ペテン師
「お前は性質が悪い」
「オリビエ……その言葉はそのままあなたにお返ししますよ」
琥珀色のブランデーが揺れるグラスごしに、銀髪が見える。
普段の冷酷な表情が嘘のように、穏やかに微笑さえたたえた情報部部長、オリビエ・オスカーシュタイン大佐の
目の前には瓜二つの美貌を宿した男……マリリアード・リリエンスールがゆったりとソファに身を預けている。
久方ぶりの逢瀬が実現したのは、偶然でも何でもなく、マリリアードがO2へ約束をとりつけたせいだ。
どちらも気が狂うほどに忙しい身で、肉眼で互いの身を確認したのは半年ぶりになる。
その半年前ですら、すれ違いざまに声をかけただけだ。
「心外だ。私は”性質”が悪いのではなく”性格”が悪いんだ」
「そんなことを偉そうにおっしゃらないで下さい。だいたい私のどこが”性質”が悪いんです?」
「そう自覚しているくせに尋ねてくるあたりだ……今回のことだとて、厄介ごとを持ってきたのだろう」
「それこそ心外ですね。私が持ち込むまでもなく、いつもあなたは厄介ごとのただ中に居るじゃありませんか」
「お前こそ負けず劣らずだろう」
「……不毛ですね」
「……そのようだな」
所詮似たもの同士。掛け合いは平行線をたどる。
「まぁ、時間もありませんから本題に入らせていただきます。実はあなたにお願いをしたことが」
「ぞっとしないな、お前の願いごとなど……言ってみろ」
O2の言葉にマリリアードは艶やかに笑った。
実際のところ、マリリアードは知っていた。確かに自分は”性質”が悪いのだろう。
親友のこの”優しさ”につけこもうとしているのだから。
「ありがとうございます、オリビエ」
「何も叶えてやるとは言ってない。聞いてやるだけだ」
それこそが、特別なことなのだと……どこまで目の前の男は気づいているのだろう。
(そして私も……)
屈折しつつも、何より目の前の男を大切に思っているのだ。
O2以外に”願い事”などしは、しない。
そんなものは他力本願に叶えるものではなく、自身で勝ち取るものだからだ。
だから、このO2への”願い事”は……
(我侭、に近いのでしょうね・・・)
内心苦笑し、マリリアードはO2への”願い事”を語りだした。