「ルフィ」
俺は3歳年下の弟に真面目な顔で向かい合っていた。
だが、弟のほうはそんな俺の一世一代の気合も悟ることなく、いつもと同じように
ちなみに俺はルフィの兄だが、『お兄ちゃん』や『兄貴』などとは呼ばれたこともない。
また呼ばれたくもない。
ルフィにとって俺は『エース』という一人の男でありたいのだ。
「ルフィ」
俺は萎えそうになる心をふるいたたせてもう一度ルフィの名を呼んだ。
「なに??」
俺を見つめてくるまっすぐな深い闇色の瞳。
・・・・吸い込まれそうだ。
・・・・なんてことを考えてる場合ではない。
「一つ聞くぞ。ルフィ」
「おう!」
ああ、返事まで可愛らしい。
・・・とそうじゃない。
どうにも逸れがちの思考を修正すると俺は次の言葉を言い出すために大きく息を吸い込んだ。
「俺とそいつとどっちが好きなんだっっ!!!!」
さぁ、言ったぞ。
言っちまった。
そう、今ここには俺と愛しいルフィのほかに、この上なく邪魔な人間が一人存在していた。
その男は黒いマントを羽織り、慣れなれしくルフィを後ろから抱きしめている。
全く許しがたい!
「そんなの俺に決まっているだろうに、なぁルフィ」
その男は猫毛のルフィの髪をくしゃりとかきまぜた。
「俺のルフィに触るなっ!!」
数ヶ月前までは、兄弟二人・・・お互い以上に大切なものなど何一つ無かったというのに・・・っ!!!
この赤髪の不良オヤジめっ!!!
「さぁ、ルフィ!どっちが好きなんだっ!!」
俺は頭にきて、ルフィにずずっと迫る。
「え?え?・・・・え?」
ルフィの目が大きく瞬いて俺と不良オヤジを交互にみやる。
そして、ルフィはにっこり一言。
「どっちも好きっ!!大好きだっ!!」
……。
…………違うーーーーっ!!
そういうことが聞きたいんじゃなーーーいっっ!!!!
思わずそう叫びそうになった心を落ち着け、ゆっくりと再びルフィに問いを重ねる。
「ルフィ、どっちかって言ったら片方しか選べないんだよ!」
「嫌だ!両方がいいっ!」
断固として言い張るルフィ・・・。
ああ、お前のその頑固なところも好きだ……好きだが、しかしっ!!
「片方っつたら片方なんだよっ!」
「両方っ!両方がいぃっ!!」
それから俺とルフィは延々と『片方!』『両方!』言い合う。
そんな中、『くっ……』と我慢してたけど漏れてしまった……みたいな忍笑いにはっと我にかえる。
「ルフィ……どうしても片方を選ばなくちゃいけないんだ」
「……どうしても?」
「どうしても」
「……んー」
ルフィは人差し指を頬に当て……柔らかそうなほっぺただ……首を傾げて考え中。
そして。
「エースが好き!」
背後の赤髪の不良オヤジが固まった。
よしっ!!
……が。
「シャンクスが好きっ!」
こら待てぇぇっっ!!!
「両方が好きだっ!!」
結局そうなるわけか!!
……はぁ。
肩を落とす俺にルフィはしししっ!と笑いかける。
ああ、可愛すぎる!!
それが独り占めできないのは何とも悔しいことだが……まぁ、それもこいつがこの村に居るまでのこと。
その間だけなら我慢してやろうじゃないか。
負けたわけじゃないしな。
「なぁ、エースは俺のこと好きっ?」
その夜、同じベッドで眠っていたルフィが問い掛けてきた。
当たり前だろ……そう返そうとしてやめ、ちょっとした悪戯をしかけてみた。
「どう思う・・ルフィ?」
「エースは俺のこと好きだっ!」
自信満々に即答する。
全く……。
「その通り。俺はお前のことが好きさ、ルフィ」
俺の応えにルフィはしししっと最高の笑顔を浮かべた。
そうしてとりとめのない会話をしているとだんだんルフィの瞼が重くなり……規則正しい寝息が聞こえてくるようになる。
「ルフィ・・・」
あどけない寝顔。
……お前は知らないだろうな。
俺はお前のことが『好き』なんかじゃない。
『愛している』んだって。
俺はルフィの柔らかい髪を梳きながら、額にキスを落とした。
「おやすみ」