万華鏡
「結構わかりやすい人ですよね、あなたは。ね、オリビエ?」
「突然やってきて、何が目的だ。マリリアード」
情報部部長オリビエ=オスカーシュタイン、ラフェール最後の王子マリリアード=リリエンスール。
宝○も真っ青な名前を持つこの二人、片や悪魔のようなと形容詞がつくことの多いO2と、片や天使の
ようなとの形容詞が笑ってしまうほどによく似合う、マリリアード。恐ろしいことに親友同士。
互いに銀河で1,2を争う忙しい二人である。
直接顔をあわせることなど年に1度あるかないか。
それもだいたい、どちらかがトラブルに巻き込まれている時とくる。
だからこうして、瑠璃宮の情報部部長室で和やかに会話を交わしているなど、有りえるはずが無い。
だが、事実。マリリアードはO2の前に顔を見せた時以来、急いだ様子もなく、無駄口を叩いている。
探るような視線を向けるO2を誰も責めは出来ないだろう。
「いえ、あなたを知っている方によく言われるんです」
「何をだ」
「『よくあんな奴と付き合えるな。気がしれない』と」
「……」
ふ、と小馬鹿にしたようにO2は鼻を鳴らした。
「その方々によるとあなたは『いつもスクリーングラスで目元を隠し、何を考えているのか全くわからない。
冷静沈着といえばいいが、感情が無いコンピューターのようだ』と」
「くだらんな」
他人の評価など、毛の先ほども気にならないO2はあっさりきって捨てる。
「ですから、私は言ってあげたんです。オリビエはかなりわかりやすい人ですよ、と」
「……。……」
「ほら、今なんてちょっと不機嫌になったでしょう?」
そう言ってマリリアードは、先ほどから全く反応していないように見える眉間を指差す。
「好き嫌いもかなりはっきりしてますし……嫌いな相手は完璧に無視しますものね」
「……」
「他人の弱みにつけこんでいじめるのが楽しみだなんていう、子供っぽいところもありますし……それから
ああ、そう!」
「まだ何かあるのか」
うんざりしたようなO2の声。反するマリリアードは至極楽しそうだった。
「休みの時にしか私服は着てらっしゃらないですけど、結構服道楽ですよね?」
偶にしか会わないくせに何故、そこまで詳しい情報を得ているのか。
「他にお金の使い道が無いせいでしょうけど、他に思いつかないあたり可愛らしいじゃないですか、と
自分で言ってて何だか悪寒がしましたよ」
「マリリアード、お前はいったい何をしに来たんだ?仕事の邪魔か?」
普段のO2ならば、邪魔と思えばどんな相手であろうとすぐさまに排除しにかかるところだが、目の前の
相手だけには弱かった。
せいぜいスクリーングラスの奥から睨みつけるしか出来ない。
そういう所は、確かにマリリアードの言う通り『可愛らしい』のかもしれない。
マリリアード以外、恐ろしくてO2相手にそんな単語を使うことなど出来ないけれど。
「ですから、そんな風にあなたのことを考えていたら急に顔を見たくなったんです」
「……」
O2が完全に動きを止めた。
「ただ、あなたに会いたくなったんです」
にっこりと笑って、とどめをさした。