やきもち
「マリリアード、私には納得できないことがあるのだが」
「何ですか?」
FMのことがバレた後、共に暮らすようになって半年。
ルシファーを寝かしつけた後、こうして夫婦(だなんて言いたくもないが)水入らずでとりとめなく
話をしながら夜を過ごすというのは、少なくは無かった。
珍しいのは、本日のO2が少しばかり不機嫌であったこと。
だが、そんなもの怖くもない何とも無いマリリアードは穏やかに問いかえしてグラスを差し出した。
「お前が私の前に初めて姿を現したとき、ロブ=ジョナサンの基地に居たのは果たして偶然か?」
フリーダとしてO2の前に姿を現したのは、カラワンギの騒ぎのとき。
「偶然といえば偶然ですけど、嬉しい偶然というものでしょう」
マリリアードはあっさりと頷く。そこにさしたる感情は浮かばない。
だが、本日のO2はそれでは納得しなかった。
「確かにあいつは、まさかFMがお前だなどとは気づきもせず悲嘆にくれていたが……お前が何の私情
も交えずにロブ=ジョナサンの傍に居たとは信じられん」
ここに至って、O2のしつこいからみにマリリアードが首をかしげた。
「何が言いたいんです?」
「ロブ=ジョナサンは昔からお前のお気に入りだ」
「ええ、そうです。ロブは私の天使ですから」
「50を過ぎたオヤジに天使も無かろう。いくらあれが童顔とはいえ無理がある」
「容姿の如何ではありません。ロブは年を重ねても素直でいい子ですよ」
果たしてそのマリリアードの言葉をロブが素直に喜ぶかは難しいところだ。
「だいたい視力の無いあなたに容姿などどうでもよろしいでしょう?あなたは外見は変わりありません
けど立派な親父ですよ……いえ、ジジィの仲間入りでしょうか?」
「話をそらすな」
「そらしたのはそちらでしょう。私がロブの傍に居たのが私情かと問われれば、そうですと答える
しかありませんね」
O2の機嫌が急降下した気配を感じた。
「何しろ手のかかる人がそろそろ復活しようかとしていたものですから。どうもあなたには厄介なものを
引き寄せる吸引力でもあるんでしょうか……あなたが関わるとろくな事がありません」
「それはお前だろう……そのある人というのは、私のことか?」
「さぁ、どうでしょう」
もし、O2が居なければFMの秘密は誰にも知られることなく、そのまま歴史に葬られていたはずだ。
全てはO2のゆえに。
「なるほど……私は、2度も同じ人間に誑しこまれたわけか」
「人聞きの悪いことを言わないで下さい。私には全くその気は無かったんですから、勝手に誑された
あなたが悪いんです」
マリリアードの憎まれ口にO2はふふん、と鼻をならした。
いったい先ほどまでの不機嫌さはどこへいったのか……と考えたとき、唐突にマリリアードは察した。
「本当に、あなたは手のかかる男ですね……」
深く、深くため息をついたマリリアード。
「お前のせいだ」
ぬけぬけとO2は言い放った。
つまりは、O2はロブ=ジョナサンに嫉妬していたらしい、ということ。