Dearest


 季節は夏。
 甲板にはいつものようにルフィが元気よく跳ね回っていた。

 「へへ、サンジーッ!お腹空いたーっ!!」
 キッチンから顔を出したサンジを見つけるやいなやルフィは叫ぶ。
 「あぁん、さっき朝食食ったばっかりだろーが!」
 「そうだったかぁ?だって減ったもんは減ったんだもんな、サンジぃ♪」
 自分より背の高いサンジを上目遣いで見上げて、おねだりする。
 果たしてその効果を知っているのか、いないのか・・・・。
 サンジはふわん、と蕩けそうになる顔を必死でひきしめて「ったくしょうがねーな」と再びキッチンへと戻る。
 「しししっ!」と笑いながらそれに続くルフィ。
 ……サンジはルフィにおとされた。


 「ゾローっ、ゾロっ!!な、魚釣りに行こ、魚釣りっ!!」
 「だーっ、うるせぇ。俺は昼寝してんだ。一人で行け」
 「一人じゃつまんねえだろっ!」
 「……ウソップでもさそえ!」
 「今、忙しいんだってさ」
 「ナミは?」
 「肌の手入れだって」
 「……」
  もちろんゾロは間違ってもサンジを誘えとは口が裂けても言えない。
 「な、ゾロ。俺ゾロと行きたいっ!!」
  その言葉はゾロの頭にクリティカルヒットした。
 「……竿は?」
 「あるぞっ!!」
  ゾロは起き上がり、無言でルフィから竿を受け取ると岩場に向かって歩き出した。
 ……にやけそうになる顔をしかめながら。
 「ゾローっ!!」
  こうしてゾロもおちた。



  そして、夕食。
  キッチンには皆が集まっていた。
 「ルフィ、今日は何してたの?」
 「ん?」
  骨つき肉を呑み込みながらルフィはナミの問いに答えた。
 「朝は、サンジの作ったメシ食ってた!」
 「お昼は?」
 「ゾロと魚釣りしてた!!」
 「どっちが良かった?」
  ナミが腹の中は何を考えているかわからないが表面上は微笑ましそうにきつい質問をした。
 「ん~、サンジのメシは美味かった!!ゾロと魚釣りは楽しかった!!」
 
 ピシピシィィッッ!!!

  サンジとゾロの間に火花が散った。
  その様子はナミは面白そうに見る。
  ウソップはそろそろと椅子を後ろにひいた。

 「じゃ、ルフィはサンジ君のこと……好き?」
 「うん、好きだぞ!!」
 「ルフィっ!!」
  トチ狂ったサンジがルフィに抱きつこうとしたのをゾロが抑える。
 「邪魔すんじゃねぇ!このクソ剣豪がっ!!」
 「何だとっ!!」
 「それじゃあ、ゾロは?」
 「好きだっ!!」
  ゾロの手から刀が滑り落ちた。
  危うくサンジの足に突き刺さりかける。
 「うぉ、何しやがるっ!!」
 「うるせぇっ!!」
 

 「それじゃあ……どっちが好き?」
 
  殴る蹴るの喧嘩をはじめたサンジとゾロが動きを止めた。
  ルフィの答えを固唾を飲んで見守る。
 
 「どっちも好きだっ!!ナミも好きだぞっ!!」
  がくぅっ。
 「「その好きかよ……」」
  二人はそろって肩をおとした。
 
 「ありがと。でも、誰か一人、て言われたら?」
 「一人かぁ?……う~ん……」
  ルフィは腕を組んで考えはじめた。
 (さぁ、誰を選ぶんでしょうね、ルフィは♪)
  ナミは完全に面白がっていた。
 
 「よしっ!」
  ルフィがぽん、と膝を叩いた。
 ごくり。
  二人の視線はルフィに集中する。






 「シャンクスだっ!!」



 「「何---っ!!!」」
 
  報われない男たちの絶叫が夜のシジマにこだました。









 ★おまけ★
 
 「へっくしっっっ!!!」
 盛大なくしゃみに赤髪がゆれる。
 「何だ、風邪か?」
 「馬鹿言え。誰がそんなもんになるか!……こりゃあきっとルフィが噂してやがるんだな!!」
 「…………ああ、そうかい……」
 いったい何の根拠でそんなことになるのかと呆れながら、イッちゃってる様子の頭に何も言えないベックマンだった。