最強無敵シルバー

毎度出会いはすれ違い



 時は遡り、中国三国時代。
 中国さんもそれはもうその頃は大忙しで……


「あー暇あるな、菊」
「……周囲は非常にお忙しそうですが?」
 中国からの招待状が届いて来てみれば、世は三国時代。あっちもこっちも戦争中だった。
 何処に挨拶に行ってよいかもわからず、とりあえず都に赴いた。
 そこには形ばかりの皇帝が居て、中国も…その頃は王耀と名乗っていた…後宮でお茶を飲んでいた。
 宮殿の外の殺伐さとはえらい違いである。
「だからこそある。権力者が定まらぬうちは我は暇あるな」
 国とはそういうものだろう。
「そっちは平和あるか?」
「ええ、まあ……いつも通りです」
「それならよろし。こっちに来て菓子でも摘むある」
 王耀が指し示した場所には月餅が積まれていた。
 日本も大人しく示された椅子に座り、菓子を摘んだ。
「それで私をお招きになった目的はなんでしょう?」
「暇だったある。話相手になれある」
「……」
 そんなことだろうと思った。










 暇人な中国の相手をするのにも飽きて、日本は宮殿の外に繰り出した。
 都だというのに荒廃した空気が漂うのは時勢を考えれば仕方の無いことだろう。
 大通りに並んでいる市を冷やかしながら歩いていると、ふと手元に影が出来た。視線を上げると大柄な男が菊の手元を覗き込んでいた。

「貴方によく似合いそうだ」
 
 男は櫛を取ると、菊の髪にそっと挿した。
 完全に何か勘違いされている。
「申し訳ありませんが私は女性ではありません」
「美しいものには些細なことです」
「……」
 また変なものに目をつけられてしまったようだ。
「貴方の御名を伺ってもよろしいか?」
 走って逃げようにも体格で劣る菊はすぐに捕まってしまうだろう。
「はあ……菊と申します」
「きく。あまり聞かぬ名だ」
「菊花の菊です。こちらでは少々発音が違いますね。私はこの国の人間ではありませんから」
「そうなのですか。凛とした貴方に相応しい」
「……」
 穏やかに笑いかける相手に反論するのも馬鹿らしい。
 日本は一人で出歩いていたが王耀がそれを許す訳も無い。護衛をつけられていることは気配でわかっていた。
 この男が近づいてきたというのにその護衛が放置しているということは、権力に近い相手なのだろう。
「貴方のお名前は?」
「私は曹植。しがない詩人です」
 ああ、なるほど……と菊は微笑んだ。
 その微笑に男が目を瞠る。曹植の名は知る者が聞けば途端に恐れ入るか媚を浮かべる。
 このようにただ穏やかに微笑まれるという意味がわからない。
「貴方はいったい……」
「私はしがない旅人ですよ」
 男は自分と同じようにはぐらかされたことに、目を瞬き噴出した。
「はははっ、貴方は楽しい方だ。どうです、夕餉をご一緒に」
「美味しいものを食べさせて下さいますか?」
「貴方のお口にあうかわかりませんが、精一杯ご馳走させていただきますよ」
 仲良く並んで歩き始めた菊はふと思い出す。
(そういえば……王耀が夕餉がどうとか言っていましたが……まあいいでしょう)
 王耀との食事ならいつでも出来る。
 しかし今目の前に居る相手とはこれを逃せば二度と出会うことも無いだろう。
 人の命は儚い。
 気づけば彼等は消えている。それでも関わらずにはいられない。

 愛しい、命。