溺れる
酒に溺れる
水に溺れる
女に溺れる
そのどれにも当てはまらない自分が唯一溺れたもの
己の腕を試すため、世界へ飛び出た。
だが、世界は広い。
そして、知れば知るほどに面白い。
世界一の剣豪になること、それは容易い道では無いとわかってはいたが
当代世界一と言われる男と戦い改めてそれを思い知った。
だが、あきらめるつもりは無い。
俺は俺だけのために世界一になるのではない。
それだけの肩書きを持たなければ、傍に居ることさえ許されない、海賊王のために……俺はそれを求めた。
まぁ、もっともあの男が世界一なんて肩書きに拘るとは思えないのだが……。
それが自分のけじめ。
もう二度と負けないと誓った俺の……俺自身への……。
「ゾローーっ!!」
「……何だ?」
「あれ、起きてたのか?」
「……寝てるのがわかって声かけて来たのか、お前は……」
寝転んだままの視界には青空と……何よりも眩しい太陽が映る。
ルフィが満面に浮かべる笑顔はいつだって眩しすぎて直視できない。
「しししっ、サンジがメシだってさ!」
早く行こうぜ、今日は肉だもんな!と楽しそうなルフィには悪いが確か昨日も一昨日も……その前もメイン料理は肉だった。
……まぁ、文句は無いが……あのクサレコックの思惑が腹だたしく無くもない。
「今日はデザートもあるんだぞ!」
まるで自分が作ったのごとく胸をはって自慢するルフィに苦笑が漏れる。
「……それなら早く行かないと済んじまってるんじゃないのか?」
「なにーっ!そんなの許さんーーっ!!」
「おいっ……引っ張るなっ!!」
自分だけ急げばいいのを、ルフィの手は己の腕を掴み凄まじい勢いで食堂へ駆けていく。こっちが柱にぶつかろうとお構いなしに……。
「俺の肉ーーっ!!」
ガンッ!ドガッ!ベキィッ!!!!
また、ウソップの野郎の仕事が増えたな……。
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「なぁ、ルフィ」
「ん~……」
聞いているのかいないのか……ルフィは船首でこくりこくりと船をこぎながら俺の問いかけに声をもらす。
「いつか……」
そう遠くない未来に。
『ゾロは世界一の剣豪だっ!すげーだろっ!!』
そんな風にお前の口から言われることを願うのは愚かだろうか……。
「……落ちるなよ」
「ん~・・」
らしくない思いが馬鹿らしくて口から出る前に消えていく。
変わりに出た言葉がそれだとは自分でも情けない。
「ゾロ」
ゆっくりと振り向き、俺の名を呼んだルフィの声は思いのほかしっかりしていた。
「まだまだ、これからだ」
「……ああ、そうだな」
そう、俺たちの未来はこれからだ。