最強無敵シルバー

青天の霹靂



「大好きです。よろしければ結婚して下さい」

 その一言に会場が衝撃で凍りついた。
 先ほどまでそれぞれが好き放題に話していた連中が一瞬で沈黙し、凍りついた表情のまま視線だけを声の主の方へと向ける。
 その先に居たのはもちろん日本と・・・ブータンだった。
 意外と言えば意外な組み合わせだが、ブータンは日本にとっては非常に仲の良い国の一つでもある。
 穏やかな国民性と外見がよく似ていて互いに親しみを覚えるらしい。
 だが、だからと言って『結婚して下さい』は無い!!!しかも『大好き』て!!
 ……というのが各国の心の絶叫だ。

「どうしたのです、日本?」
 イギリスが言われたなら確実に舞い上がってしまうだろう台詞を向けられた当事者であるブータンは慌てるでもなく日本に首を傾げている。
 チベット仏教を国教にしているこの国の普段着は僧衣だが、国際会議の場ということでスーツを着ている。
 いつまでも年齢不詳な童顔の日本と違って、ブータンは男らしさに磨きがかかっている。羨ましい。
「いえ、ブータンさんとだったら幸せになれるかなあと思いまして」
 何しろ『世界一幸せな国』としても有名だ。
「日本も幸せでしょう?」
「ええ、まあうちの国は幸せですけど……」
 はああぁぁと日本は深い深い溜息を漏らす。
「いつまで経ってもあちこち不穏で物騒でしょう。うちに関係無いところでそれなら良いのですが」
 事あるごとに各国は日本を引きずりだそうとする。
 そのたびにあちらこちらに行かなければならず、引きこもり上等!な日本はストレスが溜まっていた。
 ぼやく日本の疲労感漂う表情にブータンの表情も翳る。
「日本がそれで良いと言うのでしたら……」


「「「っっ待ぁーたっ!!!」」」


 イギリス、アメリカ、中国、フランス、ドイツ、イタリア、トルコ……諸々の国が揃って立ち上がった。
 息はぴったりだ。
「日本っ!そんなに疲れたなら俺のところに来ても構わないぞっ!別にお前のためじゃないからな!」
「うるさいよっイギリス!日本どうしちゃったんだい?ゲームなら付き合うよ!」
「日本、バカンスならフランスにどうぞ。お兄さん手取り足取り腰とり・・・ぶほっ」
 怪しい手つきのフランスは飛んできたイタリアに吹っ飛ばされた。
「にっほーんっ!俺は俺!?おれのことは好きっ!?」
 話がおかしくなりはじめている。ドイツはイタリアの首根っこを掴み会場の外に放り出した。
「日本っ!哥哥は許さないあるからなっ!!お前を嫁にはやらないあるーっ!」
 男だから嫁にはなりませんけれどね、とぼそりと呟いたのをブータンだけが聞いていた。
 ……非常に気の毒そうなのがまた辛い。

「……日本、いつでも遊びに来ていただいて構いませんよ」
「ブータンさん……」
 この騒動の中にあって、その静けさが堪らない。
 やっぱり大好きです、と喧騒を背中にブータンの手を握り締める日本だった。