最強無敵シルバー
オイタをしたらお仕置きです
日本は穏やかである。少しぐらいの嫌がらせなど笑ってすませてしまう。
しかし怒らせたら誰よりも恐ろしい存在であることは各国の誰もが知っている。
知っていても懲りない国というのがある。それがアメリカである。
「アルフレッドさん。隠れても無駄ですよ。我が国の科学力をもってすればアルフレッドさんを探し出すことなど朝飯前。5分もあれば探してピンポイントでミサイルを撃ち込むことだって可能ですよ」
穏やかに恐ろしく物騒な台詞を言い放った菊に、隠れていたアルフレッドはしぶしぶ姿を現した。
彼は怒られるとわかってい隠れていたのだ。つまり、菊が怒ることをしたと自覚している。
「やぁ、菊!」
「直立不動!歯を食いしばれっ!!」
「え!?オゥゥッ?!?」
容赦なく、菊はアルフレッドの横っ面を殴った。
世界会議だった。
珍しくも、時間通りに現れたアメリカに各国は驚き、更にその左頬が腫れ上がっているのにも驚いた。
視線は一緒に現れた日本にも流される。
どう考えても頬の腫れは日本が原因であるのだろう。
「ねぇ、菊君。ついに愛想尽かしたの?」
にこにこと含みある笑みを浮かべながらロシアが近づいてきた。
「ただのお仕置きです」
「アイツ、何したアルか?」
日本は最強ではあるが、他国のことにはあまり干渉しない。仲裁してくれと言われればするが、自分から何も言われないうちに口出しすることは無い。日本は自分が正義だとは思っていないからだ。
そんな日本がアメリカに手を出すほどに怒るとは。
「アルフレッドさんは、CIAという情報収集機関を有していらっしゃいます。我が国にはスパイ行為を禁止するという法律はございませんからアルフレッドさんの国だけでなく、各国のスパイもいらっしゃいます」
日本は気づいていて見て見ぬ振りをしているのだ。
自国にとって不利なことが無ければ何をしようと自由だ。全ての外国人を締め出すほどに心は狭くない。
話を聞いていた数人が気まずげに視線を逸らした。
「情報は力ですから、それを収拾しようと努力することは認めましょう。ですが・・・」
静かに語っていた日本の空気がオドロオドロシイものに変わる。
「私のプライベートを覗き見するような真似をなさるとは・・・命が惜しくないと仰っていると思ってもおかしくありませんよね?」
ふふふふふ、と不気味な笑い声を漏らす日本に全ての国が一歩後ずさった。
「・・・おい、アル。お前いったい何をやったんだ・・・?」
イギリスが各国を代表して問いただす。
「・・・・・・ちょっと写真を撮っただけなんだぞ」
「ええ、盗撮ですけどね」
何て命知らずな。
各国が心の中で呟きを落とす中、もう一人命知らずが居た。
「え!マジ!?アル、それ俺にもくれよ~菊ちゃんの入浴シーンとか・・・っ」
フランシスの目の前に何かが突き刺さった。
ビーンと音を立てて、重厚な木製の机に突き刺さったのは食事に用いられるナイフだった。
「フランシスさん。貴方の発言時間ではありませんよ」
冷笑と共に日本に告げられたフランシスは両手を挙げたまま固まった。
「アル!菊に謝ったのか?」
「もうっ煩いなぁっ!君は僕の保護者でも何でも無いんだぞ、アーサー!」
「何だとっ!だいたいお前が・・・っ」
「はいはい、兄弟喧嘩は後にして下さい。アーサーさん、ご心配なく。アルフレッドさんには、頬の腫れともどもお仕置きをさせていただきましたので」
「・・・最悪なんだぞ・・・」
あのアメリカが頭を抱えている。いったいどんな『お仕置き』なのか。
「何やったアル?」
「我が国からの輸出を増やして差し上げることにしました。前々から先方よりことに望まれていたことですし、貿易黒字が増えることは特に問題ありませんから」
日本にとってはそうだろう。だが、アメリカにとっては赤字が増え、失業率が増える原因にもなる。
対する日本の失業率は限りなく0に近い。
なかなかにえげつない。
「変なことに手を出す暇があれば、国内の政策にもっと力を入れてくださいな」
締めにぐさりと言っておいて、日本のためだけに用意されている席につく。
日本がその席につけば、誰が遅れていても会議は始める。それが暗黙の了解だ。
「・・・馬鹿アルな。我に言えば菊の写真の一つや二つ」
「王さん。黄砂の嵐を起こしますよ」
「米国とは違って我のは正当に撮影されたものある!可愛い日本とにーにのツーショットある!!」
「・・・と思っていらっしゃるのは本人だけですので、皆さん本気にされませんよう」
にこにこ笑って中国の言葉を打ち切った日本は、会議の開催を宣言した。