最強無敵シルバー

冗談は顔だけにしてください


 神秘の国ジパング。
 そこは黄金で出来た都市。

「Wonderful!!」
 アメリカは黒い船の甲板で叫んでいた。
 噂に聞いていた『ジパング』にもうすぐ到着するという。
 オランダやポルトガルに聞いた話によると、さすがに全てが黄金で出来ている訳では無いらしい。
 だが『黄金以上』の価値がその国にはあるらしい。それが何なのか聞いてみたが、行ってみればわかると言われて詳しくは教えてくれなかった。
 そしてジパングと一番に親しいと言われる中国にも話を聞こうとしたが『話すことなど何も無いある!さっさと帰るある!!』と塩を撒かれた。中国はジパングにアメリカを近づけさせたくないらしい。
 ますます気になるじゃないか!!
 アメリカの冒険心が否が応にもむくむくと動き出す。
 そのとき、見えてきたぞー、と誰かが叫ぶ音と共にその方向へと駆け出した。
 港らしい姿がだんだんと近づいてくる。
 あと少し。あと少し!
 ・・・だが、何故か港はそれ以上に近づいて来ない。
 海は穏やかで船は沖へと流されているわけでも無い。
 水兵ともどもアメリカは混乱した。
「Why!いったいどういうことだいっ!?」
「・・・本当に不思議なことで。話にはちらっと聞いていたんですが・・・」
 今回、艦隊の指揮を執るペリーという男が低く唸る。
「どんな話?」
「ジパングという国は『鎖国』をしていて、その国が許可した相手しか決して近づくことが出来ない、と」
「何だいそれっ!ここまで来たのにっ!」
 うーっと決して近づくことの無い港の姿を睨みつけながらアメリカはにっと悪どく笑った。
 それは兄であるイギリスとそっくりだと、周囲には評判の。
「よしっ!砲弾を打ち込もう!」
「な、何を!?」
「だってここで浮かんでたって仕方ないだろっ!脅しさ!」
 ペリーは頭を抱えたが、目の前のアメリカは言い出したら聞かない。
 それにアメリカの言い分にも一理ある。ここで立ち往生していても仕方ない。
 だが、その判断が間違いであったことに二人とも・・・すぐに海の藻屑となって反省することになった。


 威しに、と港に向かって撃たれた弾丸は飛んで行った。うまくいった。確かにそこまでは。
 だが。
 だがしかし。


「何で戻って来るんだいっ!?」
 飛んで行ったはずの砲弾は港に届くかという寸前にブーメランのように有り得ない動きをして自分たちのほうに戻ってくるでは無いか。
 もちろん誰もそんなことは予想していなかった。(当然だ)
 しかも砲弾は飛んで行った時より明らかに勢いを増し・・・火炎砲弾となっている。
 マズイ。死ぬほどマズイ。このまま行けば、確実に沈没する。

「総員退避!!!!」

 という声と共に海に飛び込んだ。
 その直後に、激烈な破壊音と共に乗っていた船が砕け散った。
「・・・・有り得ないよ・・・・・」
 さすがのアメリカも呆然とその光景を見ているしかなかった。







「他人の家に、土足で踏み込もうとする無礼者はどなたかと思いましたら・・・」






 頭上からの声にアメリカは顔を上げた。
「誰だ!?」
「初めまして、と言っておきましょうか。貴方が砲弾を撃ち込もうとした国・・・日本です」
「・・・君が・・・ジパン・・っぶっ!」
 アメリカの頭に何かが落ちてきた反動で、一瞬海面に沈む。
 ぶつかったもの・・・後に判明するが、それは巨大毬藻だった。(自然は大切に・・・とのことらしい)
「ごほっごほっ・・・っ!何するんだ!」
「頭の悪い方ですね。私は名乗ったはずですよ。『日本』と。勝手に名をつけないで下さい」
 海面に出てきたアメリカの正面に、日本は居た。
 黒髪黒目の・・・中国に似た・・・けれどあどけない様子の少年だった。
 国の中でも最長老である中国に次ぐと言われるのが嘘のようだ。
「オランダさんから注意はされませんでしたか?許可なく入ることは出来ないと」
「ベリーキュートッっ!名前は何て言うんだいっ!!教えてくれよ!」
 こんなときでも他人の話を全く聞いていないのがアメリカだった。
 しかし散々酷い目に遭った直後のアメリカの反応に、興味を覚えてしまったのは日本だった。
 普通ならば怯える場面だ。
「何故貴方に私の名を教えなければならいんです?」
「友達になるからさ!俺と友達になろう!」
「友達・・・」
「俺はアルフレッド・ジョーンズ!アル、と呼ぶといいさ!友達になって僕と付き合おう!」



「冗談は顔だけにして下さい」



「照れなくても大丈夫!」
「誰が照れてますか。貴方の目は節穴ですか」
「俺の目に穴なんて開いて無いんだぞ!」
 ここにきて漸く日本は真面目に相手をするだけ無駄、ということに気が付いた。
 相手にせず、引き篭もっていれば良かった。
 日本は嘆息して、どうやってか海面をすーっと歩いていく。

「日本!」

 振り返らなかった。

「今度は花とお菓子を持ってくるから、名を教えてくれよ!」
 めげない精神は立派だった。