最強無敵シルバー

それはとても良い暮らし



 日本は、世界最強無敵の国である。
 勤勉で真面目で、そして臆病だったからこそこうして成長できた。
 負けず嫌いもちょっとあった。頑固であったかもしれない。
 でも今は何ものにも追われることなく穏やかにゆったりと、出来れば何もせず・・・そう好きなことだけして引き篭もっていたいというのが第一希望だ。世界情勢からなかなかそれもさせてもらえないが。

「ようこそ菊さん!」
 熱烈大歓迎で出迎えられた日本は、絞め殺されるかと思った。
「…サディクさん、お元気そうで」
 何故か出会った当初から、顔の半分を仮面で隠したトルコを何とか引き離して挨拶をかわす。
「突然お邪魔して申し訳ございません」
「何を水臭いことを!どうぞゆっくりしていって下さいよ!」
「ありがとうございます」
 お言葉に甘えて、と日本は絨毯の上に腰を下ろした。
 目の前には美しい緑の庭があり、その先にはエメラルド色の海が見える。
 綺麗な景色に癒されながら、日本はトルコと互いの近況を知らせあった。アジアに属しているという気持ちの強いトルコではあったが、日本からは遠く離れている。
「菊さんのおかげでこっちは平和そのもので」
 少し前に近所の『聖なる地』を平坦(文字通り)にしてしまったので宗教争いも沈静化しているらしい。
「そうですか。ご迷惑をお掛けしていなければと心配しておりました」
「こっちは大丈夫でさ。それより、菊さんこそ・・・少し疲れちゃいないですかい?」
 ははは、と日本は乾いた笑いを漏らした。
 経済危機やら何やらで、最近千客万来の日本の家に居るのが嫌になってここまでやって来た。
 まぁ、言うなれば気晴らしだ。
「まぁ、ゆっくりしてって下さいや」
「ありがとうございます」
 トルコの好意に甘えて、日本は滞在させてもらうことにした。
 日本がここに居ることを周囲に知られるまでは平和に過ごせるだろう。





 日本に用意された部屋は、宮殿の最奥。邸の主しか出入りを許されない秘密の場所。
 ハレムと昔々呼ばれていたその場所には、現在住人は居無い。
 だからこそ日本が案内されたのだが。
 夜になると、至るところに篝火が焚かれ・・・現代であること忘れさせる。

「菊さん、似合ってますよ」
「はぁ。でもこれ女性ものではありませんか?」
 食事後、風呂に入れられ・・・飾り立てられた。
「似合ってんですからいいじゃないですか」
「・・・・」
 今更着替えるのも手間だろう。・・・服装にはこだわらない日本らしい。
「菊さん、今夜は俺もこっちでも休ませてもらいます」
「ここはサディクさんの家です。お好きなようになさって下さい」
 にやり、と笑うトルコの笑みは穏やかな言い方に隠された猛々しい内心をうかがわせる。
 単に『休む』という意味では無かろう。
「お休みなら、運びますぜ」
「自分で歩けますよ」
「どうぞ遠慮なく」
 退く気のなさそうなトルコに横抱きにされ、日本は寝室に運ばれた。
「楽しそうですね」
「ああ、菊さんを独り占めしてんですから」
 日本は特に抵抗するでもなく、トルコのするがまま、されるがままだ。
「抵抗しねんですか?」
「貴方は優しい。疲れた私をゆっくりと休ませて下さるんでしょう?」
 寝台に下ろした日本を腕で囲んで見下ろしながら、トルコは苦笑を浮かべた。
「…俺はあんたに弱い。でも今日だけは俺の我が儘を聞いて下さい。明日からは菊さんのどんな我が儘でも言って下さってかまわねぇですから」
 請うように頬に口付けを受け、誓うように唇に触れた。
 ふふ、と日本の唇が微笑が漏れる。

「私は、貴方のそういうところが好きですよ」









 一週間後、日本の居所を探り当てた各国に穏やかな平和は破られることとなる。