄せた。
「あなたがお見舞いに来て下さったおかげで……」
 マリリンは他の子供たちに聞こえないように、オリビエの耳元に口を寄せ囁いた。
「随分気が楽になりました……ありがとうございます」
「……。……気休めだ」
「それでも、です」
 マリリンの典雅な笑顔にさすがのO2も一瞬言葉を失った。



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 O2は子供たちと遊ぶマリリンを見つめて……観察していた。
 普通の人間にならばまず見破ることは不可能だろうが、反応が僅かに遅れるときがある。
 マリリンの身体をどれほどの苦痛が襲っているのか本人でない限りわかるはずもないが、平気な 顔で子供たちに付き合うマリリンの根性には拍手したいほどだった。
 O2はマリリン宅から帰ってシタン病について調べていた。
 生きているうちに細胞が炭化し始め、やがてそれが全身にいきわたり、黒ずみ水分の蒸発した 醜いミイラが出来上がる。生きたまま身体を蝕まれ、破壊されていく。
 ほとんどの者は炭化が全体に進む前にショック死するようだが、無理も無い。壮絶な死に様だ。

 シタン病ウィルスは自然発生したものではない。
 誰かが何らかの意図のもと創り出した、人工的なウィルスだ。
 それがマリリンを……マリリアードを苦しめている。

 O2は強く握り締めた手をほどき、残った爪痕に苦笑を浮かべた。
 頭脳はどれほど大人顔負けであろうと……身体は5歳児のもの。世間的にはまだまだ親の庇護下に 居るただの未熟な子供に過ぎない。
 それなのにタイムリミットは半年。

「オリビエ?」
 O2の思考に割って入ったマリリンの声。
 驚いたのは掛けた当人だった。
「オリビエ……あなた」
「何だ?」
「……気づいてないんですか?」
 マリリンの白い手がO2の頬を撫でた。


 O2は――――― ……泣いていたのだ。