俺は
「二度と負けない」
ロロノア・ゾロの名と
未来の海賊王、モンキー・D・ルフィ―の名に
誓う
月もない夜の闇。
海面にゆらめくは光は……思い半ばに死んだ海賊たちの魂か……。
ただ静かに船へと打ちつける波は、グランドラインでは稀なほど穏やかでまるで鎮魂歌のように物悲しく、哀れだった。
「ルフィ」
3本の剣を腰にさし、ふらりと船上をトップへと歩いてくるのは『ゴーイングメリー号』船員……ロロノア=ゾロ。
海賊王になると言い放ったルフィに世界一の大剣豪になると宣言した男。
「ゾロ……どうしたんだ?」
「お前こそ、こんな夜中に何をしている?」
「いや、ちょっと目が覚めて……ついでに腹も減ったから……きしししっ!」
手にはキッチンから持ち出したと思われる太いソーセージを5、6本抱えていた。
「……サンジに蹴られるぞ」
「大丈夫だって、ゾロが言わなきゃバレねーもん!」
どう考えてもバレるだろう。
そんなことをするのはこの船でもルフィだけなのだから。
「ま、いいがな……」
「なっ、ゾロも食う?」
「……もらおう」
これで自分も共犯だと思いつつも、拒否する理由は見当たらなかった。
「でも、夜にゾロが起きてるなんてめずらしーなっ!」
「ルフィもな」
「同じか~きしししっ♪」
「……」
同じ……何でもないルフィの言葉が、胸に落ちた。
「……ゾロ?」
黙り込んでしまったゾロの顔をルフィが下から見上げてくる。
「……何でもねー……」
そう言いながら、ゾロは三本の剣を操る厚く広い手を己の顔にかぶせた。
ああ、気づいちまった。
俺は……こいつに……ルフィに……
「ゾロ……?……っ!」
「すまねー、しばらくこのままで居させてくれ……」
ルフィの体にまわされたゾロの腕は抱きしめる、というには強すぎる力でその体をかき抱いた。
たやすく折れてしまうほどに細く、華奢な体。
だが、この船の誰よりも強いと知っている。
それでも。
俺は。
お前を。
”守りたい”と思った。
誰よりも前を向き、
留まることを知らず突き進む、
未来の海賊王。
俺はその道を誰にも邪魔させはしない。
遮るものを全て、朱に染めようとも。
ルフィ。
お前は後ろをふりむくな。
何も考えず、ただ前へ進め。
そのために誓おう。
俺は二度と………………………………倒れない。
「わりぃ……ちょっと風にあたられたみてーだ」
腕をほどき、大人しく抱かれるままだったルフィの顔を見つめた。
その顔には……満面の笑みが広がっていた。
「しししっ。今日は特別な日だもんな♪」
「……覚えていたのか……」
人の名前すら満足に覚えていないルフィが。
「だって、ゾロが仲間になった日だもんな♪」
「……脅迫まがいの手でな」
「しししっ!!だってオレ、すっげーゾロのこと欲しかったんだもん!!」
「……」
ゾロの口があいたまま、塞がらなかった。
こいつは素面で”人”を堕とす。
……だから惹かれたのかもしれないがな……
「ふん……これからもよろしくな、船長」
「おうっ!!」
そして夜の帳は幕をあけ…………
朝を迎える。
「おいっ!ルフィっ!!お前また盗み食いしやがったなっ!!」
「うえっ!?何でバレたんだっ!!!??」
騒がしい日常が繰り返される。