最強無敵シルバー

時には流されることも必要です


 自国だけで全てが完結できてしまう日本には、殊更外に出て行く理由が無い。
 引き篭もり大好きな日本が、それでも嬉々として出かけることがある。
 それは『食』に関することだ。食に対する飽くなき探究心。美味を求めてどこまでも・・・。

「突然お邪魔しまして、申し訳ありません」
「ヴぇー、俺菊と会えて嬉しいから全然邪魔じゃないよっ!」
 やって来たのはイタリアの地。日本を出迎えてくれたのはイタリアだった。
「今日はどうしたの~?」
「本場のイタリア料理を堪能したいと思いまして」
 長時間の空旅は疲れるので、日本の技術で戦闘機を飛ばして5時間。それでも遠い。
「それじゃっ俺が美味しいトラットリアを案内しちゃうよっ!」
「よろしくお願い致します」
 イタリアに手を引かれるままに日本は歩き出す。
 イタリアは国としてはそれほど新しいほうでは無いのに、子供らしい。明るく素直な良い子だと思う。
 しかし。
「あの・・・フェリシアーノ君。私は女性ではありませんからエスコートは不要ですよ」
「ヴェー!そんなの関係ないよっ!だって俺は菊が好きで、大好きな菊だからエスコートするんだよ!」
「・・・・・・・・・」
 全く理由にはなっていないが、妙な説得力はある。
 そして、日本は流されやすいタイプでもあった。自分に実害が無ければ。
 今回も「ま、いいでしょう」と受け流してフェリシアーノにエスコートされるまま、彼のおススメの店までやってきた。
「菊は何が食べたい?」
「そうですね・・・」
 日本はさっとメニューに目を通す。
 ここで油断をしていけないのは、イタリアの料理の『量』という問題だ。半端ない。どうしてそれが体の中に入っていくのかがわからない。
 しかし、ここまで来たからには量ではなくて色々な種類が食べたい。
「もしよろしければ何種類か頼んで取り分けて食べませんか?」
「いいよ!」
「では、フェリシアーノ君は何にされますか?」
「えーとね~」
 日本とイタリアはメニューに顔を突き合わせて、それぞれに好きなものを店員にオーダーした。









「かんぱ~い!」
「乾杯!」
 赤ワインを注文して乾杯する。
 日本が一番好きなのはやはり日本酒だが、郷に入りては郷に従え。
 二人とも外見こそ幼く見えるがかなりの酒豪である。よくドイツも混じっているが、だいたい先に潰れるのがドイツである。彼は顔を真っ赤にしながら、知らない間に沈没している。
 前菜のシーフード、手長海老とイカの香草焼きは素朴な味付けながら旬の素材を生かした美味しさで日本は笑顔になって舌鼓を打つ。そしてワインもすすむ。
「美味しいですね」
「良かった~、菊は厳しいからね!」
「いえいえ、フェリシアーノ君には及びませんよ」
 寛大というよりいい加減なのかもしれないイタリアだが、こと食に関してだけは譲れないらしい。
 イギリスで会議があったときには3キロやせたと言っていた・・・ちなみに開催は一日だけだったが。
「でも菊なら、日本に居ても美味しいイタリア料理があるのに」
「ええ。ですがイタリアに来なければ体験できない『味』というものがありますからね」
「ヴェ~凄いね~」
 そして、イタリアと共にする食事が一番気を張らなくても良いというのもある。
 イギリスとアメリカでは食文化自体が問題外。フランスは口説き文句連発でそれをかわすのが食事をするより忙しい。中国は中国で・・・鬱陶しい。ロシアは選択肢にすら入らない。
「でもロマーノが、いきなり空に戦闘機みたいなのが現れて驚いたって怒ってたよ~」
「ああ、それは申し訳ありません。新作が出来上がったというので試運転している最中に突然にこちらへ伺うことを思い立ったものですから」
 失礼いたしました、と菊は頭を下げる。他国がすれば国際問題に発展しかねないが、最強日本に他国を攻めて得るものなど何も無い。ゆえにどこに行くにもフリーパス。
「食事を終えた後に、ご挨拶に伺いましょうか」
「ヴェー!今夜は俺と一緒に過ごすんじゃないのっ!?」
 周辺諸国に子供扱いされるイタリアは、そういう意味ではちゃんと『男』なのだ。
「そうでしたか?」
「菊~酷いよ~っ!」
 泣き出すイタリアに、菊はくすくすと笑い声をたてる。
「もう~、俺は菊のこと愛してるんだからね!」
 素早い動きでイタリアは菊の隣に移動して、その耳元で囁く。
 常態で相手を口説けるというのはフランスと同じだが、その行為がどこか憎めず可愛らしい。
「私もフェリシアーノ君のことは大好きですよ」
「ヴェー!」
 ぎゅ~っ!と抱きついてくるのでよしよしと頭を撫でてやる。
「・・・て駄目ですよ」
 首元にもぐりこんでオイタを働こうとするイタリアの首根っこを掴んでにっこりと笑う。
「お行儀よくして下さいね」
「ヴェ~」
 許しを請うようにイタリアは頬にちゅっとキスしてくる。
 本当に憎めない相手である。
「菊、菊~」
「はいはい」
 イタリアは美食家である。食にも・・・・
「菊を食べたい」
「仕方ありませんね・・・」
 静かに深い口づけを受けた。


 時には流されることも必要です。