Caught the scent







なぜ
どうして



そんな問いは







捨 て や が れ










「そういえば不思議よね」
「何が?」
 食糧補給のために立ち寄った小さな島で、ナミは横を歩くチョッパーに日頃の
 疑問をぶつけてみた。

「ルフィもゾロも超方向音痴で、放っておくとどこいくかわかんないじゃない」
「う……うん」
「そのわりにあの二人ってちゃんと揃って帰ってくるのよね~」
「そういわれると~……」
「でもあの二人、出ていくときは別々でしょ。ルフィなんか『冒険の臭いがする~』とかいって仕事放り出してどっかに行っちゃうし、ゾロだって修行ついでに獲物とってくるようなもんだし……不思議よね」
「小さい島だから偶然会うとか……」
「どこでも、よ」
 やけに詳しく観察しているナミにチョッパーはひきつる。
 そんなに気になるなら本人たちに聞けばいいのに、とナミに言えない気弱なチョッパー……船の中で一番苦労人かもしれない。
「でもやっぱりあの二人が示しあわせるなんて器用なこと出来るわけないだろうし……偶然かしら」
「……」
 偶然でも、そうでなくてもさして問題は無いだろうとチョッパーは思うのだが。
 ここで逆らうほどチョッパーは命知らずでは無い。

「よしっ!チョッパー!」
「ははいっ!!」
 勢いよく振り返られてチョッパーは驚きに飛び上がる。
「ゾロとルフィの謎を探れ!出動よ!」
「……は?」
「は?じゃないの!は、じゃ。ガンバってね★」
「う……」
 ナミの目から『もちろん断るわけ無いわよね』という無言のオーラが発せられていた。








 2時ちょうど。ルフィ発見。
 
 ナミに命じられルフィとゾロの探索に乗り出したチョッパーはまずルフィを発見した。
 ルフィは探険に熱中し、目をきらきらさせながら跳ね回っている。
 まさにその表現があてはまる暴れん坊ぶりだ。
 この様子では彼の頭には、追いかけている虫たちのことしか無いだろう。

「う~ん……」
 双眼鏡をはずしたチョッパーは次のターゲットに移動することにした。


 2時半過ぎ。ゾロ発見。

 ゾロもいつものように筋トレに励んでいた。
 チョッパーなど持ち上げようも無い巨大な石を頭の上に持ち上げて坂道を登っているところ。上まで行ったら下りてくるのだろう。
 ……と観察を続けること30分。
 ゾロは同じことを繰り返していた。

 こちらも修行のこと以外、頭にないらしい。

「う~ん……」
 確かにナミが言う通り、この二人が揃って帰ってくるというのには多いなる謎があるし、無理がある。
 ……不思議、かも。

 チョッパーが納得していると、ようやく修行を打ち止めにしたらしいゾロが船とは反対方向の森の中へ入っていく。
 方向音痴な彼のこと。
 きっと何も考えず迷っているのだろう。
 チョッパーは観察を続けた。


 ゾロは進む。
 真っ直ぐ進む。
 どこまでもどこまでも、真っ直ぐ進む。
 ……彼の足は曲がることを知らないのかもしれない、なんてことをチョッパーが本気で思ってしまうほど、ゾロはひたすらに真っ直ぐ進んだ。

 そして何と!!

 チョッパーは驚いた。



「よ、ルフィ」
「あれ、ゾロ」

 何と、ゾロはルフィと遭遇してしまったのである。

「そろそろ時間じゃねぇか?」
「そっか~、ナミ怒るから帰らないとな!」
 木に登っていたらしいルフィがするすると下りてくると、ゾロの隣に並んだ。
 そして二人は一緒になると再び真っ直ぐ、真っ直ぐ・・・ひたすらに真っ直ぐに進み続け……



 船に辿りついてしまった。



「……????」
 ご苦労にもずっと二人の後をついてまわっていたチョッパーは訳がわからず首を傾げ続ける。
 そして、待ち構えていたナミに捕まり事の詳細を白状させられる。

「……ポイントはゾロね!」
「……」
 ナミはゾロを問い詰めるべく走って行った。





「あぁ?知るかよ」
「はぐらかさないで!どうしていつもいつもルフィと一緒に帰ってくるのよ!」
「だから知るか!俺の通り道にあいつがいるだけだ!」
「そんなわけないでしょっ!白状しなさいっ!」
 傍で聞いているとまるで夫の浮気を問い詰める妻という、会話だがはっきり言ってこの二人にそんな甘い雰囲気など一欠けらも無い。

「……するんだよ」
 ゾロがぼそりとそっぽを向いて呟く。
「聞こえないわよ」



「臭いがするんだよっ!」



「……。……ルフィの?」
「……。……ああ」
 何だか気まずい雰囲気が漂う。

「……野生動物」
 ぽつりと落としたナミの呟きに、聞き耳を立てていたチョッパーは深く頷いた。