最強無敵シルバー
何だか調子が悪いんです
引きこもり万歳!な日本は、出来ることならずっと自国の中で引きこもっていたいと思っているが、世界との関わりがそうさせてはくれない。
今日も今日とて、日英同盟の継続について話し合いをしにイギリスに訪問していた。
上にも下にも置かない対応で出迎えられた一行とは別に、国は国同士でということでイギリスと共に離宮へと案内された。(お見合いみたいだ、と思わないでもない)
調度季節柄、薔薇の綺麗な時で日本はそれを見るのを楽しみにしていたのだが。
はぁ、と溜息をついてイギリスをびびらせた。
「どどど、どうした日本っ!?」
手ずからお茶の用意をしていたイギリスは危うくポットを取り落としそうになる。
「…すみません、イギリスさん。我慢していたのですが…調子が悪くて」
ずきずきとした頭痛が日本を襲っていたのだ。
「何!?」
イギリスは顔を蒼白にさせると、普段のツンデレぶりを打ち捨てて日本の額に手を置いた。
「ね、熱は無いようだな…」
「ええ、少し休めば治ると思います…せっかくの日に申し訳ございません」
最強と呼ばれても謙虚さを失わないのが日本の美徳である。
「無理をするな日本。すぐに部屋の用意をさせる」
「いえ、そこまでは…」
「いいから!大人しくしていろっ!」
珍しく日本に対して強気なイギリスは慌しく部屋を出て行った。
「…原因はわかりきっているのですけどね」
毎年のこととは言え、辛いことに変わりは無い。
世界の中心である日本には、世界が一年に溜めた負の気が集まりに集まり取り込まれるのを待っている。
その容量が最も多くなるのがこの季節なのである。
普段は引篭もってそれらが日本の中に無害なものとして取り込まれ一つになるのをじっと耐えているのだが、同盟の更新期間ということで出ない訳にはいかなかったのだ。
「日本、大丈夫か?」
「ええ、何とか」
「部屋を用意させたからそちらへ」
イギリスに言われ立ち上がろうとした日本は、突然の浮遊感に襲われた。
イギリスにお姫様抱っこされたのだ。
「い、イギリスさん…っ」
「おお落としたりしないからなっ!」
そんなことは心配していない。ただ恥ずかしいだけだ。
しかしイギリスに日本を離す気は無さそうで、暴れるのも大人げ無い。しぶしぶ日本は大人しくイギリスの腕の中に納まったまま部屋まで運ばれた。
「…ちゃ、ちゃんと食べてるのか?」
「はい?」
「…軽い」
「食べてますよ。ご存知でしょう?軽いのは…体格柄仕方ありません」
欧米のように大柄では無いのだ。そして日本のコンプレックスでもある。
「べべべ別に馬鹿にしたわけじゃ…っ」
拗ねたように顔を背けた日本に慌ててイギリスがフォローを入れる。
「わかっております。イギリスさんが私のことを心配して仰って下さっているのは」
日本以外の相手にはどうか知らないが、イギリスが日本に対して嫌味のようなことを言えた試しが無いことはわかっている。いつまで経っても日本に対してよくわからない幻想を抱いているようだ。
「イギリスさんはお優しいですからね」
「俺のことをそんな風に言うのはお前だけだけどな」
素直で無い上に、欧州では傍若無人に暴れ回った歴史があるだけにヨーロッパ諸国のイギリスに対する評価は厳しい。未だに畏れている国々もあるほどだ。
「お前のほうこそ優しいだろう」
「そうでもありません。私はイギリスさんが思っていらっしゃるほど聖人君子ではありませんよ」
日本の近隣の国々はそのあたりのことをわかっているのだが欧州の国々は妙な勘違いをしているようだ。
優しいだけ正しいだけであるだけでは最強無敵とは呼ばれまい。
「…そういうところが気に入っているんだ」
「イギリスさん?」
「ななな何でも無いっ!ここが部屋だっ!」
部屋に待機していたメイドが恭しく扉を上げる。調子が悪くなければ是非にも細かく観察させていただきたいところなのだが残念なことに扉は無情に閉ざされた。
用意されていたベッドに下ろされた日本は、溜息をつきそうになるのを呑みこんだ。
「せっかくの時に申し訳ありません。半日もすれば元に戻ると思いますので」
「気にするな。…菊の調子が悪いと色々な国が混乱するからな。中国なんかに乗り込まれてたまるか」
「ああ…ご迷惑をお掛けしてすみません」
世界でも本当に数えるほどの菊よりも年上な相手は未だに過保護である。何かあれば凄い形相をしてよくわからない漢方を持って乗り込んでくる。そこが日本であろうが他国であろうがお構いなしに。
「菊が謝ることじゃない。気にせず休んでくれ」
「ありがとうございます」
イギリスの気遣いを受け入れ、日本は微笑んだ。
「そそそれじゃっまた後で様子を見に来る!」
照れたイギリスは置かれていた小物入れにぶつかりながら出て行った。
(良い方なんですけどねえ)
横になったまま菊は心の中で呟く。
今回、日本は上司に日英同盟の継続について打ち切るべき時が来ているのでは無いかと打診を受けた。
国としてイギリスと同盟を組んでいる利益が無い、というのだ。
確かにそうだ。だが、それを言えば最初から同盟自体を締結する必要は無かった。
『俺は独りだ。嫌われ者だからな。…別に寂しくなんか無い』
口ではそう言いながら、目は孤独を嘆いて日本に縋っていた。そして彼のまわりに居た有象無象の妖精たちも彼のことを案じていた。だからつい、日本は同盟しませんかと口にしていたのだ。
それからかれこれ100年余りが経過した。世界は多少変わったが、お互いの立場に変わりない。
相変わらず日本は最強無敵であるし、イギリスは孤立している。・・・否、最近は少しずつではあるがEUと呼ばれるヨーロッパ連合に歩み寄りつつあるのか。
「・・・離れるのも離れていかれるのも寂しいですねぇ・・・」
(お前は我が儘あるからな)
そんな空耳が聞こえた。